301 コアたちの羞恥心はどこに…
ガンザルの門から見える所で、あまり街道の側だと行き来の邪魔になりそうなので、適度に離れた所、という所で地
固めた土の上に置いただけだが、重さで安定している。
店舗は長方体でティファ○ーブルーを地色に白、ピンク、赤、黒、とオシャレに。
お店らしく、看板は丸くてでかでかと『カップらーめんやさん』。
まんまな名前で、三毛猫にゃーこがラーメンを食べているロゴマーク。
外から中がよく見えるよう、透明のアクリル窓を大きく取った。
扉は外開きで両開き。中の壁紙はクリーム色。
中には食堂のように長机と椅子が並ぶ。入って右の隅には洗面所。トイレは外に二つ設置。
カップラーメンの自動販売魔道具は外の丸看板と同じにゃーこロゴがでかでかと付いている。出入り口から入って左の壁際に三台並ぶが、みんな種類は同じものだ。
大きくて分かり易いイラストの食べ方ボードを設置。
飲み物の自販は出入り口から入って正面の壁際の右側。
ハーブティー、麦茶のティーバッグの二種類だけ。紙封筒に二つ入って銅貨1枚と少々割高。
旅をしているのならだいたいはマイカップを持っているし、お湯はあるので注いでくれ、ということで。ティーバッグ自体は元々あるから、使い方が分からないということはないハズだ。
ティーバッグの並びにカウンターを挟んで左に砂時計の自販。
赤、黄色、青、緑、ピンクの五色。銀貨2枚。1枚にするつもりだったが、トリノに「安過ぎ!」と怒られたので。一度買うか時計があればいらない物だが、女子供受けするから、ということで二台ある。
イラストの説明には砂時計を載せるか、箸やカップを載せるよう、という説明になっている。
お湯の自販は出入り口から見ると右の壁際、洗面所の隣に二台あり、銅貨1枚で売っていて、お湯調整も自動だ。蓋を開けていないのなら『蓋を開けて下さい』と注意音声が流れる。カップラーメンならラインまで、平均的サイズのカップなら二杯、一杯だけで使わないのならリセットされる、といったようになっている。
そして、入って正面、ティーバッグの自販と砂時計の自販の間に受付のような楕円のカウンター。
その上にはエプロンをした猫サイズのにゃーこ。
新しいゴーレムでも魔道人形でもなく、これはただのぬいぐるみだ。その地区の責任者、ここだとガーコバタが適当に動かして、念話で話して案内、割り箸サービス及び箱買いの対応をする『店番にゃーこ』である。
ただのぬいぐるみなので欲しい人は金貨5枚で販売。
最初だけで後は無人販売になるのでこういった形にした。
さすがに箱買いは常設には出来ないのである。従来の保存食を売ってる人たちの手前、あまり出回り過ぎてもマズイので。
カウンターは跳ね上げる所があり、人が中に入ることも出来、アルのいる場所はここになる。カウンターの中は二人並んで座れるぐらいのスペースで、机もあるので他の作業しながらの店番も出来る。
ゴミ箱は四方に二つずつ設置。
パーコバタとアーコバタから準備オッケイだと連絡が来たので、同時に開店し、風魔法で両開きの扉をどちらも開け放った。
パラゴの冒険者ギルドで試食をやったので、覚えていた冒険者たちが並んでいて、パラゴはすぐ入って来たそうだが、アリョーシャは遠巻き。無人に見えるからだろう。
ここ王都ガンザル近郊も同じく通りがかった人たちはいても遠巻き。
プレーヤーのスイッチを入れると、外にあるスピーカーから声が流れた。
【いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。『カップらーめんやさん』本日開店です。味気ない保存食に飽き飽きしてませんか?この店は画期的で美味しい保存食の自動販売魔道具を設置しているお店です。その場で食べることも出来るよう、机と椅子の用意もしております。一個たったの銀貨1枚。保存は三年も可能という画期的で美味しいこの商品、是非とも味わってみませんか?食べ方が分からなくても大丈夫。分かり易いイラストの説明ボードがございます。熱湯を入れてたった三分で美味しいラーメンの出来上がり。特殊な製法で作っておりますので、数に限りがございます。お早めにどうぞ】
あらかじめ録音しておいた音声だった。
