296 『こおりやさん』でーす!

 話が一段落した所で、アルはかき氷の自動販売魔道具を出した。


「おれ、こういった自動販売魔道具を設置して売る『こおりやさん』の店長もやってるんだよ。ラーヤナ国とエイブル国で大好評で、かなり知名度も上がってるんだけどさ」


 さすがに、ここまでは伝わっていないだろう、と思ったアルなのだが……。


「存じてます!冒険者ギルド、商業ギルド、そして、通信魔道具を持っている商人から情報を聞いてます。…そうですか。あなたが」


 …うっ。暑い国なだけに期待した目が……。

 アルは銅貨を入れて、ベラートとカーマインに奢ってあげた。自販はすぐしまう。

 さすがに、こんなに長距離の所に現れるのは、不自然極まりない。…今以上に。


『わしの神力で引き寄せたとか言っとけばよくないか?』


「そんな話は聞いたことがないって言われるだけだろ」


 遠方の新米組の所でやるなら、ウチは?と先輩組が言い出すだろう。


『アルが表に出なければいいのではないか?わしと眷属が…』


「おい、カーマイン、火属性だっつーのを忘れ去ってるだろ」


『…ダメかのぉ?』


「ダメダメ。食べられる氷を低リスクで供給することは出来る。で、技術提供という形でかき氷を作る道具を商業ギルドに登録すれば、作りたい放題だぞ。それだと手間なしでおれにも技術料が入るし」


『…んん?氷を供給ってどうやってだ?』


「ダンジョンだ。いくつかのダンジョンのコアを説得してやろう。1階で塊の氷がドロップするなら、そう溶けないうちに外に出られるだろ。やがて、保冷の道具も作られるだろうし、ダンジョンに入る人が増えれば、冒険者たちは中層へ移動するだろうし、間引きも出来て一石二鳥」


 アルがダンジョンマスターだというのは伏せる。

 中層に行かない冒険者たちは、新米組のダンジョン以外のダンジョンに流れるだろうから、一挙両得か。


「そ、そんなことが可能なんですか?コアというのは、ダンジョンの核みたいなものですよね?意思疎通が出来るものなのですか?」


「出来る。なんせ、話したことあるし。念話でな。魔物とも違ってて精霊や妖精みたいなもの?コアは常にダンジョン内を移動してるけど、コアに会うには、フロアボスかダンジョンボスをソロで想定外の時間、想定外の攻撃で倒すこと。すると、ダンジョンエラーになってコアの位置が分かるようになるし、コアが話しかけて来ることもある」


「……ダンジョンエラー」


『そんなの出来るの、アルだけじゃないのか?他の人でエラーを出した人は?』


「知らねぇけど、内緒にしてるんだと思う。エラーになった後のドロップは破格だからな。おれにもメリットはあるワケだ」


『想定外の攻撃というのがよく分からんが、たとえば?』


「武器なしの肉弾戦」


『…ボス相手にか?やれんだろ、アル以外は。肉弾戦で何の魔物を倒した?』


「バジリスクやワイバーン。足場結界を蹴って勢いを付けて四方八方から蹴りまくった」


『……アルよ。しみじみと規格外だな』


「誰も試してみてねぇだけだと思うけど」


「…ともかく、スタンピード対策に話を戻しますが、ダンジョンに騎士や兵士を投入するのは確定として、どのダンジョンからがいいと思いますか?」


 それて行く話に宰相が仕切り直した。


「そこまではおれたちも分からねぇんだって。スタンピードの記録はねぇの?」


「あいにくと詳しい記録は失われております。スタンピードだけじゃなく、災害や政争もありましてな。改めて調べても、どこのダンジョンが一番最初に出来たのか、の情報すらも錯綜さくそうとしていますし」


「そうなっちまうか。じゃ、スタンピードが起こりそうなダンジョンの選定は、ステータスの幸運値が高い人と【直感】やそれに近いスキル持ちを集めて予想を立てさせたらどう?当たった人には賞金を出して」


 こんな時は占いより当たる確率が高いものに頼るべきだろう。


「なるほど!それはいい方法です。明日の朝から早速、やってみます」


「じゃ、頑張ってな」


 アルは自動販売魔道具やソファーをしまった。


『よし。では、アル、何か食って行こうぞ』


「こんな時間じゃ店はやってねぇぞ。…はいはい、作ればいいんだろ」


「お、お待ち下さい!神獣様、アル殿、間引きを手伝って頂けないでしょうか?報酬は出来る限り期待に添えるように致しますから」


 戦力に不安があるからか、ベラートは安直な打開案を出して来た。

 話した感じは落ち着いているし、結構評価高かったのだが、一気に下がる。


「神獣の役目は『世界のバランスを保つこと』であって人間を守ることじゃない。カーマインが今までスタンピードを治めて来たのは、人間に手を貸し過ぎなぐらいなんだぞ。それ以上は求め過ぎだし、頼り過ぎだ。人間たちでちったぁあがいてみろ。頭は使わねぇとどんどん悪くなるだけだぞ。

 おれも人間側だけど、他国の人間だし、カーマインの頼みを利いただけでも過剰労働だ」


『確かに過剰労働だった。一晩で七つものダンジョンを攻略してるしな』


「あ、こら、言うなって」


『…おお、そうだった。悪い』


 大根過ぎだ。


「ワザとだろ~」


『いや、どれだけアルが働いたのか具体的に教えんことには、気軽に頼って来そうだからな。破格な力は恐れられることにもなるし、おおやけにしていいことは何もない。自分たちでどうにかせんことにはこの国のためにもならん。アルの言う通り、わしは手を貸し過ぎてるしな。最悪だけはさけられているのだ。やってみるがいい』


「おお、神獣様らしい」


『たまには威厳を見せんとな』


 ここまで言われると、もうベラートも引き止めなかったので、アルとカーマインはカーマインの拠点に転移した。




――――――――――――――――――――――――――――――

新作☆「幸せの一輪の花」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330662917057638


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る