第15話 男の実力

「なんというか……」


「……ね」


 全4試合が終わりに結果は全敗だった。それもそのはずで彼女らが今参加しているスクリムは30チームごとにTierで分かれているもので、彼女らはTier2という高水準の位置にいる。

 この中でも勝っていかないといけないものの、そんな所にエースの代わりに最弱の元プロが入ったからと言って勝てるわけがない。スクリム中はいい雰囲気でおこなえていたとは思ったが、この反応的にどうやら駄目だったようだ。

 どんな辛辣な言葉が来るか、はたまた慰めの言葉が来るか内心ドキドキしていると。


「「見える景色が全然違った!!」」


 二人乗声が合わさり、想像もしていなかった言葉が飛び出てきた。


「そ、それは良かった」


 それを聞いて俺の方が照れてしまった。なんだろうか。いままでゲームに費やしてきた時間と労力が報われたような気がした。


「味方の報告を聞くだけで、視野が一気に広がった気がする〜!」


「うん。靄晴れたような気がした」


 たった1つの事を意識づけただけでこの変わり様なのだ、これからが楽しみになる子たちだ。


「今まで喋ることもそうだけど、聞く意識って全くなかったかも」


「そう。そうなんだよ。それって人間の機能として元々ツイてるものだから出来て当然ってどうしても思っちゃうんだよ」


「それに目の前の敵と戦いながら喋るって凄い難しい」


 2人の戦い方を見ていると、やっぱり個人技は悪くない。ただチーム戦が驚くほど出来ていない。それでもここまでやってこれたのは、やはりトモさんの実力があってこそなのだろう。

 この2人が自分で考えて試合を構築出来るようになれば、トモさんの力も余すこと無く使えるようになるだろう。彼女にも欠点があるが、それを無くすより長所を伸ばす方がいい彼女には合っているような気がする。


「ハクさんはなんで、こんなに色んな事知ってるのにクビになったんですか?」


「え?」


「あ」


 ISAMIさんからすればふと出てきた素朴な疑問だったのだろう。しかし、それは余りにも俺の心深く迄突き刺さる鋭利なものだっった。


「え〜とっ……。俺のプレイ見てて理由分からなかった?」


「ああ〜、ハハハ」


 いつも淡々としているISAMIさんも、今だけは焦りを見せながら乾いた笑いをこぼしている。


「ISAMIちゃん!」


 これを俺に直接言わせるとは彼女も中々の人材のようだ。こういったトモさんとは違う形で、俺に攻撃してくるとはやっぱり俺は嫌われているのだろうか。

 まあ、冗談は置いておいて。


「これで身に染みて分かったでしょ? 結局の所は皆がやっているようなエイム力が必要になってくるって」


「ごめんなさい。ISAMIちゃんも悪気はなかったんだと思うんです」


「すみません」


 悪気がなくこの言葉が出る方が問題ではないだろうか?


「いや、全然なんとも思ってないから大丈夫ですよ」


 なんだか、俺がいじめられていたはずなのに俺が悪いことをしたかのような気分になってきた。


「知識があってもエイムが無ければ勝てない。だけど、そのエイムを活かすのが知識の上に成り立つ行動なんだよ」


 いくら投球フォームが良くても体ができていなかったら速い球は投げられないし、その逆で体ができていてもフォームがぐちゃぐちゃなら速い球は投げられない。

 最終的にはどちらかに秀でることになるが、それは長所を伸ばすのか短所をなくすのかでも話は変わってくる。どちらも未熟ならば頭打ちになるまでは両方を満遍なく伸ばす努力をするべきだと思う。


「でも、今日のこれには感動した。今まで自分たちがどれほど何も考えずにプレーしていたかよくわかった」


 ゲームをしていれば自ずと身に着くかもしれないことではあるが、それまでの道のりは思いのほか長い。それをコーチである俺がいることにより近道ができるのであれば、それに越したことはないだろう。


「本当に。ハクさんの言う通りにしていけば勝てそうな気がします」


 これほど言われて嬉しい言葉は他にないだろう。


「そのために俺が来たんですからね。俺の実力がもっとあれば説得力もあるんだけどねぇ。それが無いから信用しずらかったよね」


 なんとも、今はすでに全ての信頼を勝ち取ったを言わんばかりのセリフである。少し2人との距離感が縮まったからと言っていい気になっているのが丸わかりだ。

 今までのプロ活動を通して一番自分の存在が認められている瞬間ではある。

 だけど、なんだかそれでは満たされない何かが心の奥にあるような気もするが、それが何か見当たらない。


「いえ、そういうわけではないんですよ。ただやっぱり私たちも初めてのプロとしての活動ですし、それにコーチも初めてですからね。だから右も左も分からない中なので」


 俺も不安ではあったが彼女らも不安であったのだ。俺にはもう1人越えなければいけない相手がいるが、改めてこれからいい関係を築けて良ければなと思う。


「3人はどういう経緯で集まったの?」


 なんとなく疑問に思ったことが、そのままぬるりと口から出てきていた。


「私は、もともとPCゲームをやっていて、そこで女の子のコミュニティでトモちゃんと会って一緒にゲームをやるうちに仲良くなって誘われたって感じですね」


 ひまりさんが元々PCゲームをやっていたというのは、なんだか意外であった。女子コミュニティという言い方的に恐らくPvPのゲームだろう。この界隈で女性は珍しいので、上手くなっていけば自然とお互い目に着くということは多い。

 そこで仲良くなり、競技に参入してくるあたり彼女も印象と異なり勝気な性格なのかもしれない。競技界隈にとってはとてもこれ以上にない良いことだ。


「自分も似たようなもの。モバイルゲーの同じクランに入っていてそこから仲良くなって、違うゲームをしようってことでPC買ってそこから、なんとなくここまで来ちゃった感じ」


「それでPC買ったの!?」


「うん。今まで欲しいものがなくて初めて買ってもらったもの」


 こちらもこちらで驚きだ。

 ゲーム歴が短いとは言っていたが、まさかプロになるためにPCまで買うとは。遊びではないことは一目瞭然だし覚悟が違う。


「それにしても2人ともトモさんからなんだね」


「トモちゃんは凄いから」


「うん。ここまで本気になれたのもトモのおかげ」


 2人にそこまで言わせる、少女の実力も申し分ない。

 たまたま声をかけられたから入っただけのチームであったが、本当に未来が見据えられるチームかもしれないと改めて思わされた。





















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