256 今度からは護衛も一緒にさらって来よう

 食べ歩きの後は、イディオスは森に帰り、アルは『ランプ亭』に宿を取った。今日から二日間。空いていたので前に泊っていた部屋より広い所にする。


 さて、王都エレナーダに行くか。

 隠蔽をかけてからさくっと空間転移して、商業ギルド本部近くに出た。

 見計らって隠蔽を解き、商業ギルド本部の中に入ると、職員が待ち構えており、アルは応接室に通され、すぐにカップラーメンの販売許可書類を渡された。

 本部長もギルドマスターも王宮に呼び出されていて、それが昼過ぎだったのに夕方になる今もまだ帰って来ないらしい。アルのせいか。


 では、様子を見に行くか。

 書類をチェックした後、アルは商業ギルドを出ると、隠蔽をかけて影転移でさくっと王宮へ。

 食堂から本部長の気配を辿ると、小会議室みたいな所にいた。

 そこには転移ポイントがないため、普通に走って移動する。扉をぶち壊して入るワケには行かないので、普通にノックした。


「はい、何でしょう?」


 事務官らしき人が扉を開けた。


「商業ギルドの本部長とギルドマスターはここにいるだろ?職員が心配してたんで迎えに来たんだけど」


「君は?商業ギルドの職員には見えないし、どうやってここまで入って来たんです?」


「影転移で。『こおりやさん』店長のアルだ。おれの件で本部長たちを呼び出したんじゃねぇの?…はい、証拠」


 アルは廊下に自動販売魔道具を出した。お試しで設置したので見覚えもありまくりだろう。


「…盗んだ物じゃないという証拠はありますか?」


「たくさんあるけど、一番信じるのは王様の証言かな。連れて来よう」


 アルは自販を再びしまうと影転移で国王の執務室へ行き、国王を連れて再び戻った。


「王様、いきなり悪い。おれの身元証明してやって。自動販売魔道具を出しても信じてもらえなかったんで」


「…それはいいが、ここは?」


 面食らってはいたが、「アルなら何でもあり」認識がそこそこ出来たらしく、すぐそう訊いた。


「どこかの小会議室?」


「…陛下!申し訳ございません!不法侵入者としか思えなかったので、幻覚でも見せられているかと」


 事務官らしき男がひざまずいた。


「王様公認だから不法じゃねぇけど、侵入者と言えばそうだな。捕まえとく?」


「いいや。アル殿を捕まえて色々と話を聞きたいのは山々だが、実質出入り自由だから意味がないだろう。それで、今日はどうしたんだ?」


 国王もかなりアルに慣れて来たらしい。アルに敵意がまったくないのは分かるし、いきなり訪問を防ぐのは無理なので、諦めが入ってるのかもしれないが。


「商業ギルドの本部長とギルドマスターが中々帰って来ないって、職員が心配してたから見に来たワケ。どうせ、おれの件だろうし」


「アル殿!助かった!もう何度も同じことばかり訊かれて」


「打ち合わせも何もまだ簡単なことしか決めてないと、何度言っても繰り返しで訊かれて。昼過ぎから今までずっとですよ!」


 そこに、声が聞こえたらしく、商業ギルドの本部長とギルドマスターが口々にそう言った。それを聞いて、国王が怪訝けげんな顔をする。


「ううん?君こそ何やってるんだ。そんな指示はしてないのだが?そんなに長い時間足止めしていたら、ギルド職員が心配して当然だろう。誰からの指示だ?…言えないのか?」


「どうせ、国王派以外の派閥だろ。自白剤持ってるぞ」


 王族も一枚岩ではないだろうから、「国王派」で限定してみた。


「…アル殿、ものすごく有能だな。衛兵が来た後、頼む」


「衛兵、いつ来んの?」


 仮にも国王なので、衛兵を呼ぶ魔道具ぐらいは持ってるし、起動したのは魔力の流れで確認していた。


「もうすぐ」


 アルの探知魔法では衛兵たちはまだ結構遠い。


「広い王宮なのもネックだな。この人、逃げそうなんだけど、どうする?」


「アル殿が逃がすのか?」


「一応、部外者なんで、本職に任せたいなぁ、と」


 このメンバーなら逃げられると思ったのか、貴族の紐付き文官は身体強化をかけて駆け出したが、5mも行かずにストンッと影の中に落ちた。肩まで。


「あらら、王宮の中も結構危ねぇトラップがあるなぁ。余程、バレるとマズイことがあるみたいだな?おれの敵に回った方がもっとマズイと思うけど。そういった不幸にも見舞われるし?」


「……不幸か。そうかもな」


「噂によると、その状態で止められた場合、誰にも解除出来なかったそうだぞ。物理的なもんじゃないから床から掘り出しても無理だし。まぁ、土魔法でガッチガチに埋められても、解除出来ないみたいだけどさ。あーあ、このまま一生ここかで過ごすのかぁ。頑張って」


「…何でも話しますので出して下さい」


「見せしめにしといた方が早く片付くんじゃねぇの?王様」


「それもいいかもしれんな。王宮内にはたくさんトラップがあるようだし」


「そのトラップ張った人を働かせるんなら高く付くぞ?その人、大金持ちだから国の予算では動かないと思うけど。爵位や名誉や娘はもっといらねぇと思う」


「それは難しいな」


「商業ギルドの本部長とギルマスは連れて帰っていいよな?事情聴取が必要でも後でいいだろうし」


「ああ。構わんだろう」


「だって。よかったな。送ってあげよう」


「え、ちょっとアル殿…」


「王様の護衛はいなくならねぇよ。衛兵が来てからじゃ帰し難いだろ。…っつーか、部外者に護衛を任せちまっていいの?」


「護衛から引き離したのはアル殿だろ。連れて来たからには、そのぐらいはやって欲しいな」


「今度からは護衛も一緒にさらって来ることにしよう」


「…さらうのがあり得ないからな?一応、言うが」


「トップと話した方が話が早いし。…じゃ、本部長とギルマスは送るから。手荷物とか別にない?」


「それは大丈夫だが、送るってどうやって?」


「影転移で」


 ロビーだと驚かすので商業ギルドの応接室に影転移で送る。


「…見事なものだな」


「違う所に送ったかもよ?大魔導師なんて呼ばれてるけど、過分過ぎるし」


「虹も出せるのに?」


「ああ、見た?種も仕掛けもある手品だって、あれは」


「…手品?」


「こういったヤツ」 


 アルは典型的な手品「何もない所から物を出す」で、手を叩いてマドレーヌを出して見せた。食品用葉っぱに包まれている。


「…え?どうやって出した?」


「そう思うのが手品。種も仕掛けもある。虹だってそう。法則がある。…はい、あげる。ダンジョン産マドレーヌ。買うと、結構、高級品」


 ザイル国クラヴィスダンジョン産の物は、エイブル国では中々出回らないので。


「ありがとう」


 そこで、ようやく衛兵が到着したが、影に埋められた文官にビビっていた。


 国王に事情聴取まで付き合わせるワケにも行かないので、執務室に送り返した。

 短時間とはいえ、騒がせただろうから、カップケーキがたっぷり入った紙袋を国王に持たせて。



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新作☆「番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661006174854


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