226 王都エレナーダまで空の旅

 アルが商業ギルドに寄ると、ギルドマスターの紹介状が出来ていたのでもらう。


「手数料はいらないから、カップラーメンを買わせてくれ!」


 そうギルマスに言われて、三種類五個ずつ売って来た。サンプルが取り合いになったらしい。

 粉末のかん水もそこそこ渡しておいた。レシピはもう渡してあるので、見て作ってくれ。麺作り自体は全然難しくない。


 さて、予定より遅れたが、王都に行くか。

 防壁の門から出てすぐ、邪魔にならない所にバイクを出し、軽く点検してからゴーグルを装着。ちょっと思い付いて、後部シートの横に結界で羽を付けた。飛行モードの時に魔力消費が少しでも抑えられるかもしれない、と。


 投影マップで地図を投影して、王都エレナーダの位置確認。

 道なりでも結構な速度で走れば六時間、バイクの飛行モードで最短ルートを行けば二時間ぐらいか。適当な所で降りて転移ポイントを置いて行く、でいいだろう。


 100mぐらいは地面を走った後は飛行モードにし、上空20mまで上がり、加速。更に、風魔法を使ってスピードを上げる。

 風を吹き出すだけではなく、風の流れを操作してバイクの前にある風はよけて流れるようにし、風抵抗を抑えるのだ。座席周辺には結界を張ってあるので風の影響は受けないし、これなら騎竜並みに速い。

 街からそれなりに離れた後は隠蔽をかけるつもりだったが、かけなくても何が飛んでいるのか見えないだろう。


 音楽をかけて空の旅。防音結界なので音漏れなし。

 十分とかからず、隣町に到着。ポイントを置きに一旦降下する時はさすがに隠蔽をかけた。騒ぎになりそうなので。

 …ああそうか。影転移で降りればいいのでは。視認出来る所なら影転移出来るのだから。今度はそうしよう。

 再び、飛行モード+風魔法。

 風操作に慣れて来たからか、更にスピードが上がる。

 ジェット機並みの速度じゃないだろうか。

 うっかり行き過ぎてしまった街は、帰りにポイントを置けばいっか。

 上空なら転移は出来るので、いつでもポイントは置けるのだが、誰か送る時に困るワケで。備えは必要だろう。


 空の魔物にも遭遇せず、雨にも降られず、どれだけスピードを出しても構わない上空、そして、気流にも乗れたことで更に更にスピードアップが可能となり、一時間と経たずに王都エレナーダ上空に到着した。


