第5話 下準備

 その日のオーナーとの会話はそれで終わった。

 チームの女の子達にはオーナーから話をしてくれるらしい。とりあえず、通話のグループに招待された俺は、そこに参加することにした。後日顔合わせをするから、今は軽い挨拶のみで終わらせたのだが、とくに返信は無かった。ゲーマーは常識的に欠けている人が多いから驚くほどのことではなかったが、女性のほうがそういった所はきちんとしている人が多いと勝手に思い込んでいた。

 自分で言うのも、あれだが俺はかなり社会性があるほうではある。


「さて、明日からまた仕事だから早く寝るか」


 シーズン中であれば、夜9時からは始まる公式練習であるスクリムに参加して、反省会をした後に就寝だったため早くても寝るのは1時過ぎであった。しかし、それに参加する必要がないため11時を過ぎたあたりでベットに潜り込んだ。

 電気を消し目をつぶったその時、ふと頭に浮かんだことがあった。


「明日の夜に顔合わせがあるのに、なにも知らないままじゃマズイか?」


 これから俺がコーチをする選手のことを何も知らない状態では失礼じゃないかと思い、俺は少女たちの配信をちょっと覗くことにした。机の上に置いてあるスマホに手を伸ばし、少女たちのSNSアカウントをから配信サイトへと飛んだ。


「あれ? 今日はしていない感じか?」


 言われてみれば今日は日曜日だからスクリムは休みなのかもしれない。俺がやっていた時も、土日は休日としているチームも多かったため、参加チーム数が集まらずスクリム自体が開催されないことも時々あった。

 そのため、過去のアーカイブを見ようかと思ったのだが、それよりも目についたのがハイライト集があったためそれを見ることにした。どうやらこれは、少女たちがチームに加入したときに作ってもらったやつのようだ。

 彼女たちも加入2か月くらいしかたっていないようだ。


「おお~。普通に上手いな」


 三人分のハイライトに目を通すが、下手するとプレイング技術だけなら俺よりも上手いかもしれない。

 ハイライトとはもともと上手いところだけ切り抜いているのだから、うまく見えるのは当然ではあるものの、視点移動やフッリクの正確さなどは見て取れる。そこを踏まえても実力はかなりあるようだ。


「うわ~。これ本当に俺が出る幕はあるのか? 作戦立てるにも俺は全くの素人だぞこのゲーム。……あっ!そうじゃん!」


 俺は再びとあることを思い出してベットから飛び降りてパソコンをつける。


「このゲームやったこともないなんて話にならないよな。インストールしなきゃ」


 基本プレイ無料のこのゲームは、PC、CSと機体を選ばずにできるゲームだ。初めは爆発的なアクセス数を出していたものの、戦略性が高いゲームのためカジュアル層には難しすぎるという理由からプレイヤー数が減ってきている。

 しかし、それに対して上手いプレイヤーのプレイを見るいわゆる、見る専が流行っており、プロやランクマッチ上位帯では配信などの接続数が高い状態をピークしている。今までにない種類の盛り上がり方をしているゲームである。これもEsports業界が盛り上がっている良い証拠ともとれる。


「これ、明日会うまでに少しやっとかないとまずいな」


 オーナーが俺を見出してくれたように、もともとゲームの戦略を考えるのは好きなタイプだ。だからこそ、絶対にハマると思っていてあえてこのゲームには触れてこなかった。シーズン中に他のゲームをやるなんてありえない話だったから、まさかこんな形でこのゲームを触るときが来るとは思わなかった。


「ちょっと動画とかで見ていたから、なんとなくは分かっているもののって感じだな」


 すぐさまダウンロードが終わり、起動する。オープニング画面には戦闘を繰り広げる舞台設定である船が大きく映し出される。

 マウスをクリックして次へと進めていくと、さっそく実際にキャラを動かしながらゲームの説明を受ける訓練画面に入る。


「おお! 結構リアルだな」


 船のデッキの上で俺が操るキャラの視点で見渡す。一人称視点のため、慣れない人は酔いを感じるかもしれないが、ずっとFPSをやってきた俺からすれば大したことではない。

 WASDキーで動くのは変わらず、ジャンプ、しゃがみ、伏せまで他ゲーと変わらないこと確認する。

 このゲームのコンセプトはで海の上で船を奪い合うというもので、最終的な制圧エリアポイントとキルが規定数に達することで勝敗が決まる。


「キャラは何体かいるのだけは知ってるんだけどな」


 俺の目の前には相手チームの船への連絡通路が設置されており、ここから相手サイドに攻めていくようだ。そして、その横には武器が陳列されておりスナイパーから、アサルトなど様々な特徴を持った武器が並べられているが、その中で1つ気になったものが。


「こんなのまであるのかよ」


 そこにあったのは日本人が一番カッコいいと感じるフォルムである日本刀がおいてあった。


「こりゃ、配信者達がこぞって使ってるに違いないな」


 これがどれほどの性能を持っていて、対戦においては実用性があるのかは分からないが、これで敵をなぎ倒していく爽快感ほど配信映えするものはないだろう。

 試しに手に持ち数回振ってみるが、動作も早く爽快感がある。これはタケルを誘って今度一緒にやってみなければと思い、刀を下ろす。


「こんな事やってちゃダメだ。ひとまず全部触ってみないとな」


 それから、俺は10種類くらいある武器を全て触った。メイン武器の他にナイフか拳銃は持てるようだが、刀はメイン武器扱いみたいだ。

 いまのところはこれと言って癖の強い武器はなかったが。


「結構近距離戦をメインで考えている割には、スナイパーがめっちゃ強いな」


 もう一つのあこがれ武器であるスナイパーはヘッドショット一発で相手をキルすることが出来るため、終盤に差し迫ると逆転の機会が増える強力な武器だ。すでに数回はアップデートをしていると思うから、これが今の環境なんだろう。

 武器を一通り触り次はゲームシステムの解説に入る。

 船にかけられた橋を渡ると、大きく四角に強調表示された場所があった。


「ここが第一ポイントか」


 それは、周りには遮蔽物があるものの、ポイントが加算される場所には外からの射線を切れるものは何もない。

 そして、そこのさらに奥にある船頭の所はポイントに加算が付く。


「これが、自分の方にもあってお互いが攻め合うって感じか。両方のエリアを合わせるとマップ自体は結構広いな」


 今はまだこの一つしかマップが無いらしい。戦闘するうえでマップが頭に入っているかが一番重要なため、端から端までくまなく探索する。


「ああー、これがあるからスナイパーが強いのか」


 俺が特に目についたポジションはマストの先端にある見張り台のような場所であった。FPSにおいて高所をとるのことは常識とされており、基本中の基本である。それプラス、このマップの構造上そこに登れば、自陣のエリアと船通しの連絡路を見渡すことができる最強ポジションになっている。


「これ、エイムのいいスナイパーいたら勝てないんじゃないのか?」


 初見の俺はそんなことを思いつつも、さすがにそんな致命的なミスは犯していないであろう。そのために、スキルを使えるキャラがいるのだから。


「探索はこんなところにして、さっそくプレイしてみますか」


 俺は、寝ようとしていたことなどすっかり忘れ、時間も気にせずプレイし始めてしまった。


















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