第18話 秀でている部分とは

「なんというかさ…………」


 俺は昨日の朝から系30時間ほどはずっと起きているだろうか?

 体力があるのと、ずっとゲームと向き合っていても嫌にならないことが俺の最大の持ち味であった。しかし、徹夜明けからさらにトモさんと2人でゲームをやっていたら気づけば時計の針は午後に差し掛かっていた。

 さすがに眠気と疲労を感じ始めていた。

 ちょうどマッチが終わりロビー画面に戻ってきたときに、ようやく彼女がゲーム内以外で口を開いた。


「お前本当に下手だね」


「へぇ?」


 気の抜けた声が飛び出す。


「これで今までプロやってたの? マジ信じられない。ジャンルが違うとしても同じFPSなのに下手すぎる。基本的に求められるスキルは同じはずなのに………」


 いつも歯に衣着せないトモさんもあまりの俺の下手に絶句しているようだ。今一緒にやったことで彼女のゲームセンスを目の当たりにした後だと、ぐうの音も出ない。ほぼ全てのマッチで彼女によるキャリーであったし俺は彼女のプレーについていくことで精一杯であった。


「本当に下手なんだね」


「2回も言わなくて良くない!?」


 俺が彼女の言葉に何も反応しないでいると、改めて同じことを言ってきた。さっきまでの故意的に俺の悪口を言っていたのとは違い今は心の底から思っているのだろう。


「これが俺の実力なんだよ」


「まさか、ここまで下手だとは思わなかった」


 今この状況は非常に良くない。俺もなぜ、彼女に一緒にゲームをしようだなんて提案をしたのだろうか。今になって少し後悔し始めている。いや、トモさんとの距離を縮めるいい機会だと思ってのことではあった。断られるかなと思っていたが、彼女からも歩み寄ってきてくれたことによりゲームするところまではよかった。

 しかし、俺の下手さは彼女の想像を超えていたようで、これでは俺への不信感をさらに強めただけになってしまった。これでは認めてもらうどころかオーナーへ直談判して俺をクビにしてくれと言われてもおかしくは無いだろう。


「まあ、でもこれで納得は言ったよ」


「なにに?」


 彼女のことだから見限っていきなりチャットから抜けていくことだってありうると思っていた。しかし、意外にもそんな様子は見せずに落ち着いた声で話を続けている。


「オーナーがあんたを呼んだことに」


「それはオーナー様の見る目がないってことですか?」


「バカ! 自分の雇い主に対してなんてこと言うんだ!? それでも社会人か!」


 なんてことだろうか。年下の学生に怒られてしまった。しかもド正論で。

 しかし、そうなるとさらに彼女が言わんとしていることが分からない。オーナーが俺を呼んだ理由はたまたまゲームでマッチしてそこから知ってくれたからであって、ほとんど奇跡のような出会いであった。

 オーナーは俺の実力を買ってくれてはいたが、その実力を当の本人が一番理解できていないから問題なのだが。それはいったい………。


「あんたのコーチングはあてになるって話だよ」


「へぇ?」


 今彼女はなんと言っただろうか? 俺はついに自分の情けなさに耐えきれず幻聴を聞くようになったのだろうか? それか彼女の罵倒に耐え切れず精神を壊したのか。トモさんが急に俺を褒めるようなところを俺は見せてはいないはずだが。


「あんた間抜けな声しかだせないのかよ!?」


「チョット、ドウイウコトダカ、セツメイシテクダサイ」


「ロボットか! というかなんで自分で分からないんだ? 自分の長所だろ?」


「俺の長所……? う~ん」


 俺の長所と言えば、長時間ゲームができることとあとは厚かましくいつまでもこの業界に居続けているメンタルくらいのものだが。どちらも、ゲームの腕が確かならあまり必要のないもののはずだ。


「ゴミみたいなプレイスキルしか持っていないのにプロとしてやっていけたんだから、他に秀でてる部分があったってことだろ?」


「なるほど!」


「なるほどじゃねーよ!」


 なるほどと言っては見たもののそれが何かは未だに分かってはいない。


「あの~。できればそれがなんだか教えていただけると幸いなのですが………」


 端を忍んでコーチである俺が選手にコーチングしてもらうことにする。


「ゲーム。特に競技シーンにおいて頭が良いプレイヤーは絶対に必要でいくらエイムが良い3人が集まっても勝てない。あんたがあの程度のことしかできなくても、ゲーム中の声かけとか動きは確実に私たちをはるかに上回るものだった。そんなあんたがコーチをしてくれるのであれば、私たちはもっと強くなれるってこと」


 トモさんは大きなため息をついてからそう俺に教えてくれた。

 なるほど。


「あんた、褒めてほしいからわざと分からないフリしてたんじゃない?」


「いや、決してそんなことは」


 顔が熱くなるとはこういうことを言うのだろう。真っ赤に染まった顔を誰に見られるわけでもないのに、うつ向いて隠そうとする。

 トモさんの才能は人の優れている所を見抜きそれを言葉に出来ることであった。それに俺が想像していた以上に彼女は素直なようだ。ひまりさんとISAMIさんが彼女のことを大事にしている理由を痛感した。


「ありがとう」


「先が思いやられる」


 きっと画面の向こう側で頭を手で抑えながらうなだれているに違い無い。心の底からこんな不甲斐ないコーチで申し訳ないと思った。


「今日から改めてよろしく」


「じゃあ、また今夜ね」


 彼女はそう言ってチャットから姿を消していった。


「なーんかあれだな。頑張らなければいけない理由がより強まったな」


 ようやくコーチとして認めてもらえるようになった。それは普通は初期の段階から築かれている信頼関係からなるものである。残念ながら俺にはそれがなかったために彼女達に遠回りをさせてしまっていたのだ。こんな俺と卑下はしたくはないが、彼女達を勝たせるために俺は俺の全てを注がなければいけないと改めて思わせてくれる出来事だった。

 選手人生は短い。Esportsは特にそうだ。居座るだけだってそうは簡単ではない。その間に彼女たちがゲームに青春をささげてよかったと思ってもらえるように、後悔を何一つ残させないように勝たなければいけない。


「よーし!」


 改めて気合を入れ直す俺は両手で頬を思いっきり叩く。


「とりあえず夜に備えて寝るか」


 既に体力の限界が近づいた俺はPCの電源を落としベットにダイブした。

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