260 食事の際のマナー

 元々、来客は想定されてない執務室だが、アルとテレストは立ったままなのも何なので、空いているスペースにアルがソファーセットを出してやった。

 王宮内の物より豪華で座り心地がいいのを。ビンテージ風ソファーだ。


 小腹が空く時間なので、サンドイッチも出してやる。ローストワイバーン、スモークサーモン、ツナマヨ、フルーツクリームサンドと王族も満足な豪華な具の物を。

 茶器ぐらいは執務室にあるので、文官が淹れる。


「…なんて贅沢してるのかしら。ワイバーンじゃない、これ」


 食べてすぐ分かるテレストも相当贅沢な食生活である。テレストは鑑定スキルを持っていない。何らか鑑定のマジックアイテムは持ってそうだが。


「言わなけりゃ気付かねぇのに」


「いやいや、さすがに高級食材なのは分かりますよ。ご馳走になります」


 如才なくお礼を言うのは宰相だ。適応が早い。


「魚なんてどこから…」


「ダンジョン」


「そのソファーも気になる…」


「今、気にする所はそこじゃねぇだろ。警備体勢の見直し。ザル過ぎだろ」


「…出入り自由なのはアル殿ぐらいなもんなんだがね」


「あらぁ、ザルって言われてもしょうがないと思うわよ。アタシが見てもザル。どんないいマジックアイテムがあっても、使う人次第っていうのがよく分かるわ。魔法使いと連動してないと意味ないわよ」


「それ以前に『ここにいますよ~』っていう設置場所はやめとけ、と思う」


「そうよねぇ。予算も限りがあるとは思うけど、魔法師団があるんだからもうちょっと何とかなるハズよ。どうやっても、アル殿は防げないけど」


「…あの、どういったお知り合いなのか、教えて頂いてもよろしいですか?」


「命の恩人よ」


「え、言うの?」


「言わない方が怪しいじゃない。ただでさえ、アル殿、好き勝手してるし」


「おれがストレス溜めると怖いことになると思うけど、いいんだ?」


「いやいや、アル殿、思いとどまって下さい。…それで、テレスト殿、Sランクの貴殿でも危ない目に遭うという状況がよく分からないのですが、教えて頂いてもよろしいですか?」


 ハイネがアルをたしなめてから、テレストにそう丁寧に訊いた。


「ダンジョン内でパーティメンバーに足引きずられて、かといって見捨てられず、死にそうになってた、以上。こう見えてもテレスト、三百歳越えの高齢者だから気が長いんだって」


 しかし、答えたのはアルだ。テレストはどこまで話していいのか、正確な所は分かっていないので。


「…身も蓋もないけど、事実よ。偶然、アル殿が通りがかって助けてくれなければ…」


「いや、偶然じゃねぇぞ。乗用魔道具を使ってるパーティが多いって聞いて、わざわざ探してたんだよ。中々見れねぇし。別にいつでもよかったんで、テレストたちの運はよかったな」


「そうなのですか。それで、警備の強化と証拠集めについて具体的な話に入りたいと思いますが、その前にアル殿はどこまで協力して頂けるのでしょうか?」


 宰相が話を戻して、取り仕切った。


「テレストを紹介した所まで。おれは政治には関わらない。でも、国が荒れるんなら介入するし、戦争になるなら阻止する。おれに罪をなすり付ける計画が発覚したワケだけど、実質無理だから『へー』と思うだけ。ただ、今後も出て来るとウザいから見せしめに報復はする。それでボロを出す奴らもいるだろうから、そちらはよろしく」


「……報復…」


「アル殿が堂々とやってることだけでも桁外れなのに、何で甘く見ちゃうのかしらねぇ。アル殿の少年の見た目と希望的観測が目を曇らせるのかしら」


「アル殿、くれぐれも街中で邸宅を吹き飛ばすといったような派手なことはやめて下さいよ。くれぐれも!」


「そんな他人様ひとさまに迷惑なことなんざしねぇって」


「上空から落としてぐちゃぐちゃとかもやめてよね。色々散らばって後始末も大変だし、見ちゃった人たちのショックも考えて」


「そんな趣味悪ぃことしねぇっつーの。でもって、食ってる時にぐちゃぐちゃとか言うなって」


 アルは平気だが、国王たちが、うっ…という顔をしているのでたしなめてやった。


「あら、失礼。でも、アル殿、忙しいんじゃないの?パラゴの街で自動販売魔道具の設置をやってるって聞いたけど」


「その情報はもう古い。今日からアリョーシャの街で設置して、来週はここ王都。何かと忙しいのは確かだけど、仲間がいるんで、全部おれが動いてるワケでもねぇしな。今日も来週からの自販設置について、軽く打ち合わせをしとこうと思ったら、商業ギルドの本部長とギルマスが王宮で足止め食ってて、それで国王暗殺計画が発覚したワケで。ま、今は仕事が山積みだろうから、打ち合わせは明日にするけど」


「じゃ、今日は王都に泊まるのね」


「泊まらねぇよ。アリョーシャの街に宿取ってあるし。…とか言ってる間に用事が出来たんでまたな。ほら、通信魔道具。おれにしか繋がらない。魔力起動。ソファーとテーブルは後で取りに来るから」


 アルはテレストに通信バングルを渡してから、影転移経由でヒマリア国ミマスダンジョンコアルームへ転移した。

 ヒマリア国はラーヤナ国の北隣だが、ミマスダンジョンはほぼ縦断した最北端にあった。



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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854


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