 少し行き過ぎたので今度はゆっくりと戻り、防壁門前の行列から少し離れた所にアルはバイクを着陸させる。行列に並んでいた人たちが次々と注目し出した。

 いつものことなので、スルーしてアルはバイクをマジックバッグに【チェンジ】で収納し、最後尾に並ぶ。


「こんにちは。Sランク冒険者は優先的に入れると思いますよ?」


 愛想よく声をかけて来たのは、商人らしき三十前後の男だった。

 幌馬車の荷台に座り、護衛の冒険者が間に入っている。


「誰かと勘違いしてねぇ?おれはCランク冒険者」


「…失礼しました。空飛ぶ魔道具を持っている人は滅多にいないかと思いまして」


「ああ、スゲぇ短期間でSランクになった人か。あの人のは半透明の竜だぞ。見たことあるけど」


 こういった情報はどんどん流して行きたい。アルとは別人だと印象付けるために。


「…そうですか。すごい美人という噂でしたが、男で美人という評価はどんな感じでしょう?」


「さぁ?人によるんじゃねぇの。そういった感覚って」


 本人に訊いて欲しくない。


「先程の乗り物は魔道具ですか?マジックアイテムですか?」


 魔道具は人が作るもの、マジックアイテムは大半がダンジョン産、人が作れるものがあっても原理がよく分からないもの、という区別になっている。

 まぁ、人によっても区別が曖昧な所があるが。


「魔道具。パラゴの街からここまで、一時間ぐらいで移動出来たって言ったら信じる?」


「…すごいスピードでしたから八割ぐらいは。二割ぐらいはからかわれているのかも、と。ダンジョンで手に入れられたものですか?」


「素材の大半はな。おれが作った。錬金術師でもあり魔道具師でもあって、一応、商人でもある。待ち時間、少しあるようだから、買う?」


 アルは【チェンジ】でかき氷の自動販売魔道具を出してやった。


「…そ、それは…」


「かき氷の自動販売魔道具。ここエイブル国でもかなり噂になってるようだけど、やっぱ知ってるんだ?」


「もちろんです!…あっ…」


 商人は荷台から慌てて降りようとして、何かにひっかかって変な風に落ちそうになった所を冒険者に助けられた。


「そう慌てなくても逃げねぇのに」


 アルは自分も食べたくなったので、銅貨を出して自販の投入口に入れた。

 赤のいちごもどきのボタンを押すと、氷が削られる音が涼やかにシャリシャリと、ガラスの小窓からもその様子が見える。

 え、何?とばかりに見ていた護衛たちは、目を見開いた。


「こ、氷なのか?」


「そう。この季節に嬉しいかき氷」


 アルは出来上がったかき氷をトレーから受け取って、刺してあるストロースプーンで食べる。


「買うならどうぞ」


「買う!買います!」


 ポケッと見ていた商人が我に返って、早足で近寄り、じっくり自販を見た後、銅貨を2枚出して投入口に入れた。何か目がキラキラしている。ワクワクしてるらしい。

 気になったらしく商人は緑のボタンを押した。


「その場で削るんですね!すごい!」


 アルが買った時は少し遠かったので、間近で見ると、尚更だったようだ。かき氷が出来上がる頃には、目が潤んでいた。

 …何だか感動したらしい。


「…あんた、『こおりやさん』の人?」


 護衛の冒険者も知ってたらしく、そう確認を入れて来た。


「そう、店長。今、パラゴで自動販売魔道具の設置をしてるけど、違う商品の販売許可をもらいに商業ギルド本部まで来たワケ」


「違う氷菓子?」


「いや、保存食」


「…保存食?」


「画期的過ぎてパラゴのギルマスでは判断出来ないって程のものだから、早々誰かに預けることも出来ねぇし、おれが来た方が早いんで」


「…一時間って冗談じゃなく、本当に?」


「ああ。魔法と併用したらここまで短時間に。おれしか出来ねぇ移動手段だけど。…一般人だとバラバラ?」


 結界魔法が使えず、高ステータスでもないと。


「…怖ぇ。そこまで無茶して来ないとならないって緊急なのか?」


「全然。実験も兼ねてるけど、無茶はしてねぇし、緊急って程、急いでもない。パラゴで強盗が出ても大丈夫だろうし」


「…おいおいおい、強盗が出てるのかよ…」


「誰がどう見ても金目の物だからな。防犯対策は万全。ドラゴンブレスでも無傷な程に。でも、強盗が出ると行列に並んでる人たちには迷惑をかけるから、仲間がフォローに付いてる。悪心持ちだけに呪いの付与が出来れば手間なしなんだけど」


 悪心かそうじゃないかの判断が難しい。呪いの付与自体はコアたちが出来るのだが。


「使い魔に見張らせてはどうでしょう?」


 シャクシャクと氷を食べながら商人が口を挟む。聞いてはいたらしい。


「判断が人間並みで、細かい所まで融通が利く使い魔っている?」


「…思い当たりませんね」


「あのぉ、わたしも買っていいですか?」


 じっと様子を窺っていた他の商人たちが集まって来ていた。


「どうぞ。ただし、おれが街中へ入るまでな」


 アルは自動販売魔道具の杭をガコッとその場に打ち込んだ。

 行列が進むと自販から離れることになるので。

 アルの許可に早速、一番前の商人が買い、他の商人たち、冒険者パーティは自販の前に並び出した。

 護衛の冒険者はさすがに仕事中なので、持ち場は離れない。が、羨ましそうに見ていた。暑いので気持ちは分かる。

 …とアル自身はかき氷を食べて涼んでるワケだが。


「この王都では魔道具の設置はしないんですか?」


「予定はねぇな。次に設置する場所は決まってるんで」


「それは残念です。しばらくは王都にいらっしゃる予定ですか?」


「街中にはいねぇな。用事が済んだらダンジョンに潜ろうかと思ってる。鉱物ダンジョンだそうだし」


 目減りして来たのでちょうどよかった。

 採掘も出来るが、深層では質のいい鉱物インゴットもドロップするのだ。

 おニューの刀も試してみたいこともある。

 商業ギルド本部もカップラーメンの販売許可に関してそう早く結論は出ず、しばらくは会議になるだろうし。


「そうですか…」


 世間話をしているうちに列は進み、アルの順番間近で自動販売魔道具は回収した。

 ちゃんと地面もならしておく。買えなかった人たちが残念そうにしているが、キリがない。

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