259 ある意味タイミングがよかった
ラーヤナ国フォボスの宿のある部屋の前。
アルは来たことのない場所だが、フォーコバタが気を利かせて転移ポイントを置いてくれていたのだ。優秀である。
軽くノックをすると、すぐに返事があり扉が開いた。
「…アル殿。少し振りね」
警戒しつつ、扉を開いていたテレストは、ホッと吐息を漏らす。
「何かあった?ヤケに警戒してるけど」
「あの女の弟子のせいよ。あの子、ベリンダっていうんだけど、厄介事ばっかり持ち込んで。…中へどうぞ」
「破門にしたら?」
「ええ、さすがにもうダメだと思って、昨日、破門にしたんだけど、ベリンダがないことないこと吹聴して同情した人がアタシの所へ訪ねて来るのよ。話せないような呪いでもかけとこうかしら」
「魔力は温存しとけって。そんなことより、エイブル国国王の護衛依頼を受けねぇ?ついさっき暗殺計画が発覚してさ。で、主犯派閥の頭が公爵だから誰が味方で誰が敵かの区別がすぐには出来ず、信用出来る護衛が必要ってことで。交替要員いねぇんだけど、テレストが休んでる間に護衛対象を守る魔法か魔道具か何か持ってる?」
「あるけど、そんなに長時間は無理だわ。アル殿、エイブル国に肩入れしてるの?」
「って、ワケでもねぇけど、友達も知り合いも多いから国が荒れるのは本意じゃねぇ。まぁまぁ賢い王様だしさ。じゃ、魔道具貸しとこう。Pバリア2。物理、魔法、防御、防音、防臭、断熱のマルチ結界が内蔵されていて任意の場所に出すことが出来る。大きさは2m四方の立方体。計算上二年は保つ結界だから出したまま忘れんなよ。その魔道具かおれしか解除出来ねぇ」
ノック式ボールペン型のPバリア2だ。ノック部分の丸玉がPバリア2でちゃんとボールペンも使える。
Pバリア1との違いは出し方と断熱付与だ。一年マイナスぐらいだろう、推測である。ボールペン型以外にもPバリア1と同じくペンダント型、ブレスレット型、指輪型、イヤーカフ型と色々作ってみた。
収納魔法陣をどれだけ小さく掛けるか?で、仕込める物もまちまちだったので。
「…何なの、そのでたらめさ」
「原理は単純。おれが作る結界を収納してあるだけだ。王様が2m以上の天蓋付きのでっかいベッドで寝てるんなら、ぶっ壊しちまうんで、その時は結界の大きさは調整してやろう。言うまでもねぇだろうけど、誰にも渡すなよ。悪用し放題だから」
「分かってる。もちろん、空気は循環しているのよね?」
「ああ。異物除去フィルターみたいになってるから、結界内部の方が空気が美味しいぐらい。結界の強度はドラゴンブレスでも平気」
「…なんてもの作るのよ…自動販売魔道具といい…」
「安心だろ。じゃ、引き受けてくれるな?報酬は王様と相談して」
「…貸しの取り立てでタダ働きじゃないの?」
「この前、取り立てただろ。今日は単なる仕事紹介。すぐ出るから準備しろよ」
「もう行けるわ。ベリンダのせいで周囲がうるさいから、明日にでも街を出るつもりだったの。宿代は前払いだし」
「それは
「ありがとう。影転移なら何回ぐらいかかりそうかしら?」
「一回」
アルは自分とテレストを影転移で一度影に潜ってから空間転移し、影転移で出た。
前、フォボスダンジョンで助けた時もこの方法で転移しても、まったくバレなかったので、国をまたぐ程の長距離転移の今回も不審に思わないだろう。アルが規格外なのは思い知ってるだろうし。
アルは執務室の中に出ると、隠蔽を解いた。
「おーっす。王様、さっき振り。ハイネさんより早く到着したか。こちらは魔法使いのテレスト。Sランク冒険者。王様の護衛に連れて来た」
「そ、それは願ってもない!…が、すごい交友関係だな…」
「初めまして。テレストよ。アル殿、どうなの、その口調って感じだけど、アタシもいいのかしら?改まった方がいい?一応、長いこと生きてるんで礼儀は一通り出来るけれど」
オネエなのに国王も宰相も文官たちも面くらいまくりだった。
…いや、アルが影転移でいきなり来たからか。
「あ、ああ。公式の場じゃなければ、口調はどうでもいい。それより、アル殿が護衛をわざわざ連れて来たということは、よからぬ企みがあったようだな」
「そう。おれを犯人に仕立て上げるつもりで情報が欲しかったみたいだけど、かなり無理があるよなぁ。出入り自由なんだし」
「確かに。囲い込むよりも、といった判断をしたのだろうな。…ああ、入れ」
そこに、ハイネが来たので国王が入出を許可した。
アルの方を見て、え、もう?という顔をする。分かり易い。
改めて他言無用と念を押し、テレストのギルドカードを一応確かめ、それからハイネが国王に報告した。
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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854
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