225 意趣返しはしておこう
アルが応接室から出てさっさと受付の列に並ぶと、同じく行列に並んでいる冒険者たちからカップラーメンの問い合わせをされた。
「悪いけど、商業ギルドの許可が出なかったんだよ。影響力が大き過ぎるからって。ちょっと商業ギルドの本部まで行って来るから、もう少し待ってくれ」
「え~?本部って王都まで行くってことか?」
「じゃあ、販売するのは何ヶ月も先になるってこと?」
「いや、そこまでかからねぇって。移動速度が速い乗り物の魔道具があるから」
「店長が王都に行くんなら『こおりやさん』は今日でおしまいで、もうやらないってこと?」
「今日も問題なければ明日まで。おれがいなくても仲間が対応するんで」
「え?仲間いたんだ?」
「見たことないんだけど」
「見せねぇようにしてるんだよ。素材だけでも超高額な超高性能魔道具で売ってるんだから。おれが普通に動いてるのは、別に襲撃された所でまったく困らねぇからだし」
コアたちも困らないが、存在を公にしたくない。
「大魔導師様だしな!」
「ああ、そうだった。大魔導師様だった!」
「気軽に認定し過ぎだろ。おれが作ったっていう証拠もねぇのに」
「そんなん簡単だって。魔道具って割と繊細なもんだし、ここまでスゲーもんの可動状況を作った当人が見届けないワケがないし!」
「でも、二ヶ所目だろ?最初はラーヤナ国王都で」
「国も人も街の規模も違うんだから、気になるって!だろ?」
「まぁ、否定はしない。ちょっと改良してるんで、そのせいで不具合が出ないかどうかも気になる所で。大魔導師呼びはやめて欲しいけど。…ああ、で、カップラーメンはこの冒険者ギルド内で売るつもりだったけど、ギルマスが許可しそうもねぇんで売るならダンジョン前になるぞ」
「…え、何で?」
「偽善者は嫌いだってさ。かき氷にしろカップラーメンにしろ、採算取れねぇのは確かだし…あ、冒険者ギルド前の自動販売魔道具、撤去しとこう。ナンクセ付けられそうだし。さっきも散々、イヤミだか探りだか何だかで絡まれたし。伝言するだけでよかった所を」
別に怒ってはいないが、舐められたくもないので意趣返しはしておこう。
アルは念話で、冒険者ギルド周辺の自販撤収をパーコバタに頼んでおいた。
「…ええっ?」
「そんなぁ!この後、並ぼうと思ってたのに~」
「今日は昨日より設置場所を増やしてるって」
希望する所も多かったが、そう離れてない場所に設置しても行列緩和しないので、今日は適当な間隔を空けて自販設置を増やしている。
「あ、そうなんだ」
「…っつーか、何台あるんだ?一台でも相当高そうだけど」
「五十台ずつ百台。いやぁ、働いてるなぁ、おれ」
収入には全然結び付いていないが。
「…そんなにっ?」
「たくさんあるんなら売れって言われない?」
「超言われてるけど、断ってる。国家予算五年分でも一台の素材代にすら届かねぇのに、払えるの?って話でさ。Aランク魔石が五個は必要、更にレア鉱石レア素材盛りだくさん。でもって、ずっと可動出来るワケじゃねぇから、動力源の魔石交換も必要になるワケで」
「……超無理だな…」
「…そんなにどうやって集めて…あっ、仲間がいるんだっけ」
「そ。だいたい、誰かに譲った所で殺されて奪われるのがオチだぞ。防犯対策はしてあるけど、地面ごと引き抜けば持って行けるし、現にフォボスではそういった奴らも出た。スレイプニルを使ってさ。返り討ちにしたけど」
「……」
「…やっぱ、強盗出るんだな…」
ガコッ!ガコッ!
「…えっ?何の音?」
「自動販売魔道具を撤去する音。杭を引き抜く音だな」
自動販売魔道具の中はほぼ空洞なので音が響くのである。
【地面も
『ご苦労さん』
パーコバタの報告にアルは念話で労う。
「って、いつの間に頼んだんだ?」
「念話で」
「…おれらと話しながら?…スペックが違い過ぎる…」
そんな話をしていると、順番になり、アルはスムーズに謝礼を受け取った。
金貨30枚。思ったより多いのは、心付け込み、のつもりなのだろう。
もちろん、ネルソン侯爵の所へ褒美を貰いに行くつもりはない。
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