295 出来る宰相はこうでなくては!

 十時過ぎ。

 ブルクシード王国王城。

 国王の寝室にアルとカーマインは堂々と訪れた。

 護衛騎士たちが話の邪魔をするのなら眠らせようと思っていたのだが、まったく気が付かないので放置。この国も警備体制はザルらしい。

 窓辺にカーマインの姿を見せれば、眩しくて暑くて絶対起きる。

 乗せてくれるとカーマインは言ったが、暑いのでアルは乗らず、久々に飛行魔法を使って飛んでいる。断熱結界で覆って。


 窓辺に出て来た国王に、翼長10mからカラス程度の大きさになったカーマインがまずは念話で話しかける。


『夜分に突然すまんな。そなたがこの国の王で間違いないか?わしは…』


「神獣様…」


 国王が慌てて両開きの窓を開けた。まだ三十歳ぐらいの若い王である。


『そうだ。フェニックスのカーマインと言う。このたびはこの国の危機を知らせに来た。近々ダンジョンがあふれそうなのだ。それについては、こちらのアルが作った資料を見てくれ』


 アルは足場結界の上に立ち、はい、と国王に資料を渡す。

 暗くて見えなかろう、と生活魔法の【ライト】で資料を照らしてやった。

 目を通して行くうちに国王の顔色が変わる。分かり易く作ったので当然だった。


「こ、これが本当なら今すぐに溢れてもおかしくない…こんなに階数があったのか…」


「そうなんだって。階数が多いダンジョン上位七つのダンジョンは、既に階数と魔物を減らしてあるけど、他がまだ十五もあるからさ。間引きが足りてねぇのは資料の通りに」


「…減らしてある、というのは?貴殿は?」


「Cランク冒険者のアルだ。エイブル国、ラーヤナ国で活動してるんだけど、カーマインとも友達でさ。ダンジョンの階数と魔物を減らすのに協力したワケ」


 …ということになっている。

 くり抜いた穴は修復しておいたので、どう協力したのかはバレない。

 アルは首にかけてるギルドカードを見せた。


『若いが、アルはかなり強くてな。他国にも一目を置かれているとか』


「別の意味でな。おれは錬金術師で魔道具師でもあるんで。で、Sランク冒険者のテレストから聞いたんだけど、この国にはスタンピード対策で威力のある魔道具があるんだって?噂だけじゃないのなら、どんな物か教えて欲しい」


「魔道具?そんなものがあったら、こうも慌ててないんだが…そのSランク冒険者の名前も聞き覚えがない。最近、話題になっている短期間で一気にSSランクまで上がった冒険者じゃなくて、か?」


「違う。ドラゴニュートで300年以上生きてる魔法使い」


「…あっ、その方なら存じている。名前までは知らなかったが、かなりの凄腕の魔法使いだと。…魔道具の話は先々代ぐらいの話だろうか」


『わしもそんな道具があるのは知らんしな』


「ってことは、やっぱ、カーマインが殲滅したのを魔道具だと思って噂が流れてたってオチか。王様、王城図書室の出入り許可くれねぇ?何か記録が残ってるかもしれねぇし」


 アルの欲しい情報もあるかもしれない。


「…それはわたしの一存ではちょっと…」


『そんな分かり易い所に重要な資料なんか置いとらんだろ』


「他の人には重要じゃない資料や本に用があるんだよ。おれが。えー?こうも働いてるのに無報酬かぁ。ケチ臭い王様」


『アルは二国もまたいでわざわざ来てるのになぁ。いやはや、エイブル国とラーヤナ国の王たちの方が余程寛容で度量も広いな』


「だよな~。宰相に話を通した方が早いかもな」


 ブルクシード王国は前情報なしだったので、少々失敗した。

 アルは【魔眼の眼鏡】を装着し、王城の側の貴族街にあると思われる宰相の邸宅を探すとすぐ見付かったので、そちらへカラスサイズのカーマインと共に転移する。

 資料は複製があるので国王に渡したままでも構わない。

 宰相はまだ起きており、邸宅の書斎にて書類を読んでいた。


「こんばんは。遅くまでお仕事ご苦労さん。いきなりで悪いけど、緊急事態。近々スタンピードが起こりそう。おれはCランク冒険者のアル。こっちはフェニックスの神獣、カーマイン。で、資料がこれ」


 アルはさっさと資料を出して宰相に渡した。

 驚いてはいたが、すんなりと受け取った。

 転移して来る相手に何やっても無駄だというのもあるだろうが、言葉の内容の方に気を取られたのだろう。


『仕事してる所悪いな。先程、王城の国王の所へ行ったが、中々飲み込みが悪くてな。実際、国を動かしてるのは別の人物だろう、と貴殿の所へ参った次第。その資料にあることは本当なのだ』


 速読スキルがある宰相はさっと資料に目を通すと、軽くため息を漏らしてから口を開いた。


「詳しい話をお聞かせ下さい」


 話が早い。

 こちらの素性を怪しむより実利。出来る宰相はこうでなくては。

 どう見てもフェニックスなカーマインがいることも大きいだろう。

 アルはセルフでソファーを出して座り、カーマインは適当にその辺に留まって話した。


 四十前後の宰相…ベラートにも「威力のある魔道具」のことを訊いてみたが、やはり、思い当たるものはなかった。スタンピードを治めているのは、やはりカーマインらしい。

 強い従魔を従えた冒険者、高ランク冒険者パーティがたまたま滞在していて、退けたこともあるが、カーマインが漏らした魔物を討伐した程度のようだ。


 階層と魔物を減らした方法が『神獣様のおかげ』というのはベラートにも怪しまれたが、それも嘘じゃないし、具体的に言うワケにも行かない。

 スタンピードより恐ろしい人間がその辺を自由にうろついていて、目の前にいる、と知らない方が精神衛生上もいいだろう。


 王城図書室の件はベラートにはあっさり承諾され、許可証も早速書いてくれた。知識の大事さは知ってはいても金品より余程、ハードルが低いのだろう。


 アルは早速念話で新米組に指示を出し、分身を出し、それぞれ手分けして王城図書室の書物を全部複製して書物を作るよう頼んだ。

 ここの王城の物理・魔法防御もザルなのでコアバタたちも自由に動ける。



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新作☆「幸せの一輪の花」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330662917057638


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