258 ツテは作っておくもの

 衛兵の詰め所を出て、ハイネと一緒に歩き出すと、


「で、ハイネさん、王様の護衛の強化はどうするんだ?防音結界張ってあるから他に聞こえねぇ」


とアルは防音結界を張りながら訊いてみた。


「正直、護衛騎士たちの手に余る。戦闘力だけじゃなく、誰が敵で誰が味方か分からないという意味でも。かといって外部からAランク冒険者を、というのも難しい。暇しているワケがないし、ちょうど空いてるとなると敵勢力に買収されてるかもしれないからな」


「だろうな。かといっておれはダメだからな!ギルマスに護衛させろ。引退冒険者が多いんだしさ。っつーか、おれ、味方扱いしていいの?部外者なんだけど」


「アル殿に害意があれば、とっくに命はないだろ。それに昨日の夕方もポテトや串焼きを振る舞ってたから、かなり好感度も上げてるし」


「それも計算だって言ったら?」


「王宮内に協力者を作っておけば、後々便利かも、程度だろ、どうせ」


「布石はそんなもんだ。ボードゲームでも後から活きて来る駒もあるだろ。おれ、ボードゲームも得意だから。…あ、それで思い出した。Sランク冒険者にツテがあるんで護衛してもらう?それなりに報酬はいるけど、信用は出来る」


「Sランク冒険者って二人、いや、三人…じゃないな。飛び抜けてる人はすぐSSランクに上がったっけ。二人しかいなくないか?」


「その一人、ドラゴニュートの魔法使いテレスト。オネエだけど」


「…オネエって…本当に?」


「本当。でも、冒険者ギルドで居場所を訊く必要が…あ、そっちにいる?仲間が居場所知ってたからすぐ連れて来れるぞ」


 フォーコバタによると、テレストはラーヤナ国の王都フォボスにいるらしい。

 会ったのは五日前でアセーボの街だったので、あれから王都を目指してそのまま滞在しているのか。


「…何?どうやって連絡を?」


「念話。魔道具経由で。テレストが何らかの依頼を受けていたとしても、こっちを優先するハズ。今は特にパーティは組んでねぇし」


「何故、そうもSランクの動向に詳しいんだ?」


「五日前に会った所だから。こっちは護衛依頼で」


「アル殿、ちゃんと冒険者活動してたんだな…」


「当たり前だろ。まぁ、Cランク冒険者にしては実績少ねぇけど」


「やはり、かなり魔法が使えるから特例でランクアップしたのか?」


「特例、になるか、一応。Dランクの期間はたった四日だったし。Cランク昇格試験はちゃんと受けたぞ。Dランクの昇格は偶然遭遇したキングレッドベアを討伐したら上がったけど」


「…ソロでってことだよな?」


「そう。Aランクパーティでもタフだから手こずるらしいな。タフさが分かる前に瞬殺だったけど」


「それで何でまだCランクまでなのか分からんな…一気にSランクになった冒険者もいるのに」


「ケタが違うって。あのSランクは二つのダンジョンをソロ攻略してるんだし。…あ、いや、もうSSランクか」


 自分(シヴァ)のことなのに本気で忘れ勝ち。


「アル殿だってダンジョン攻略ぐらい、あっさりしてないか?」


「さぁな。ちなみに、おれは魔法使いオンリーじゃなく『魔法も使える剣士』だ」


 最近は。


「まったくの丸腰なのに?」


「害意がないことの証明だろ。普段も丸腰だけど。…こうやってすぐ出せるし」


 【チェンジ】で久々に長剣を右手に出した。鞘ごと。


「…ふっつーの剣過ぎないか?本当に使ってるのか?」


「見る目はあるな。その通り、あまり使ってない」


 アルは笑って長剣を空間収納に戻した。


「おれが得意なのは格闘だ。時間がかかる時は剣も使う。魔法は補助程度だな。暑い所や寒い所で快適温度にしたり、足場を作ったり」


「え、補助ってそっち?バフをかけるとか相手にデバフをかけるとか」


「補助魔法って使ったことねぇな。使おうと思えば使えるだろうけど、ソロだと必要ねぇし。…あ、自分にデバブかけてオーバーキルを防ぐ…無理だろうな。そう思っちまってる時点でかからねぇし」


