303 何だ?この称号

「ほ…兄貴、もう問題ねぇのか?」


 分身は人目を気にして、本体を双子の兄ということにしたらしい。


「おう。しばらく、閉鎖になるけどな。…あ、出してやらねぇと」


 影収納に入れたままの人たちを。

 うっかり収納したまま、帰る所だった。

 影収納から全員出して【キュア】で目覚めさせてやると、状況が掴めない、とばかりに呆然としていた。

 眠った記憶がなければ、ダンジョンの中で大量の魔物と戦っていたのに急に外、いつの間にか夕方、という認識だろう。

 怪我人はまだ療養が必要だが、騎士や兵士たちが病院や治療院に連れて行くハズだ。

 周囲の魔力の流れも安定しつつあるので、もう問題ない。


 カーマインに念話通話で連絡を入れてから、アルは分身を連れてさっさとサルタナダンジョンの転移魔法陣部屋に転移し、キエンダンジョンの自宅へ移動した。


 アルは温泉へと一緒に歩きながら、分身の手に触れて記憶を共有する。


「そっか。人数ばっかり用意して中身がすっかすかで邪魔だったからこそ、大怪我する人間が出たワケか」


「ステータスの幸運値が高い人、【直感】スキル持ちの予想は、見事当たってたんだけどな。全体的にどこの国よりも練度が低い感じ。指導者にも恵まれてねぇし」


「騎士団団長が名誉職な感じ?」


「そう。これだけダンジョンがあるのに、鍛練に使ってねぇみたいだし」


「じゃ、騎士って何やってんの?」


「ナンパとカードゲーム?」


「緊張感のねぇ話をしつつ、移動してたな…あの国は王様も王様だしな。思ったより宰相が苦労してそう。ま、お前もご苦労さん」


「どういたしまして」


 アルは分身を解除すると、服や装備とマジックバッグが床に落ちる前に収納した。

 そして、ぱぱっと服や装備を【チェンジ】で収納にしまい、露天風呂に入る。さすがに疲れた。


『あ、ガーコバタ。客たちの目の前で転移しちまったけど、大丈夫だった?こっちは何とか解決した』


 アルは忘れないうちに、ガンザルダンジョンのガーコバタに念話通話で連絡を入れておく。


【よかったです。こちらも大丈夫でした。マスターが転移したのは出入り口の側でもあったので、見間違いだと思っていました。なので、わたしも他で用事が出来たと誤魔化しておきました】


『ありがとう。おれはさすがに疲れたんでもうちょっと休んでから行くけど、応援いる?キーコバタなら行けると思うけど』


【まだ人数は少ないので大丈夫です。増えて来たら応援を頼みます】


『分かった。じゃ、頑張ってな』


 念話通話を終了してから、一応、キーコにガーコバタの応援に行く話と、ブルクシード王国でスタンピードになったが、何とかダンジョンから魔物が出る前に治めた話をしておく。


【マスター。さすがにお疲れのようですが、当然です。レベルアップ酔いも加算されています】


「そんなんなったこともねぇけど」


 はて?と首を傾げつつ、アルはステータスボードを表示してみた。


――――――――――――――――――――――――――――――

名前:アル(シヴァ)

年齢:16歳

状態:良好

職業:冒険者(Cランク/SSランク)、

   ダンジョンマスター(キエン、アリョーシャ、パラゴ、トモス、フォボス、ミマス、クラヴィス、エレナーダ、ガンザル、サルタナ、ルタルデ、ブエルタ、レーゲン、オクリール、ラングザ、インセ、フレール)

   『こおりやさん』店長(アルのみ)

Level:233

HP:35500/35500

MP:45000/495000

攻撃力:SS

防御力:SS

魔法防御力:A

素早さ:SS

器用さ:SS

知力:SS

幸運:B

スキル:多言語理解、物理・魔法・状態異常全耐性、魔力自動回復、浮遊魔力利用、剣術、錬金術、鑑定、体術、魔力操作、念話、速読術、並列思考、投擲術、行列優遇(シヴァのみ)、気配察知、ナイフ投擲術

魔法:生活魔法、空間魔法(収納、転移、次元斬)、属性魔法(火・水・風・土・雷・氷)、身体強化、結界魔法、付与魔法、探知魔法、重力魔法、回復魔法、飛行魔法、影魔法(影転移、影拘束、影収納、影分身)、ボイスチェンジャー、変幻自在、隠蔽魔法、チェンジ、スリープ

