261 『次元の渦』に飛ばされた神獣

 ヒマリア国でアルの姿を見られるのはマズイので、【変幻自在】【ボイスチェンジャー】【チェンジ】でシヴァになる。

 紙のように薄いモニターには、外の風景と地図が表示されている。

 こういった物があったら分かり易い、と作らせていた。

 ラーヤナ国に程近いカルカスの街でワイバーン五匹に遭遇し、その後、そう期間を空けず南の王都フォボスまでもう一匹のワイバーンが流れて来ていた。

 これで、警戒しない方が危機感がなさ過ぎる。


 ミマスの街近郊だけではなく、ヒマリア国全体の異変に気付けるようにしてあり、今回はそれにひっかかったのだ。

 今回、見付かったのはワイバーンの群れ。十二匹。

 何かに追い立てられたかのように北…カルメ国から入って来たそうだ。

 これは北の守護神獣たるホワイトタイガーが不在なことに、関係しているのではないだろうか。

 ホワイトタイガーがワイバーンの移動を制限していたのに、不在なので止める存在がいなくなり、と考えられる。


 街を襲わないのなら、そのまま放置でいいが、ワイバーンは森の中の見通しの悪い所にいる魔物を狩るより、見通しのいい街にいる人間や家畜を襲う習性がある。


 こんなことがたびたびあっては堪らないので、対処療法ではなく、詳しく調べるために、カルメ国のダンジョンにも拠点を置くべきだろう。

 小さいダンジョンが多い中、一つだけ40階までの中規模ダンジョンがある。カルメ国のほぼ中心にある王都ガンザルの街中にあるガンザルダンジョンだ。魔力供給の観点からもここを攻略するしかない。


 それはともかく、ワイバーンたちは後ろを気にしてミマスの街を通り過ぎ、その後を追って真紅でキラキラしている大きな鳥が飛んで来た。

 翼長10mはありそうだ。


「あれはフェニックスじゃね?神獣の」


【そうです。イディオス様をお連れした方がよろしいかと】


 確かに、シヴァだけが相対すると、聞く耳持ってくれなくて街が吹っ飛び兼ねない。


「そうする」


 シヴァはイディオスの森に転移して、イディオスを騎竜に乗せてからフェニックスの前に転移した。

 すぐに騎竜を大きくし、イディオスも本来の5mサイズに戻る。


『待て!カーマイン!何やってるんだ、貴様は』


 シヴァは足場結界を蹴って加速し、ワイバーンの前に回ると結界で囲んでどこにも行けないようにした。


『おうっぉ?ビックリした。イディオスか。久しいの。その竜は何だ?』


『そんなことを気にしてる場合じゃなかろう!ワイバーンの群れなど、人にとっては脅威にしかならんのに、何故、追い立ててる?数を減らすのならさっさとほふれるだろうに』


『それはそうだが、この辺りはホワイトタイガーの担当地域だろう?わしが手を出していいものか、と考えてるうちに追い立ててしもうて。あやつはどうしたんだ?気配がまったく感じられんが』


『先日から探してはいるんだが、見付からん。お主は何故、ここに?もっと南の担当だっただろう?』


『いつの間にか次元のうずが出来ておって飛ばされたのよ。こっちに飛ばされたということは、ホワイトタイガーもどこかに飛ばされたのかもしれん。あのワイバーンどももどこかからか飛ばされた可能性もある。して、イディオスはいつの間に転移魔法を使えるようになったんだ?』


『我じゃない。この黒ずくめの男、シヴァのおかげだ。この竜もシヴァの人工騎竜だ。シヴァは我の友人で、神獣の役目軽減に尽力もしてくれている』


『軽減?そんなことが可能なのか?』


『シヴァならば。異変を察知したのもシヴァだ』


「初めまして、フェニックス殿。SSランク冒険者のシヴァだ。早速だが、あのワイバーン、いらんのならもらっていいか?」


『ああ、構わん。名前はカーマインだ。好きに呼んでくれていい』


「おれも呼び捨てでいい。話は聞こえていたが、カーマインがもっと南の担当ということは、リビエラ王国のもっと南か?」


『その南、ブルクシード王国を拠点にしていた。転移魔法が使えるのなら、送ってくれることは可能だろうか?』


「無理だな。転移魔法は一度行った所にしか行けん。それより、次元の渦とやらを解析した方が早いだろう。魔力の塊なら座標が特定出来るかもしれん」


『あいにくと、もう消えてしまってな。ダンジョンの転移トラップのように一回限りらしく』


「では、地道に飛んで行くしかないな。エイブル国のアリョーシャの街までは送ってやれる」


 騎竜よりフェニックスが自分で飛ぶ方が速いだろう。


『おお、それは助かる。…その前に、ワイバーンには何してあるんだ?』


「結界に閉じ込めてある。おれはダンジョンマスターでもあるんで、もらっとこう」


 アルはそれぞれのコアたちに連絡を取ってから、それぞれのダンジョンにワイバーンを転送した。

 この辺りのワイバーンとの違いがあれば、教えて欲しいのと、調教出来るのならしてみてくれ、という依頼だ。せっかく生きたまま捕獲したので、有効活用しよう。


「カーマイン。イディオスのように小さくなれるんだろう?なら、ダンジョン温泉宿に泊まらせてやるぞ」


『ダンジョンに温泉、とな?』


『シヴァの屋敷のようなもんだ』


「まんま屋敷と言ってもいい。マジで地下から掘り出してる温泉だぞ」


 カーマインはカラスぐらいの大きさになったので、イディオスと騎竜もいつもの大きさにし、それから、キエンダンジョン温泉宿へと転移した。


 カーマインは炎属性だからか、熱いものは皆大好きらしく、温泉も大好きで大はしゃぎだった。

 神話の通り、炎で復活するフェニックスは死なないので神獣の中でも一番長寿なのだが、稚気ちきを忘れないのが長生きを楽しむコツなのかもしれない。



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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854


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