「オーバーキルって…」


「ははははは。結構失敗してるんだって。ダンジョンでがっちがちに凍らせ過ぎでドロップに変わらず、二度手間とか、猿山を吹き飛ばした、とかも。さすがに数が多くてでかい魔法でも、と思ったら。ドロップも吹っ飛んだけど、魔石はかろうじてそこそこ残ってた」


「……アル殿、街中ではくれぐれも…」


「分かってるって。ダンジョン内でもちゃんと周囲に人間がいないのは確認してるし。…で、出来ればテレストに護衛を頼むってことでいいんだな?」


「ああ。願ってもない。ただ、交替要員がいないとテレスト殿もキツイのでは、というのが気がかりだが…」


「伊達にSランク魔法使いじゃねぇから、王様に魔法かけとくか何か魔道具を持ってるだろ。ないなら、おれが魔道具貸してやるし」


「…アル殿、最初からその魔道具をお貸し下さればよろしいのでは?」


「その結界内から動けなくなるけど、いいんだ?」


「何?そういった性質のものなのか?」


「野営やダンジョン内宿泊で便利な魔道具なんだよ。だから、寝室で使うんなら、結界内から出ることも入ることも出来なくなる。餓死させることも可能なちょっと危ない魔道具なんで、戦闘力のない王様には渡せねぇ。奪い取られて悪用され兼ねないからな。それに、王様は執務があるから閉じ込めとくのも無理だろ。細い隙間さえあれば、毒殺出来るし、魔法も使える」


「魔法も?どうやって?」


「…え?」


「だから、どうやって魔法で殺すんだ?隙間だけでは無理だろ」


「あー根本的に魔法が分かってねぇのか。魔力を属性変換して炎だの水だの出すのが魔法。ここまではいいか?」


「ああ」


「魔力に物理的な大きさはねぇ。結界は物理だけじゃなく、対魔法結界でもあるから魔法も魔力も毒煙も防ぐけど、わずかな隙間があれば意味がなくなる。魔力が通れば魔法に変換出来る。ほら、アースランスは敵の足元に生やすだろ?それも先に魔力がそこまで到達しているから。だから、結界内の人の近くで魔法を発動させることが出来てしまうってワケ」


 一般的には。

 アルは【浮遊魔力利用】というスキルがあるため、魔力を通さなくても浮遊魔力がある所…ほぼすべての認知出来る範囲はどこでも魔法を発動出来るが。


「…アル殿、アースランス以外は聞いたことがないんだが、火球や水球、風刃は手元から出すのが普通では?」


「それが思い込みだっつー話。人に教えたことあるけど、すぐ使えるようになってたから、おれだけの話じゃねぇからな。つまり、慣れの問題。慣れたら射線遮られても魔法が使えるし、気配察知スキルか探知魔法、或いは魔眼や遠見スキルがあれば、見えない所でも魔法が使えるようになる。詠唱も同じく思い込み。なくても明確なイメージさえあれば魔法は発動する」


「では、離れた所から暗殺も可能、ということでは?」


「そう。おれだと皆殺しも一瞬。王宮ごと、街ごとの方がもっと簡単だけどな。おそらく、最初にハイネさんたちが怖がったのは本能的に気が付いてたからだろ。おれに害意がないのは納得したから、普通に話してるけど」


「…内容がまったく普通じゃないんだが…まぁ、ともかく。テレスト殿の護衛はいつから可能だろうか?どうやって連れて来る?」


「影転移で。事情話す時間を入れても五分もかからねぇな。連れて来る場所は王様の執務室でいい?」


「…そう簡単に出入りされても困るんだが、まぁ、他に知られない方がいいからよろしく頼む」


「分かった」


 アルは防音結界を解除してから、影転移経由でフォボスの街のある宿屋の部屋の前に転移した。



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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854


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