第24話 編み出した作戦とは

「俺はついこの前戦術的話は後にしようといった。それは戦術的有利は実力をひっくり返すことができるが、それは実力を上げる妨げになると思っていたからだ」


 メタと言うものはその一時代を築くことの出来ることができるが、さらにそれの有利を取ろうとするイタチごっこが始まるため、大会の時にたまたま優位な戦法を使っているか、その戦法をねじ伏せるだけの力を持っているかで決まってしまう。


「だけど、昨日発表の通りもう時間はあまり残されていない」


「そのため、俺が今まで研究してきた中での戦術を3人に披露する」


「「「おお~」」」


 パチパチと拍手の音が聞こえてくる。


「3人の戦闘スタイルや、得意な状況を一番活かせるように考えた」


「得意な状況?」


 自分で3人の中では一番実力が劣ると思っているであろう、ISAMIが頭の中で?を浮かべている。周りを見渡せば足りないものだらけの自分に、秀でている部分があるのだろうかと考えているのだろう。


「そう。短いながらもコーチになってから3人のプレイを見てて思ったことがある。特にひまりさんとISAMIさんはもう凄く輝いている場面とそうでない場面が顕著なんだよね。それを見比べてて出てきた物が、強みと弱点なんだよ」


 弱点を理解し克服する以上に自身の強みを理解することが何よりも重要だと考えている。それは、勉強やスポーツとは違いEsportsでは強みを相手に押し付ける戦略が多く、弱いところを突かれないためにどうするかという考え方が、強い風に俺は考えているからだ。


「私たちもなんとなく自分に足らないところは分かっているつもりですけど、そういうのではなくてですか?」


「根本的なものはそれでいいんだけど、さらに深いところまで追求したものって感じ」


 案外他人に自分の評価を聞いてみると、思いもよらない返答が返ってきたりするものだ。冷静に自分のことを評価しようとしても、やはり無意識のうちに色んな思想が混じり正確なものを判断するのは難しい。それは俺も同様に。


「なるほど」


「ねぇねぇ。トモは?」


 ついこの間まで、俺を拒絶していたはずのトモさんが自分の番を待ちきれずにいる。他人からの評価を気にするあたり、年相応の少女だと改めて実感させられる。


「ちょっと待ってて、トモさんは一番最後に」


「ええ~」


 それでも、やはり聞き分けはいい素直な少女は不満の声を漏らしながらもきちんと俺の話を聞こうとする。


「じゃあ、その作戦内容だけど」


 ここからが本題だ。俺がここまで考えてきた中での今一番勝機がありそうだと思った作戦。

 それは。


「まず、エリアポイントじゃなくてキルポイントでの作戦を目指す!」


「え? キル重視で行くんですか?」


 思っていた物とは違う内容だったのだろう。初めに疑問の声を上げたのはひまりさんであった。それもそのはずで、つい先ほど実力が足らないという話をしたすぐ後に、俺は相手を力でねじ伏せるやり方を提案したのだ。驚いて当然だし、俺も自身の案無しでそんな暴挙のようなものに出ていたら、自分でも驚きの声を上げているだろう。

 お前は正気か? と。


「自分たちの中では、本番はエリアポイント勝利を目指して戦うつもりだった」


 ひまりさんだけでなくISAMIさんも俺とは正反対のことを考えていたことをようだ。彼女達も自分たちで考えは共有していたようで、大会の時の動きは前々から話していたようだ。

 俺が加入することは唐突に決まったことだっただろうし、コーチがいなければ全て自分たちで案を出し決めなければならない。それで勝てるか勝てないかは別として、勝つための努力は練習以外にもきちんと積んでいたようだ。


「そうだよ。自分で言いたくはないけど、ファイト力じゃ他のチームより劣っているから正面ファイトじゃ勝てないんだよ。だからエリアに先に入って守りのクルー構成で戦うつもりだった」


 戦っている最中は基本的に猪突猛進ガールなトモさんだが、それでもやはり実践ではそれが通用しないことは分かっていた。それでもこの3人で勝つために思考錯誤をしてきたのだろう。本来の彼女はキルムーブを得意としているにも関わらず。

 改めて彼女らの心意気を否定は絶対にしてはならないなと思う反面、コーチとしての立場をとるのならばきちんと納得してもらう必要がある。信用の無い状態でその作戦を遂行しても勝てるわけがないから。


「キル重視は必ずしも正面同士のぶつかり合いじゃなくてもいいんだよ」


「どういうこと? 今って基本的に3人が固まって集団ファイトでのぶつかり合いを繰り返すのがメタでしょ?」


 広大なマップというわけでなく、且つ1つの勝利条件に含まれるエリアポイントというものがある限り戦闘が起きる場所は限られる。

 戦闘エリアが限られるということは、自ずと3人がその場所に集まる形が自然に組まれる。俺達はそれを利用する。


「それは、このゲームの理解度が低いから他ゲーの戦い方をそのまましているだけで、このゲームではこのゲームなりの戦い方をしなくちゃ」


 リリースされてまだ日が浅いため、まだ手探りの状態で日々戦っている。競技知識が煮詰まったゲームだと、ある程度定石が固まってしまっているため、新しい戦略などが生まれづらい。

 しかし新規ゲームなら、どんどん新しいことを試していった方がいい、いわゆる初見殺しができるため勝率は高くなる。それに、なによりもこれを初めにやるということは、その対処法もおおよそ考えが付き、さらにその反撃もできるため一定の所までは戦略だけで優位をとることができる。


「えー、良く分からないから先に全部喋って!」


「はいはい。え~とっ。基本的にはトモさん、ひまりさんで一緒に動いてもらい、ISAMIは別行動」


「別行動?」


「そう。ISAMIさんはエイムは良いんだけ、良くも悪くも目の前のことに集中しがちだから、集団戦とかで視界の中に敵が3人映っていると誰を狙えばいいかの判断ができず、コールも耳に入っていないことが多い。つまり、焦っていると実力を出し切れていない」


「……それはあるかも」


 俺の意見に思い当たる節があるがあるのだろう。ISAMIさんは俺の言葉を受け止めた後に少し間を開けて肯定する。


「そう。だから一個のことに集中できる状況を作ればいい。ということで、ISAMIさんには開戦と同時にデッキに上ってもらいます」


「デッキ?」


 自身と敵の船舶にあるデッキは中央の争う船舶を上から見ることができる最適な場所である。現状だとエリアポイントに触れることが出来ないし、死角になりやすい場所もあるため、敬遠されがちなポジションである。

 しかし、本当にそれがマップにとって必要のない場所なのであれば、それは初めから設置されていないはず。その意図を汲み取って有効活用できる方法を考え続けた末の作戦だ。散々マップ散歩をした甲斐があった。

 この作戦がハマればだけど……」


「スナイパーでそこから狙い撃ってほしい」


「え? それじゃあ、トモとひまちゃんは2人で3人相手をするの? それって最初から人数不利だから勝てなくない?」


 敵との人数有利を作るのはFPSにおけるもっとも有効的な定石である。実力が拮抗してくればするだけ、その確固たる基盤は崩れない。だが、それは何の遮蔽物もなくお互いがマップによる有利差がない時に限る。


「違うそうじゃない。ISAMIさんにも勿論キルを狙ってもらうが、一番の狙いはそれじゃなくて射線誘導」


「「「射線誘導???」」」


 再び3人の驚きの声が揃った。

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