第23話 コーチの予想

 昨日の突然の公式からの発表でSNSでFPS界隈がバズっている。

 俺ももう一度細々とした文章を隅から隅まで見渡してる。そこには大会の進めや、登録についてやメンバー変更についてなど細かく書かれていた。予選は数週間に渡って開催され、本選決勝は各一日づつでおわらせるようだ。


「結構……いやかなりしっかりしているよな」


 ゲームによっては、公式大会にもなんの情報も出さなかったり、大会一日前とかにルールを変更したりと選手にとって不誠実なことをする運営もあったりする。大会が一か月ごと少し焦っている日程のようにも感じられるが、それでも文章としてここまで分かりやすく、丁寧にしかも質問へのインフォメーションまで着いているとなると文句の付けるところがない。

 これは海外の運営元がしっかりしているのか、日本支部がしっかりしているのか分からないが、どちらにせよ先が見通せるゲームで良かった。


「彼女たちもやる気にみなぎっていたからよかったよな本当に」


 昨日はあの後のスクリムも全敗で終わったが、やはり前回同様内容は悪いものではなかった。なんだかんだ急増チーム多く彼女達も例外ではない中で良くやっている方ではある。それが悔しいようではあるが、反省会もして自分たちの試合も自主的に振りかえっていたので前には進めている。


「さて、そろそろくる時間かな?」


 今日はだいぶ早めに仕事から上がれたため俺は3人の誰よりも早くチャットルームで待っていた。毎日少しづつ出来ることが増えているが予選開始までにどれほどレベルアップができるだろうか。

 選手たちはもちろん優勝するつもりでいるだろうし、はなから負けるつもりで戦っているようでは勝てる試合も勝てないだろう。しかし、コーチの俺は選手とは違いきちんと現実を見たうえで、判断しなければならない。

 そうなると……。


「予選を抜けられるかどうかだよな~」


「お疲れ様です~」


「!?」


 突然ヘッドフォンから声がしてきて驚いたが、どうやら一足先にひまりさんが来たようだ。


「どうしました?」


「いえ、なんでもないです。お疲れ様です」


「トモさんとISAMIさんはまだ来てないですよ」


「そうみたいですね。トモちゃんは家のことやってて、ISAMIちゃんは学校で勉強してて少し遅れているんじゃないですかね」


 この年齢でもきちんとメリハリが付けられているのは流石である。俺はというとゲームのために仕事を惰性でやっているだけの人間だ。彼女達が将来をどのように考えているのかは知らないが、望んだ明るい未来が待っていることを願う。

 それにあたってやはり、1か月後の予選を勝ちぬかなければならない。


「そうなんですね。立派だ。ひまりさんは大丈夫そうですか?」


 2人きりになったからなんとなく聞いてしまったが、言葉にしてから後悔した。少し受け入れてもらったからと言って仲良くなったと勘違いした。俺はただのコーチで、ひまりさんからすればおっさの俺がこんなことを聞いてきたら普通に嫌だろう。

 それこそ、セクハラだと言われてもおかしくないし、自身の内情を知られたくなくて当然だ。


「私ですか?」


「あ、ごめんなさ。変なこと聞いて」


 すかさず謝り、今のことを無かったことにしようとする。


「私は大丈夫ですよ。今は目の前にもっと重要なことがありますから」


 一瞬なんの話をしているのか分からなかったが、俺はすぐに察しがついた。


「本気なんですね」


「それはそうですよ。3人とも本気です。ハクさんは違うんですか?」


「そんな。もちろん本気で勝たせるつもりですよ」


 ひまりさんは普段の立ち位置や物言いから一番大人びて見えていたが、彼女の心にもきちんと熱い心が宿っていることが分かった。そして、その言葉から覚悟も見え隠れしていることも。

 先ほどは、良い未来に繋がっているとなんて思っていた。若い彼女達はまだまだ先があるからゲームでやっていくにしろ別の選択もあるし、そうじゃないにしろ良い経験なればと。しかし、人には今目の前のことに全力を注がなければいけない時が必ずあって、ひまりさんはそれが今だと思っているようだ。


「でも、本選すら厳しそうだと」


「……聞こえていましたか」


 選手たちの前では事実であっても、あまりネガティブな発言はしたくは無かった。精神面が揺さぶられると、実力にも大きく影響を及ぼす。特に若い子であればなおさらだ。だからスポーツや勝負事にはベテランという身体的に劣り始めても活躍できる選手が必ずといっていいほど存在する。

 微妙なラインであったがやはり聞かれてしまっていた、自身の不注意を一叱責する。


「はい。でも、それが正直な今の実力だと思います。私たちはもちろん優勝するつもりですけど、今のスクリムの成績を見ればそれが当然だと」


「スクリムと言うよりかは、経験だと思います。厳しいことを言いますが圧倒的に足らない。さらにそれを覆せるほどの実力もない」


 この際だから誤魔化さずにはっきり伝えよう。彼女をそれを受け止められるだけの容量を持っているし、今欲しているのは慰めの言葉ではないことが分かるから。


「コーチは私たちでは勝てないって思っているってことですね」


 それは彼女からしてみれば耐え難い事実だろう。彼女達は十分に頑張っている。それは本人たちも自覚しているだろう。だが、それでも足らないのが勝負の世界である。さらに、それを自身のコーチに言われてしまえばなおさらのことだ。


「いいえ。僕は勝たせて見せますよ」


 しかし、俺は彼女達を負けさせるつもりは無い。彼女達の敗北は俺の価値の無さも同時に表している。それは、俺にとっても重大なことだ。恐らく俺が今後Esportsの世界にいらるかどうかはこのチームにかかっている。ここで、なんの成果も出せずに終われば次は無いだろう。

 それに、選手たちが死ぬ気で頑張っているのだから、俺も死ぬ気で頑張るのは当然だ。若い選手たちが青春かけてゲームに費やしている姿を見れば、自らと重なるところがあるためなおさらである。


「どうやってですか?」


 恐らく、そんな魔法のようなものなんてないと逆の立場なら思うだろう。


「それを今日全員集まったら伝えるつもりでした」


 だけどそれに近しいものなら示すことができる。

 ここからが俺の本領発揮だ。























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