第26話 強い探索者に不意をつかれるイベント発生!

「鳥飼ダンジョン、攻略成功か」

「よくやったわね、私たち」

「違いない」


 鳥飼ダンジョンの最下層にいるボス、ドラゴンを倒したふたり。いよいよ別のダンジョンへの道が開けるというわけである。


「これで、世界最強の探索者を目指す夢というものに、一歩近づいたといっていいな」

「もしもここで負けていたら終わりだったでしょうね。ここで勝つのが、最低限の条件っていうやつじゃないの?」

「その通りだ。勝たないと困っていたな」


 ・あんな強いかったら負けるはずない定期

 ・まだトゥエルブの方が強かっただろう


「トゥエルブと比べてはいけない。あれは俺たちのボスだった男だ。俺たちより実力があって当然だ。勝てたのは、奴が最盛期から衰え、反対に俺たちが強くなったからだ。負けていてもおかしくなかった」


 ・やっぱり最近謙虚さが顔を出しているらしいな

 ・まぁ、ドラゴンは弱点がはっきりしいているし、罠さえ気をつければ意外と大したことないって評判だしな

 ・本番はこれからってところだろうね


「俺たちは、モンスターに勝てる力を身につけていく必要がある一方、探索者に負けない力も必要だ。わざわざ戦うことはないにせよ、もし戦ったときに、負けるようじゃ最強とは言えないだろう」

「探索者との戦闘って、かなり相性に左右されるところもあるんじゃないの」

「相性さえも凌駕する実力を身につけていきたいものだよ」


 ・ウルフたちってあんま弱点ないよな

 ・遠距離戦とか苦手そうじゃないか、ウルフとか

 ・茉理ちゃんは魔光剣一本だしなぁ、探せば弱点とかありそうかも

 ・奴らは圧倒的な実力でねじ伏せているだけだもんな


「遠距離が苦手、か。あながち間違いではないな。俺の戦闘スタイルからして、近接に持ち込まなければ、あまり戦えるものではない」


 ・やっぱりそうか

 ・よし、時代は遠隔だ


「が、近接ばかりをやるからといって、遠距離と張り合えないとはひと言ともいってないが」


 手を無造作に開くと、すぐさま風の魔法が出た。ダンジョンの壁がごっそり削られる。


「見ての通りだ。俺は、近接戦闘でカタがつくから使っていないだけであって、他の戦い方だって不可能ではないのだ」


 ・遠隔ウルフ新鮮だなぁ

 ・隠し持っていたのか、その能力!

 ・なんだよオールランダーなのかよちくしょう!

 ・ウルフに勝利する計画はわずか数分もしないうちに破綻するであった(終)


 ウルフは最強とも呼べる暗殺者であった。基本的には接近戦を得意にしていたが、そればかりでは相手にならぬ連中もゴロゴロいる。


 遠くから狙い撃ちすることだって求められたし、不可能とでもいえるような離れ業をやってのけてきた男だ。


「倒せるものなら、一度戦ってみたいものだ。圧倒的な実力を持つ探索者と。鳥飼ダンジョンをクリアしたわけだ。次は対探索者との戦闘でも頭角を現していきたいな」


 ・すごいやる気だな

 ・誰か来ないのかな

 ・【東京を泳ぐ魚】じゃあ、いこうかな


「ん?」

「どうしたの、ウルフ」

「投げ銭コメントが意味深なんだ。俺が敵を探していたタイミングで、自分が行くと抜かしている」

「大丈夫? イタズラとかじゃない?」

「わからないな。見たことある名前ではあるな」


 刹那、ウルフは背後に殺気を感じた。


 しゅん、という音とともに、ウルフの首から細い血が流れた。


「誰の、仕業だ」


 次の攻撃は、茉理にきた。


 また同じ音がして、今度は足元から細い血の筋が。


「新手の探索者か? 俺たちふたりに傷をつけるとは、ただ者ではないらしいな」


 タイミングがよすぎる。【東京を泳ぐ魚】がコメントをしてからわずか十数秒。関係性がまったくないと、ウルフはいい切れそうにはなかった。


「何者だ、名乗れ。戦うなら正々堂々とだ」

「いいよ」


 いって、ウルフの前と茉理の前に、探索者の姿が現れた。


 やけに影が薄く、亡霊のようだった。


「私の名前は【シーラカンス】。長い時を泳いできた魚」

「あんたが、【東京を泳ぐ魚】、というわけか」

「その通り」


 白い髪を持つ、儚げな人物だった。中性的なフェイスであり、生気がないような見た目をしている。まるで病人じゃないか、とウルフは思うのだった。


 ・シーラカンスさん!?

 ・生きていたのか

 ・最強格がきちゃったよ

 ・強い者同士惹かれ合うってやつか


「目的は聞くまでもないな」

「ええ。あなたは強い相手を求めている。私も、久しぶりの戦闘で肩慣らしをしたいと思っている」

「力を試し合う意思はあると」

「そう。別に、あなたたちふたりを殺すつもりはない」

「こちらも同感だ」


 あくまで、実力を試してみたいというのが、両者の望みなのだ。ここでどちらかのサイドの生命が失われるとしたら、日本の探索者界隈にとっての大きな損失になる。


 追及される責任は重い。それより、これからも友好的な関係を築いていきたいと、どちらも思うのだった。自分の実力を上げうる相手だと、よくわかっていたのだから。


「きっとあなたたちは、次のダンジョンに向かい、新たなステージを求めるはず」

「よく配信を見ているな。実にありがたい」

「次のステージに進む前に、私が実力を試す。それだけ。ずっと眠っていては、体も鈍るというもの。覚悟はいい?」


 :シーラカンス、睡眠期間だったか

 ・なんだよ死亡説とかなかったのかよ

 ・というかウルフの配信を見てたんかい

 ・起きてはいたらしいのか


「望むところだ」

「私も」

「鳥飼ダンジョンと区切りをつけるうえで、最後の戦いになるな」

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