222 ルールは守ってこそ

「はいはい。で、かき氷の自販とカップラーメンの自販は時期をズラした方がいいと思う?」


 アルはグロリアの発言をさらっと流し、話を元に戻した。


「時期はいつでも衝撃だろうし、まずはギルマスに話だけでもしといてみたら?いや、商業ギルドが先か?」


「あまりに画期的だから営業許可が出ねぇかもしれねぇしなぁ」


「え、それ程?」


「やっぱ、アルは認識が甘いし~」


「いくらアルでも多少は分かってるから、おれらに試食させたんだろ」


「いや、商業ギルドにそんな権限があったの?って所で驚いてる。そりゃ盗品を堂々と売ってるんなら止めるだろうけどさ。細かい雑貨まで把握出来ねぇだろうし、そもそも、加入せずに販売してる商人だっているだろ」


「それはそうだろうけどさ。商業ギルドに加入している信用ってのが一応あるワケで。目ぼしい場所は商業ギルドが抑えてるし」


「ウチの商売にはあんまり関係なさそうだけど」


「いっそ街の外の方がまだトラブルがないかもな。不思議と事故は増えるかもしれないけど」


「おれはそうも物騒じゃねぇよ。街中で許可が下りなかったらダンジョン前で出店やろっかな」


「最初からそっちにしたら?許可いらないし」


「え、許可いるだろ。商業ギルドの管轄って街だけじゃなく、その周辺一帯の地域だぜ?危険だから滅多に店や屋台を構える奴がいないし、商業ギルドもわざわざ確認に行かないだけでさ」


「結局、許可なしでいいってことだろ」


「ルールは守ってこそ、楽しいんだよ。ゲームだってそうだろ?」


「それはそうかもしれないけど、規格外過ぎのアルがそう言うのは何だか納得出来ないんだけど~」


「そう言われても、ルールを破ってるワケじゃねぇし」


「ともかく、まずは商業ギルドだな。で、さっさとらーめんとやらを登録して広めて来い」


「そうすぐ広まらないだろ。今までなかったってことは、材料が特殊なんじゃないのか?スープの味も複雑だし」


「ラーメンに必須なかん水は海水から出来る。不純物をろ過して煮詰める。鑑定持ちと一緒に作業すれば出来るハズ」


「海水が側にないのは?」


「あるじゃねