終章
吾輩は妖精である!
捕食者協会の一件以来、あたしたちの生活はガラッと変わった。
国の兵から事情聴取やら色々あったけど、一応相変わらずメイサの家で妖精使いの修行に励んでいる。
そして、この件であたしらの知名度はぐんっ、と一気に上がることになるのだった。
「おい、お前ら! 依頼だぞ!」
メイサに呼び出されて、あたしたちはリビングに集められる。
「また、ですの?」
「うぅ、少しは断ってくださいよ。ここ最近忙しすぎてあまり休んでいないんですから」
シェーヴィとフォンが頭を抱えている。
「仕方ないだろ! 妖精使いが人手不足なんだよ!」
本当に、なまじ知名度が上がったせいで、依頼が一杯舞い込んでくる。それもそのはず、妖精使い専門のギルドがこの街には存在していないのだ。なので、依頼関係は直接か冒険者ギルド経由でこちらに来るのだ。
「そろそろ設立したほうが良くない? ギルド」
「あまりこの街に妖精使いっていないからなぁ。もっとたくさんいてくれればいいんだけど」
「まぁ、そう簡単になれる職業じゃないからね」
「でも、第一次試験のときに結構受験生いたじゃない。二次試験は大分減っちゃったけど」
「あれは他の街から来た人たちもたくさんいたから。それに、あれで落ちた人たちがかなり自信を失って、妖精使いの道を諦めたみたいだし」
「二次試験にいたもう一組のみんなも、妖精使いはもうこりごりって言っていたからね」
――全く、近頃の若いモンは!
あれは捕食者協会の罠だっての! そういう情弱はこの世界でも生きていけないぞ、と直接説教してやりたい気分だ。
あたしははぁ、と呆れながらため息を吐いた。
「んで、依頼って何?」
「あぁ、何でも街の外れにあるクルクさんの家に、キラービーが巣を作ったらしい」
――またか。
そういう時期なのか知らないけど、もういっそのことキラービー専門の業者でも設立したほうがいい気がしてくる。
「たまにはメイサが行きなさいよ」
「アタイは忙しいんだよ。色々と」
「そうそう、俺たちゃ忙しいの」
――コイツら。
前と同じような言い訳をしているけど、今度はリドゥまで加わっているから尚更タチが悪い。ま、こういう反応されることは想定内だったけどね。
「それにしても、キラービーがこの時期まで巣作りしているって珍しいよね。どっか別の場所から追い出されたなら話は別だけど」
「っていうか、クルクさんの家って……」
「こないだの蜂たちが逃げていった方角じゃない?」
――へ?
「おい、ミトラ。こないだの蜂って、全部駆除したんじゃないのか?」
「え、ええっと……」
駆除した、と言っていいのだろうか。あたしはあの蜂たちを攻撃はしたけど、結局最後は傷を癒して、森の方に帰るように言ったはず……。
「ねぇ、クルクさんの家って、もしかして森の近くだったりする?」
「おう。街の中じゃ一番森に近いぜ」
――あんの、アホ女王蜂!
森の奥深く帰れっつったでしょうが! なんでまた森の近くで巣を作ってんの!? それじゃあ意味がないでしょうがッ!
と、あたしがムシャクシャしながら頭を抱えていると、
「ほほう……。お前もしかして、きちんと始末していなかったな」
「うん。思いっきり逃がしていたわよ」
メイサの顔が段々と険しくなってくる。
――あ、マズい。
これ、ヤバい奴だ。
あたしはえへへ、と苦笑いで誤魔化そうとするけど……、
「てめぇのせいかあああああああああああああああッ! 罰として今度はきちんと全部始末してこいッッッッッ!」
「ごめんなさあああああああああああああああああああああああああいッ!」
メイサの怒号と共に、あたしは慌てて外に出るのだった。
「あ、待ってよミトラ! 私も行くから!」
ルーシェもあたしを追いかけて、外に出ていった。
街の外れにある、小さな一軒家。あたしたちはそこへたどり着いた。
「あら、あなたたちが蜂の巣駆除に来てくれた妖精使いさんね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
あたしたちは人の良さそうなオバさんに向かって、緊張気味に挨拶をした。
「それで、あなたは……? 随分お若いみたいだけど」
「えっと、妖精使い見習いの、ルーシェと申します。そして、こちらが……」
「あたしは、その……」
――そう。
吾輩、じゃなかった。あたしは、妖精である。
名前は……、
「ミトラ! 光の妖精、ミトラです!」
そして、この話の続きは――、
まだ誰にも分からない――。
いや、あたしとルーシェの、ぎこちない物語は、これから始まっていくのだった。
妖精と人間が共存する世界の、妖精の方に生まれ変わったような気でいた 和泉公也 @Izumi_Kimiya
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