称号:転移者、時には虐殺もする快適生活の追求者、ロンリーバイカー、知的探究者、ディメンションハウスの所有者、フェンリルの友、フェニックスの友、

ソロ攻略(アリョーシャ2、パラゴ3、キエン、トモス、フォボス、ミマス3、パーチェ、クラヴィス、エレナーダ、ガンザル、サルタナ、ルタルデ、ブエルタ、レーゲン、オクリール、ラングザ、インセ、フレール)

ダンジョンマスター(アリョーシャ、パラゴ、キエン、トモス、フォボス、ミマス、クラヴィス、エレナーダ、ガンザル、サルタナ、ルタルデ、ブエルタ、レーゲン、オクリール、ラングザ、インセ、フレール)

――――――――――――――――――――――――――――――


 魔力の残量が一割を切っているが、これでもまだ回復した方だ。

 …あ?51もレベルが上ってやがる。

 ダンジョンボスのグレーターデーモンと雑魚だけで?

 でもって、変な称号が付いている。

 【界渡りの有資格者】って何?


【界渡りの有資格者…善行を重ね、異世界に自在に渡る資格を得た者。時々経験値十倍ボーナス。も、さぞ、慌てふためいていることだろう。布石のほとんどが全部台無しになったのだから】


 ……もしもし、鑑定様?それ、あなたの推測でしょうか?


 いや、それよりも!

 この称号、【界渡り】というのは今なら元の世界に渡ることが出来る、ということか?

 資格があるということは……。



 アルは目を閉じて愛しい妻のいる世界を思い描く。

 もう三ヶ月も会ってない愛しい妻の姿はいつでも鮮明だ。


 雪国出身の肌理きめが細かい色白の肌、蜂蜜を溶かしたかのような琥珀色の瞳、左側と襟足が短く右側は顎までの長さのアシンメトリーの髪型で、色素の薄い髪色はオレンジブラウンにカラーリングしていた。

 髪色が取れて来ると、金色になっていて、とてもとても綺麗だった。元々色素の薄い色の髪なので、プリン状態なんてならなかった。

 撫で心地もよくて、中々手放せず、「セットしたのに!」とよく怒られたっけ。


 繊細に整った可憐な顔立ちは笑うと柔らかく目尻と眉が下がり、年より幼く見えて…心臓に悪いことが多くてもとてもとても好きだ。

 一目惚れだったんじゃないかと今では思う。

 初めて会ったのはお互いが十三歳になる前だったか。

 年を重ねて行くうちにどんどん綺麗になって、余計ながタカり出して……む、不愉快なことを思い出してしまった。


 そういえば、華奢な身体を鍛えて、腹筋を割ろうとしていたこともあったっけ。

 どんな妻でも可愛いのでムキムキを目指してくれてもよかったのだが、体質的に難しく、それでも、肩から背中にかけて筋肉が多少は付いたのを喜んでいた。

 可愛い。本当に可愛い妻で……。


 アルが思うよりあちらでは時間が経っていて、妻は泣いていないだろうか?

 ちゃんとご飯は食べているだろうか?

 ちゃんと眠れているだろうか?

 仕事は…まぁ、しょうがないとしても。


 …………あ、掴めた!


 結構遠いが、位置が分かる。

 自分の身体がそこにある。

 愛しい妻のすぐ側に。


 ―――――――――――――――――――アカネ。


 名前を呼ぶと花がほころぶように笑う愛しい妻。



 ―――――――――――――――――――アカネ。


 愛しい妻に早く会いたい!


 しかし、この身体…アルの身体ごとは転移出来ない。

 この身体はこの世界のものだ。

 意識だけ…魂だけ?

 魂だけで転移して来たのだから元の身体に戻ることなら出来る。

 そんな確信がある。

 今までは感じなかったが、レベルが上がったおかげか、今は自分の元の身体と意識は細い糸のイメージで繋がっているのが分かるのだから。


【マスター!やめて下さい!まだ魔力が…】


 魔力を高めるアルに、キーコが慌てて止めて来たが、やめるワケがない……。



――――――――――――――――――――――――――――――

新作☆「番外編20 毎日が特別な日常」*糖分高め注意!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661914232261


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