224 今頃分かったのか。それで?

 しかし、アルは翌朝、すぐ足止めを食らった。

 冒険者ギルドのギルドマスターが宿までメッセンジャーを寄越したからだ。

 『冒険者ギルドに来て欲しい』と。

 カップラーメンのことなら、ついでに販売許可をもらおうかと思ったら、全然違った。


「一昨日、ラーヤナ国のネルソン侯爵の騎士二人と馬をラジェスの街に、影転移で送ったのはお前か?」


 アルが冒険者ギルドに行くと、すぐ応接室に通され、そこにはギルドマスターが待っており、挨拶なしでいきなりこれだった。


「…そういや、名乗ったっけ。そう。エイブル国にも問い合わせがあったんだ?」


「ああ。全国のギルドにな。クレモナの街を助けたのもお前だな?」


「そっちは知らねぇぞ」


「じゃ、騎士たちを送った後はどうしたんだ?」


「移動したから、ここにいるんだろ。騎士も追い出されてるんだから、おれ一人行った所で何も変わらねぇだろうし」


「影魔法の使い手なのに?」


「そう万能な魔法じゃねぇよ」


「『こおりやさん』の店長だろ?」


「何の関係が?」


「この街を一瞬で消滅させられる程、魔力量が多いって聞いた。150人以上の強盗を退治したって話もな」


「噂話を真に受けるんだ?ハッタリかもしれねぇのに」


「アリョーシャのギルマス、リックとは友人でな。イリヤの街のオーク集落を殲滅したのお前じゃないのか?」


「ちょっと待て。『』って何?クレモナの街の件、何か確定してねぇ?知らないって言ってるのに。言いがかり付けるために呼び出したワケか?」


 どうも、このギルマスの反感を買ってるらしい。

 面倒な仕事を増やしたから、というだけじゃないようだ。


「偽善者は嫌いだ。シャドーマントヒヒの恨みもある。あれで、おれの評価が下がった」


「へーそれはよかった。一介の冒険者に当たるようなギルマスじゃあな。元々評価が高かったとは思えねぇけど」


「一介の冒険者、ねぇ。『転移者』君?」


 アリョーシャのギルドの受付嬢及び、ギルマス、副ギルマスが守秘義務違反をしたとは思わない。


「今頃分かったのか。情報が遅いな」


 ここまで規格外の知識を披露しているのだから、察しがいい人には『異世界人かその関係者』だととうに分かっていると思っていたし、アルとしてもとことん隠したいのならもっと上手くやる。


 力を付ける前なら、いいように利用されそうだったが、今はそうじゃないし、異世界人かその関係者なら接触して来るかもしれないし、彼らの持ってる情報が欲しい。別に大々的に公表したいワケでもないが、少なくともトリノは分かっていることだろう。


「…可愛くなさ過ぎってよく言われるだろ?」


「で、何?さっさと本題に入れ」


「ネルソン侯爵から謝礼金が届いている。クレモナの街を助けたのもお前なら、望むままの褒美を取らせるそうだ。いらんようだがな」


「その話が本当なら、ネルソン侯爵はかなりのお人好しか、金が余って仕方ない人なのか?何の証明もなく褒美ってさ」


「もちろん、褒美はネルソン侯爵の所まで行ってもらってから、になる」


 それで行く人がいるんだろうか。

 普通の馬を使えば何週間もかかるのに。…いるか。


「証明はどうやって?」


「クレモナの街を救った姿なきヒーローは、土魔法と体術、それに回復魔法が得意で、幻術か隠蔽も使えるということになる。そのすべてを披露すれば、誰も疑えないだろう」


 疑えないが、危険視はするだろう。だから、姿を隠したワケで。

 それにしても……。


「何、その『姿なきヒーロー』って。誰が付けたんだか」


 アルは思わず吹き出した。中二病的フレーズが好きな人がいたらしい。


「ああ、それと影魔法も使えるようだ」


「ふーん」


「短時間でかなり大きい魔法も使っていて、魔力切れを起こしたようでもない。お前は魔力量が多いんだったな?」


「世の中には魔力を溜められたり、魔法を封じ込めてたりする、マジックアイテムや魔道具っていうものがあるの、知らねぇの?姿が見えなかったんなら単独とも限らねぇし、集団幻覚や暗示をかけられていただけかもしれねぇ」


「…とことん可愛げがないな。本当の年はいくつだ?百歳でも驚かないぞ」


「何言ってるんだか。先入観持ち過ぎだって。慣れねぇ生活に何とか慣れようとしてるのに、他人に関わってる余裕なんざねぇよ」


 …などと、言ってみたり。

 転移者だと認めるような発言はしない。


「話がそれだけなら、もう行くぞ。これでも忙しいんで。謝礼受取りは受付でいいのか?」


「そうだが、謝礼は受け取るのか」


「何で断ると思うのかが分からねぇんだけど?」


「理由付けて囲い込みに来るかもしれないぞ。長距離の影転移が使えるのは、かなり有益だ」


「王様とお友達だから大丈夫なんだよ。勅命出てるの忘れたか?」


「……そうだった」


「エイブル国の国王にも挨拶に行かねぇとな。貸しあるし」


 第五王女の件で。結局、隣国の貴族と結婚が決まっていた。

 アルが欲しいのは神獣と異世界人と召喚情報である。王族は代々かなりの情報を溜め込んでいるのだ。


 ラーヤナ国でも国王に許可をもらって、フォーコバタが片っ端から書物をコピーし、知識にも蓄えて整頓し、アルに書物にして渡してくれていた。

 日記や覚書は結構、役立つ情報がある場合が多いので、そちらも収集させている。




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新作☆「番外編14 名もなき転生者は誤解する」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660585084262


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