第4話 出された条件は……

「おお! 本当かね!? ありがとう!」


 ヘッドフォンから喜びの声が聞こえる。チームに捨てられてすぐだからか、こんなにも俺の加入を喜んでもらえていることに照れくささを感じる。


「これで、ようやくすべてのピースが揃ったよ」


「それで具体的になにを?」


 コーチと言われても、具体的に何を求められているのだろうか。このチームは前シーズンは参加していなかったから全くのプロ初心者チームなのか、それともプロをしていた選手を集めてきたのか。それによって俺のやることも変わってくる。

 戦術や反省会の補佐だけであれば、すぐに対応することができるだろうが、技術指導となると話は変わってくるのだが。


「君には・・・の女子チームのコーチをしてもらいたい」


 ……ん? 今なんて言った?


「……え? ちょっと待ってください! それって半年前にリリースされたゲームですよね? 大会開かれているんですか? しかも女子チーム?」


 またもや、俺の頭を困惑させるような言葉が出てきた。しかも続け沙汰に。

 最近では趣味を聞かれてゲームと答える人も多くなってきた。実際配信者や大手プロチームに選手として活動している女性もいる。だが、圧倒的に市場規模が小さい。時々女性限定の大会はあるものの、一般的には男女の境目は無い。


「てっきり、今のタイトルの話かとおもったんですが!?」


「いやいや、内は新規チームでこれしか持っていないから」


 混乱のまま勢いよく話す俺に対して、オーナーはいたって冷静であった。これが通話だからいいものの、もし対面で話していたら彼に詰め寄っていてもおかしくはなかった。

 現に椅子から立ち上がり机に両手を付いて画面すれすれまで顔を近づけていた。こんなことをしてもオーナーには一切見えていないにも関わらず。


「ごめんなさい。了承はしましたが、ますます僕が呼ばれた理由が分からないです」


 ふと我に返り、椅子に座り直した俺は改めて思ったことを口にする。FPSは求められるスキルや考え方が似ていることが多い。そのため別ゲー出身の選手がコーチで成功することも珍しくはない。

 さらに、リリースしたばかりのゲームでは新規参入者よりも別ゲー移行してきた人の方が積み上げてきたものが多いため有利ではある。

 だけど、理想と現実は違う。他がそうだからと言っても俺がそうなれる保証はない。


「大丈夫君なら出来る。僕は信じている」


 そう言い切られてしまったら、自分の自信の無さを他のせいにしていることが透けて見えてしまい、より一層自身が情けなく思えてしまう。


「そ、そうですか」


 了承してしまった手前、やっぱり無しとも言いずらい。こちらからすれば何ら悪い条件ではないのだから。だけど、やるからには勝ちたいし、コーチをするのであれば選手を勝たせたい。

 果たして、それに真剣になれるだけの環境が用意されているのだろうか。

 また前回みたいな目指すところが違う状態で戦い続けることはしたくないのだ。


「まあ、とりあえず仮契約で一か月どうかな? ちゃんと少ないながらも報酬は出すよ。もしそれでもダメなら改めて伝えてほしい」


「……分かりました」


 ここまでの条件を出されてしまったら、NOとも言えなかった。しっかり考える時間も与えてくれる辺りかなり良心的だとも思う。俺を都合よく使おうとしている可能性もあるが、酷い目に合わせようとは考えていないようだ。


「ありがとう」


 今日話したばかりの人ではあるものの、なんだか信頼ができそうな雰囲気を感じ取った。プロになって大成したい、有名になりたいと思ったことは無いが、これからは俺個人だけでは無くチームのために働かなければいけないことを改めて意識しなければならない。


「ハク君は、プロに必要な物って何だと思う」


「勝つことだと思います」


 話の路線が少しずれ、唐突な質問が飛んできたがこれだけは即答できる。

 これが俺がプロを目指したきっかけであり、プロを続けたい理由だ。


「うん。そうだね。それが一見最も正しい。だけどね、僕は違う答えを持ち合わせている」


 急に声色まで変わった。先ほどまでの、まるで友達と話しているかのような感覚に陥らせる話し方とは違い、今は大人と大人が真面目な話をするためのものだ。


「それは、なんですか?」


 世の中には必ずしも正解は無いかもしれないが、これだけはゆるぎない正解だと思っている。


「う~ん。言ってもいいだけど言っちゃうとそれが君の答えになってしまうからな」


「でも、オーナーの答えが企業方針になるから、それを教えてもらわなければ」


 そんな重要なことを聞いておきながらももったいぶるオーナーに多少の苛立ちを覚える。こちらは真剣に話をしているのに、なぜそんなことをするのか。

 やっぱり、この人もチームを持っているというステータスが欲しいだけではと疑いの目を持つ。


「そうだね。君の言っていることはもっともだ。だから、僕はここでその答えを言わない代わりに君に3つのお願いをするよ」


 1、合法なやり方でチームを有名にしてほしい。

 2、大会でも結果を出す。

 3、少女たちを辞めさせない&少女達第一優先で物を考えて欲しい。


 オーナーから伝えられた内容はこの3つであった。なんともシンプルであり、わざわざ言われなくても分かっているようなことばかりであった。


「この3つを念頭に置いて活動してほしい。別途お願いすることはあると思うが、話があればいつでも聞くし、成功報酬もきちんと出すことを約束するよ」


「分かりました。とりあえず一か月間全力で頑張らせてもらいます」


「うん。よろしくね!」









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