257 サイコホラー風見せしめ

 アルは文官を影から出してやり、衛兵と一緒に詰め所へ移動した。

 詰め所には国王の護衛騎士のハイネが待っていたので、国王から連絡が行き、しっかり事情聴取して報告しろ、ということだろう。


「じゃ、おれはもういい?自白剤は渡すからさ」


「事情聴取につき合ってもらえ、と陛下からの仰せなので、よろしくお願いする」


「報酬出るの?」


「相応には出すそうだ」


「タダ働きよりはいいけど、相応、ねぇ」


 影魔法使いの相応ではなさそうだ。


「じゃ、可愛い女の子を紹介してあげよう」


「いらねぇ。だいたい、おれがモテねぇと思う?」


「…そういえば、賢く、強く、大魔導師でお金持ちだっけ。何か威厳がなくないか?」


「フレンドリーでいいだろ。堅苦しいの、苦手なんだって。大魔導師ってのは過大評価だけど。まぁ、しょうがねぇから、立ち会ってやろうかな。サクサク行って、サクサク」


 文官の背後関係は知っといた方がいいか、と割り切って、アルも取調室へ入った。もちろん、衛兵が嘘発見魔道具を持ち込む。

 まずは自白剤を使わないでしゃべらせると、商業ギルドの本部長とギルドマスターを呼び出したのは上の命令で、上とはパステーク伯爵で反国王派の急先鋒ダハルヘイト公爵の派閥だ。

 血縁なのに何やってんだ、とは言えない。兄弟姉妹で血で血を洗うのが貴族社会だからだ。


 目的はやはり、アルの情報。

 住んでる場所、魔法やスキル、持っている財産、出身地、家族、恋人、等々、本部長たちがほとんど知らないことばかりだ。

 文官が逃げる程のヤバイことはやはり言いたがらなかったので、自白剤を使う。鼻を摘めばどうしても口を開くので衛兵が飲ませた。こういった事はさすがに慣れている。


 白状した所によると、国王暗殺計画があり、成功したらアルを犯人に仕立て上げるつもりだったので、装うためにも詳しい情報が欲しかったらしい。

 アルの利用価値の高さより、他者に渡るデメリットの方に軍配が上がったそうで。


 いや、何でおれを誰かが囲い込むのが前提だよ、とアルは思うが、権力者の思考なんて元々バカバカしいものが多いか。

 その暗殺計画の発端は第五王女の婚約で、サファリス国との繋がりを強固にしたいのなら年若く政治的価値もない第五王女ではなく、ダハルヘイト公爵の二十歳の長女でいいのではないか、と。

 その件も国王に退しりぞけられ、政治的方針も合わないので、まだ王太子の方がマシだと思ってるらしい。

 ダハルヘイト公爵の二十歳の長女は出戻りバツイチ。行状もよくないので却下は当然だった、とハイネがアルに説明してくれる。

 そんな娘なので親も親。貴族の矜持を履き違えているタイプらしい。

 王太子も嫌っているのだが、はっきりした態度は取れないため、誤解されているとか。


「暗殺未遂でも具体的な計画をした時点で死刑だよな?」


「もちろん。ただ証言だけでは不十分。証拠が見付からないと手出し出来ないし、勘付かれれば処分されてしまうだろう」


「そりゃそうだな。頑張って」


「…アル殿、罪をなすり付けられる所だったんだぞ。怒らないのか?」


「実質、無理だし。おれは政治には関わらねぇよ」


 アルは本当に怒ってない。

 呼び寄せた隠蔽しているコアバタたちは怒ってるのでご愁傷様だ。

 放って置くと謎の行方不明が発生することになるので止め、『『こおりやさん』を敵に回すとこうなるよ?』と見せしめにする。


 具体的な方法はコアバタたちと意見を出し合い、『こおりやさん』と言えば、やはり氷なので凍らせて行くことにした。指から徐々に。

 文官に直接命令したパステーク伯爵、ダハルヘイト公爵、この二人に自白剤を使って自白させて録音したものを確保した後、左の小指、薬指、中指、人差し指、親指、手のひら、左手首、前腕、二の腕、肩…と十分ごとに凍らせる範囲を広くして行き、左腕一本、完全に凍らせて一時停止。


 何とか解除しようと奮闘する所に、ふらりと『こおりやさん』店長が現れ、『呪いも解除出来る万能薬エリクサー』を見せびらかして買わせる。

 ちゃんと本物なので壊死した腕も復活。しかし、今度は右腕が凍り付く。

 …というサイコホラー風をアルは推したが、


『悠長なことをやってると、国王に先を越されるだけでは?』


とキーコバタにツッコミを入れられエリクサー見せびらかしは断念。


 左腕の後は右足の指から、ということになった。

 どうせ、処刑するにしても、それなりに身体と精神が残ってないと。


 主犯二人はいいとして、その家族がどこまで関わっているのか。

 普通に調べるのも時間がかかるので、自白剤使って片っ端から訊いて行くか。家族というだけで無関係ではないのだし。部下の方は国王にお任せで。


 これだけの話を、ハイネと衛兵が書類を作っている程度の時間でアルは終わらせていた。

 【高速思考】【並列思考】のおかげである。



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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854


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