女性アナウンサーのようないい声だが、ボイスチェンジャーで声質を変えてアルが録音していた。「台本は書いてやるからキーコたちがやれよ」と言ったのだが、全店舗で使うとなると何やら恥ずかしいらしく。コアたちの羞恥心はどこにあるのか不明だ。
パラゴとアリョーシャでも今頃、呼び込み音声が流れていることだろう。
『数に限りが…』の下りが聞いたのか、一人が動くと続々と動いて店の中に入って来た。
『いらっしゃいませ』
「いらっしゃい」
アルは開襟白シャツに紺のサンバイザーとエプロンだ。もっと寒くなれば、魔石ストーブを置く。
「え、砂時計?」
『カップラーメンの時間を計るためです。新しい素材のアクリル製ですので早々割れませんし、お土産にも喜ばれますよ』
慣れたようにガーコバタが念話で説明する。全体に聞こえるようにしているので、肉声と違うとは中々気付くまい。
「…猫が話した?」
『『カップらーめんやさん』の店員です。精霊のようなものだと思って下さい』
ぬいぐるみなので口は動かないのだが、声はそこから聞こえる…ように思えるから勘違いしたのだろう。
「そ、そうか…」
「君は?」
「店員。買わねぇの?本当に個数限定だから早い者勝ちだぞ。箱買いはこのカウンターで対応してるから、こちらへどうぞ。箱買いは一種類十二個入り。金貨1枚と銀貨2枚」
「箱買いって、そうも売れてるのか?」
「街中なら暴動が起きそうな程に。商業ギルドに営業許可もらいに行った時、試食を食べたギルドマスターが即座に三種類も箱買いしたって言えば分かる?」
アルがそう言い終わる前に、商人たちはカップラーメンの自販に向かっていた。
説明イラストボードはやはり、かなり分かり易いらしく、好みの味のカップラーメンと砂時計を買い、説明通りにお湯まで買った。
行商に行ってるような商人なら水も魔石コンロも持ってるだろうに、使ってみたかったこともあるらしい。
******
人が入ってると、次々と通りすがりの人たち、そして、薄手のローブを羽織った商業ギルド職員二人が入って来た。
「かなり立派な店舗ですね。ギルマスにすすめられたので視察ついでに食べに来ました」
「どうぞ、ごゆっくり」
『砂時計も早いもの勝ちですので、好きな色を選べるのは今だけですよ』
ガーコバタが営業をかける。
商売は初めてだと言っていたので、アルが適当に仕込んだのである。
「そうなんですか」
ギルド職員だけあって、魔道人形だと思ったのだろう。
それよりも説明ボードに興味津々だった。
その間に、最初に入って来た商人たちが手順通りにカップラーメンを作り、持参の箸でかき混ぜて食べ始める所だった。
「う、美味い!何だこれ、何だこれ。衝撃の美味さ!」
「だ、誰だ。カルメ国に美味いもんなし、とか言った奴は!!」
「あ、ごめん。他国からの進出なんだ。ラーヤナ国、エイブル国でかき氷と冷水の自動販売魔道具を設置している『こおりやさん』って知ってる?ここはそのカップラーメン部門なんだよ」
この説明もボードを作ろう。一々言うのも面倒なので。
「……マジか」
「……建物の技術力からしてもタダモノじゃないとは思ってたけど…」
「何でまた、こんな遠くの国まで?」
『わたしの出身国だからです。もう涼しいから温かいものがいいねってことで』
「…というワケでした。おれは雇われ店員。詳しい話は製作者兼店長に訊いて。今、エイブル国王都エレナーダでかき氷の自販を設置してるから、そっちにいるけど」
「……遠過ぎだよな…」
「それにしても美味い…そりゃ箱買いするよな…」
「委託販売は…」
『してません。数量限定ですので。この店舗も三日ぐらいで引き上げます』
「…たった三日…」
『ガーコバタ、ちょっと任せた』
アルはささっとディメンションハウスに入り、『こおりやさん』との関係説明ボードを錬成した。人前で作ると食い付かれそうなので。
そして、隠蔽をかけてからディメンションハウスから出て、頃合いを見計らって隠蔽を解き、カウンターから出て、早速、空いてる壁に新しく作った説明ボードを釘で固定する。
画鋲のように指で釘を押し込められるのは、高ステータスならではだ。
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新作☆「番外編20 毎日が特別な日常」*糖分高め注意!
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