第19話 攻略? 勝つことに本気なだけ

 ただいまの時刻は午後7時。トモさんとのゲームを終えてずっと寝ていた俺は何かを察知して飛び起きた。今日の彼女達との集合時間まで残り後1時間。


「やっばい!」


 平日休みはだいたいこんな感じの過ごし方ではあったが、それでも今は選手の時よりも責任が重い立場である。


「さっきあんなにいい感じで終われたのにこれで遅刻なんてしたら台無しだ」


 なんらな気持ち早めに居たいくらいにも関わらず今日やらなければいけないことが何一つ終わっていない。俺はベットから出ると慌てて外出の準備をする。毎日毎日コンビニで食料を買う以外にも、買い出しをしなければいけない物はある。日用品やもちろん食料もだが。こういったときにそれらを買い足しておかなければ、仕事の日にゲームの時間をより確保することが困難になる。

 ハンガーにかかっている干してそのままのパーカーを羽織り、鍵と財布だけを持ち普段靴に足を通して最寄り駅の下にあるスーパーに向かう。家の施錠をして駆け足をしようとするが、ここまでで目が覚めてから3分もたっていないだろう。

 俺の肺はすでに酸素不足で激しくポンプを繰り返す。座っているか寝ているかの休日は腰にも悪いようで、歩くだけでも腰の付け根あたりに鈍い痛みが走る。

 スーパーに到着するとカゴを持ち次々に商品をそこに放り込む。あらかじめ買うものは決まっているので迷いは無く迅速に買い物を終わらせる。水、コーヒー、野菜ジュース、カロリーメイト、お惣菜。スーパーに来た時だけは揚げ物と言う高級食材を口にすることができる。これを口にすると普段食べている物がいかに味覚的質素かがよくわかる。

 会計を終えてとんぼ返りのように家に帰宅する。買い物袋を床に置き洗濯機を回す準備をしつつ冷蔵庫の中に買ってきたものをしまう。こういった生活に必要不可欠な動作の時間短縮はお手の物で、電子レンジの中に素早くパックご飯を入れて温めをスタートする。洗濯機を回し、その間に朝浴びたものの明日仕事のためもう一度シャワーに入る。


「ごめん。少し遅れた」


 俺がチャットに入るとすでに3人は揃っており楽し気に会話をしていた。

 俺が来る前もこうやって3人で頑張っていたのだろうと想像がつく。ようやく俺合わせ4人が同じ方向を向けたのだから、変に調子乗ったりしてこの流れを壊さないように注意しなければならない。


「お疲れ様です。ハクさん凄いですねぇ!」


「さすがコーチ」


 俺が入ってきたのに気づくとすぐに、3人は会話を止めひまりさんとISAMIさんが俺を褒めるようなことを言う。おおよそ、それが何を指しているかは分かるがそれでも多少大げさに感じてしまう。


「トモちゃんをこんなにも早く攻略した人は初めてですよ!!」


「うん。オーナーですらお兄さんの手助けあっても時間かかったって言ってた」


 まるでスポコン漫画か何かの一番最後に仲間になる不良役のような言い方である。そういうのはお互いが認め合った後と相場が決まっているが、今回は果たしてそうだったのだろうか? 勘違い主人公ではないが、俺が普通にド下手なゲームを披露していたらトモさんがそれを良いように解釈してくれたというのが正しいような気がする。


「違うよ2人とも別にそういうのじゃなくて。トモ達が勝つにはこいつの力は役に立つっていうだけだし」


「それにしてもだよね。ISAMIちゃん」


「うん」


 2人はまるで反抗期を終えて、ようやく素直になれるようになった娘を茶化す母親のようだ。同じ目標を目指す同志でありながら良き友人同士の彼女らは、昨日心配をかけさせられたのだから、このくらいは良いでしょと言っているように感じる。


「なによりこいつは、ゲームに本気なのが分かるから」


「そうね」


「うん。そう思う」


 トモさんの口から出てきた俺を認める言葉は、どんな言葉よりも言われて嬉しいものであった。その一心でずっとくらいついてきた。それが、強いか弱いかだけの実際の勝負の世界には全くもって必要のないものであると分かってはいても、それだけは他の人に負けるつもりは無かった。


「まあまあ、トモちゃんをイジメるのもこの辺にしておいて、ハクさん。今日もよろしくお願いしますね」


「コーチ。よろしく」


「しっかりトモ達が勝てるようにサポートしなさいよ!」


 3人の微笑ましい会話が終わり、ようやく俺が話す番が来た。


「ああ。頑張るよ」


 既に少女達の前で必要のないことをベラベラと喋る必要は無くなった。あとは俺いかにどれだけのことをやれるかだ。


「頑張るだけじゃ意味ないけどね」


「トモちゃんッ」


「大丈夫分かってるよ」


 やはり、トモさんの前では口から出まかせは通用しないようだ。


「でも、ようやくこれで新体制のスタートだね」


「ISAMIの言う通り! 今日がNeoFrontierの出発点だね」


 俺がコーチに就任したのは数日前で、あなたのせいで結成がおくれたんですよ。などという野暮なことはこのさい言わないでおこう。それに、俺も受け入れてもらえないと思っていたため、ここまで信頼を置いてもらえることに感謝する立場だとすら思っている。

 後はその期待を裏切らないよう、彼女達やオーナーに見える結果を残さなければならない。


「それで、今日はどうするんですかコーチ?」


「えーっと。前回話をした3人で戦うってことと後は連携力を意識しよう」


「え? コーチなんだから戦略的なことじゃないの?」


 ISAMIさんの問いかけに、前回からもう一つ追加した課題を上げると、その内容が思っていた物とは違っていたようでトモさんが疑問を投げかけてきた。


「ゲームってメタがあるから、大会とかが開かれていない現状だとなかなか構成とか戦略の話ってしずらいんだよね」


「なるほどぉ」


 まだ、スクリムに参加している各チームの情報すらまともに確認できていない。やらなければいけないことは山ほどあるが、あまりにも時間が足らなすぎる。

 彼女達のスクリムを見てチームへの助言個々の指摘、自分でプレイして理解度を深め、他チームの研究、環境理解度など上げ始めたらきりがない。


「だから、もう少しこのゲームを分析する時間が欲しいから、それまではやっぱりチーム力を高める練習に趣を置いてほしい」


「励みたまえよ」


 受け入れてもらえたのは嬉しいが、トモさんからのチクチク言葉は止まるところを知らないようだ。























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