最終話
ウルフとて、シーラカンスから受けるただものならぬオーラには気圧されずにはいられなかった。
たとえ自分が強いとわかっていても、相手の実力がそれ相応のものとあれば、油断はできないというものである。
・素人ながらわかる、これはかなり熱い戦いになると
・大丈夫なのかな、ウルフ
・今回に関しては不安だな
探索者シーラカンスは、基本的に動かない。相手の攻め方に合わせて、タイミングをずらす。相手のペースを乱すことで、自分のペースに持ち込むというのが戦い方だった。
(こいつ、掴みどころがない)
すでに戦闘は開始されていた。モンスターと戦う際とは違う同様が、自分の中を渦巻いていることがわかった。
正直、この戦いに勝てるかどうかは怪しいと、ウルフは踏んでいた。
別に実力的にかけ離れているわけでもないし、特段優れた技を持つわけでもないシーラカンスだ。
が、自分のペースというのはなんだかんだ重要なものであり、ここをいかにキープできるかどうかが、今回の鍵となるであろうことは、容易に察しがついた。
「喰らえ」
ウルフの拳。飛んでくる。それを、シーラカンスは目を瞑ったまま動かずに構える。
(よけないのか?)
これがシーラカンスの戦闘スタイルだとわかっていても、動揺を隠すことは難しい。このままでは拳が顔面に直撃し、タダでは済まない。骨は何本か持っていかれることは確定している。
(だというのに)
直前になってようやく、シーラカンスは目を開けた。最小限の動作で、ウルフの拳を受け止めた。
「反撃か」
「その通り」
ウルフの拳を掴んで、ほいと放った。軽くはない。凄まじいスピードだ。壁に激突しないよう、ウルフは体勢を整えた。
摩擦やらなにやらで、崩れた外壁が何箇所かあった。壁を構成していたレンガのようなものが、床に転がった。
なお、体勢を整える際に、ウルフは床で何度かバク転したのだった。
・なんともアクロバティックな
・レベル高くないか
・シーラカンスの強者感がすごいな
・ちょっとペースを乱されてるかもしれないな
「茉理!」
今度は茉理が動く。魔光剣が、華麗な模様を描いていく。シーラカンスの動きを予測して、剣を動かす。が、シーラカンスはそんな茉理の予測を把握していた。
「一枚上手なのは、こちら」
「がっ」
軽く蹴りを入れられる。茉理にとっては、手痛いものだった。
「なかなか強いらしい、シーラカンス」
「私は全然動いていない。技も数種類だけ。でも、あなたたちは疲れている」
・このふたりを持ってしてもきついのかよ
・おいおいおいおい
・最強の暗殺者も名折れかな
・まさか、これでジ・エンドとはいわせないぞ
この広いボス部屋の中を、ウルフたちは駆け回った。
が、なかなかシーラカンスにはダメージを与えられなかった。苦しい展開であることに違いはない。
一見すると、ではあるが。
「疲れている。かなり形勢的には怪しい。いまのところは、な」
「なにをいっている」
「ウルフ!」
・ここにきてなんのつもりなんだ
・勢いだけあっても、中身が伴わないとダサいだけだぞ
・いったいどうするっていうんだよ
「ここまで、俺たちがむざむざやられていただけだと思っているつもりか」
「なんだ、なにをいっている」
「勝負というのは、始まった段階で決着がついてるというものだ」
・おっと?
・流れ変わるか
「決着ならついたはず。あなたたちに勝ち目はなさげ」
「それはどうかな」
「っ!?」
さきほど、吹っ飛ばされたときに崩れたダンジョンの壁。そこでできたのが、いくつかのレンガのようなもの。
「そろそろか」
いうと、シーラカンスの頭上からなにかが降ってきた。
鈍い音とともに、シーラカンスの脳が震えた。
すかさず茉理が踏み込む。魔光剣を展開して、首元に突きつける。
「覚悟」
「なるほど、そういうことか」
「そうだ。お前が注目していない間を見計らって、タネを仕込んでおいたんだ。高い位置から落下すれば、ダンジョンの壁だって武器になるということだ」
・やるやん
・ちょっと姑息な感じはあるけど、さすがウルフだわ
・シーラカンスも不意をつかれた感じかな
「なかなかやるね、ウルフ。そして茉理。私の負けだ」
しゃあ、とウルフは静かに喜んだ。茉理もまた、同様だった。
・カメラはこの決定的瞬間を捉えているんだよなぁ
・やっぱり楽しそうな茉理ちゃんは素晴らしいね
・勝利を手にしたふたりは輝いてるな
「いい勝負だった。自分の弱さと、足りなさを痛感した」
「それならよかった。私も同じ。てっきり勝てると思ってた」
「残念だが、俺たちは最強になる予定のふたりでね」
「納得だわ」
かくして、配信における鳥飼ダンジョン編は終了となった。
「終わったな」
「ええ。まぁ、これからなんでしょうけど」
シーラカンスと別れて、ふたたびアジト(なお新しい場所)に戻ったふたり。
新たなダンジョン、探索者との出会いが、これから待ち受けている。
「掲示板もSNSも大盛り上がりだ。特務機関の時代がやってきたな」
「厳密には私たちの時代でしょう? トゥエルブは死んだんだもの」
「そうだな」
お茶ができております、と執事が告げた。
「まぁ、周りの評判がどうであろうと、俺たちのやることは変わらないな」
「強くなることでしょう?」
「ただ強くなればいいんじゃない。最強だ」
広がる夢。新たなダンジョンを目指せば、新たな能力がまた必要になるだろう。
そして、国内のみならず国外に飛び出せば、また新たな世界が広がってくる。
「最強になるまでは、しばらく修行だな」
「私に愛想尽かされないようにね」
「茉理はそんなことしない」
「よくわかってるわね! あぁ、こんな男どうしてペアになっちゃったんだろ……」
まだまだ、ウルフたちの最強探索者への道は続いている。
伝説の俺様系暗殺者、ダンジョン配信はじめました〜相棒のギャルJKと強敵を狩まくりバズったのに、なぜか偽物扱いされている〜 まちかぜ レオン @machireo26
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