第25話 鳥飼ダンジョンを攻略した配信内!
首元を狙え!
それが、鳥飼ダンジョン階層ボス攻略における重要事項のひとつだ。
最下層に辿り着くまでに有した時間は数日である。さすがに下へいけばいくほど、強い敵にぶち当たることも多くなってきた。
戦闘に続く戦闘では、体の疲弊や集中力の低下は避けられない。幾度か配信を止め、腰を下ろして仮眠をとり、なんとかやってきた。
こうした無茶が効くのは、ダンジョン内までワンタッチで物資が届くシステムのおかげである。ダンジョンというオーバーテクノロジーは、物質の瞬間移動を可能にしたのだ。
「いよいよ、次がラスボスになる」
「倒せるかしらね」
「倒せなかったらそれまでだ。潔く死ぬしかないな」
「諦めが早いのね、今回は」
「無様に逃げたくはないんでね」
・見栄のために死ねる、やはりウルフは折れないなぁ
・こういうところは見習いたいよな、芯がブレないというか
・茉理ちゃんはどうするんだよ!
「あぁ、茉理のことか。仮に俺が危なくなったら、茉理だけでどうにかなる問題ではなくなっているだろうよ」
「私の方が弱いから、助けようがないってことかしら」
「それ以外のなにかに聞こえたか」
「一理あるわ。ただ、長年過ごしてきてわかっているとはいえ、今回はちょっとむかついたかも」
・もっとキレてもええんやで……
・よくついていくよなぁ、茉理ちゃん
・慣れっこだとしても、やはり許せなかったか
「俺はそういう感じだ。さぁ茉理、ドラゴン討伐頑張ろうか」
「ええ。気乗りはしないけれどね」
・チームワーク大丈夫か!
・いよいよドラゴン戦ね
・拳が通じる相手ではないよなぁ
・首! 首だからね!
ボスはドラゴンだ。
黒い鱗に覆われた、巨大な竜。口から放出される炎に触れてしまえば、焼けて死ぬことさえある。
「ドラゴンであろうとなんだろうと、俺たちの戦い方は変わらない」
「相手の弱点を潰す。自分たちが遅れを取らないようにする」
「グレイトだ。これを守れば、大方勝てるというものだ」
・勉強をしたら満点が取れるみたいな理屈だな
・それができたら死ぬような探索者は出てこないんですが!?
・理想輪をさも実現可能かのように語る男
「これを完璧に実行するのが難しいことくらい、俺は百も承知だ」
「できるだけ、完璧に近づけようということね」
「ああ。やれることはやる。仮にトラブルがあったとしても、ちゃんと準備をしていれば、トラブルを補填できるだけの材料が整っていることが多い」
・珍しくちゃんとしている
・ためになるなぁ
・こういうところがあるからウルフたちのファンはやめられない
「とにかく首よね」
「ドラゴンの鱗は硬い。だが、このダンジョンのドラゴンでいえば、首はやや薄くなっている」
そこに致命傷を喰らわせれば、勝つことが可能だ。
「俺が拳と蹴りで鱗を砕く」
「私が魔光剣で鱗を斬る」
「このふたつを組み合わせることで、攻略しやすくなる。というか、ひとりではなかなか厳しい相手だな」
・当然だろうが
・珍しくウルフがビビってるというか
・自分の実力をわきまえた上で語っている? 中身本物なの?
「扉の向こうに奴がいる。あと十秒後に突入開始だ」
「準備は万全よ」
魔光剣を展開したり、戻したりを繰り返す。出力はオーケーだ。
ウルフは拳と蹴りのシミュレーションを欠かさない。すぐさま動き出せるようにと準備運動だ。
「カウントダウンを始める」
十からスタートした。
コメント欄でも、視聴者たちがカウントダウンをしていた。そのせいもあって、コメントに数字だけが埋まるという、摩訶不思議な状況になるのだった。
「三、二」
一は各々の心の中で。
そして、突入。
「キィィィイィ!!」
甲高い声を上げたのは、中にいるドラゴンだった。ずっと待ち望んでいたかのように、すぐさま動き出した。
「初っ端からブレスか! 忌々しい!」
・カメラ大丈夫か
・絶対熱いやつじゃん
・ドラゴンさん、やけに好戦的ですねぇ
「シャア!」
喉元が赤く光った。
そして、発射。
広範囲で、火の手が上がった。ウルフたちはかろうじて避けたものの、体が熱くてたまらなかった。
ウルフは改造人間として、強度の暑さや寒さに耐えうる設計となっているからいい。が、単なる人間である茉理はいささか厳しかった。
むろん耐熱スキルは有しているものの、桁がひとつ違うブレスを放っているのだ。苦しくないはずがない。
・よくかわしたな
・チャンス!
・やはり期待を裏切らないふたりだ!
「反撃だ! いまは動きが鈍い」
「ええ、わかっているわ」
ブレスを一度放ってしまえば、すこしの間反動で行動不能になる。この機を逃さずに、鱗を砕き、首を狙うのだ。
「このデカブツが!」
ウルフは長い長いドラゴンの体を駆け上がる。早すぎて風が巻き起こる。
・ジャパニーズ忍者だな
・獲物を見つけた狼って感じだな、ウルフだけに
・↑ なにもうまくないぞ
「くらえ」
熱を持った体に近づくのはひと苦労だった。トラップの存在によるところが大きい。トラップを避けつつ、仮に引っかかってもうまく脱出することで、距離を詰めた。
ともかく、攻撃を開始してしまえばなんてことはない。
「クガアァア!!」
大事な首元を狙われて、激しく体をブルンブルンとうならせた。振り落とされそうになっても、ウルフは自慢の身体能力で耐え忍んだ。
鱗にヒビを入れまくったのを見て、茉理と攻守交代だ。
魔光剣で、何十連撃と強かに攻撃を加えてやる。すると、だいぶ弱ってくる。
ブレス、反撃というターン制バトルのようなものを繰り返すと、どちらが優勢かはもう明らかになった。
「次でラストにするぞ」
「もちろんそのつもり!」
体全体がボロボロになって、弱りきっている。首元も、ようやく狙えるようになった。
「同時にいこう」
「手柄の横取りはなしよ」
「そこまで小さな男では、ない!」
ウルフと茉理が同時に振りかぶり。
一撃。
一閃。
「クアアアアア!!」
ドラゴンの首を断ち斬った。
どすん、と鈍い音を立ててドラゴンの遺骸は落ちていった。
「やったな」
「ついにクリアしたのね」
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