294 実際潜った(破壊した)おれ情報

【アル殿、今、いいかしら?】


 夜八時過ぎ。

 テレストから通信バングルを使って連絡があった。


「いいぞ。何?」


 【魔物図鑑】【植物図鑑】をタブレットに取り込んでいたアルは、すぐ返事した。作業しながらでも【並列思考】がいい仕事をしてくれる。


【ハイネ君から聞いたわ。まだ持ってたの?エリクサー】


「おう。せっせとダンジョン攻略してるんでな。王様、欲しいって?売ってもいいぞ。伝説級武器とかもちゃんと保管出来るんなら」


【…こらこら、待ちなさい。伝説級武器って扱いが難しいものじゃないの?ヘタすると殺人鬼になるような】


「そう。もしくは、魔力枯渇で死ぬ。だから、売るに売れねぇんだって」


【そんな物騒なものは消滅させるか死蔵しといて頂戴!】


「はいはい。…あ、ついでにテレストに訊きたいんだけど、ブルクシード王国には行ったことはある?」


【あるわよ。もう五十年ぐらい前だけど。アル殿、そんなに遠くの方にまで行ってるの?】


「成り行きで。で、ブルクシード王国はかなりダンジョンが多い国なんだけど、その大半のダンジョンの階数が100階以上で中には200階以上もあって、そろそろスタンピードが起きそうだと、ある筋から聞いたんだけどさ。前にスタンピードが起こった時、どうやって治めた?」


 何度かスタンピードが起こってる割には、ダンジョンの近隣の街が大きいので、何らか対策があるのかも、とアルは思ったワケだ。

 そこまでは新米組コアたちも知らなかった。


【アタシも噂でしか知らないけど、相当威力がある魔道具があるみたいよ。でも、200階以上もあるダンジョンって聞いたことがないわ。どこの情報?】


 その『相当威力がある魔道具』はカーマインのことではないだろうか…。


「実際潜ったおれ情報。225階もあった。…そっか。テレストも知らねぇのなら王城にお邪魔するかな」


【近所の家に遊びに行く感覚で言わないでよね!】


「国の一大事なのに、トップが知らねぇのはなしだろ。対策はしたけど、魔力の流れがまだまだ不安定だから、どこかのダンジョンであふれるかもしれず」


 国王命令でダンジョンから冒険者たちを退避させて、アルが片っ端から攻略して行けば…いや、さすがにバレるか。

 新米組ダンジョンを除いても、もう十五個もダンジョンがあるし、階数が多いダンジョンよりドロップがいいので、冒険者たちもたくさん潜っているのだ。バラけてしまっているし、浅層までの冒険者が多いので、間引きが間に合ってないワケだが。


 では、国王が国外から高ランク冒険者を雇って間引きさせる、というのはどうだろう?…移動時間でとっくにスタンピードが起こってそうだ。

 そうなると、近くにいる騎士や警備兵にダンジョンに潜ってもらうしかないか。中層は厳しいと思うが、いい武器と人海戦術で何とかなる……といいなぁ。

 間引く程度なら、分身にやらせるのが一番いいかもしれないが、アルはかなり働いたので、後は自分たちで何とかして欲しい所である。


【大変じゃない!対策ってどんなことしてるの?大きい街だけじゃないわよ。村だって集落だってあるし、商人や冒険者は移動だってしてるんだから】


「分かってるって。そもそも、ダンジョンが多くて、全体的に間引きが間に合ってねぇのが問題なんだよ。そこを何とかしねぇと」


【…あ、神獣様よ!ブルクシード王国には、フェニックスの神獣様がいたハズだわ!】


 知っていたのか。なら、隠す必要はない。


「ある筋って、そこなんだって。フェニックスの神獣様が次元のうずに巻き込まれて飛ばされてたぐらい、ヤバイ状況で。おれ、フェンリルの神獣様と友達だから、その繋がりで、フェニックスに『何とかならんか』と頼まれたワケでさ」


【…友達?】


「友達」


【じゃあ、前に神獣様の話が出た時、知らないフリしてたわねっ?】


「面倒そうだったんで。そんなことより、注目して欲しいのは『次元の渦』だって。フェニックスによると、転移トラップみたいなもんで消えちまったらしいけど、他にも飛ばされてる魔物や人間もいるかもしれねぇぞ」


【問題だらけじゃない。神獣様が何とか出来ないの?】


「出来たらおれに頼むワケがねぇだろ。そもそも、神獣の役目は『世界のバランスを保つこと』であって人間を守ることじゃねぇ。それに、ダンジョンは管轄外だ。あふれたら対処するけど、被害も大きい。かといって、フェニックスがダンジョンに突撃したら、ダンジョン自体が潰れ、中の冒険者も丸ごと死ぬだろうし、周囲の被害も甚大だろうな。フェンリルの方は担当地域が違うし、長いこと離れていられない」


【神獣様が頼む程だから、アル殿なら何とか出来るのね?】


 そう頼られても困る。アルは万能なんかじゃないのだから。


「被害を最小限に抑えることしか出来ねぇ。だから、国王に何らかの手段があるんなら頼むって話なんだよ。じゃ、忙しいからまたな」


 タブレットに図鑑類を取り込み終わったし、さて、カーマインと一緒にブルクシード王国国王の寝室に訪問するか。


 元々訪問するつもりだったワケである。

 あまり早くても寝室に来てないので、時間調整をしている所だった。

 スタンピードの恐れがある、という証明のための資料は作ってあった。【冒険の書】に載ってる冒険者の到達状況や数値や情報は「神獣様の神力により分かった」と誤魔化して。


 ブルクシード王国は他国と比べてダンジョンもダンジョンの階数も多い、というのも立派な証明だった。

 コアたち記録の歴史にしても、明らかにスタンピードが多いのだ。



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新作☆「幸せの一輪の花」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330662917057638



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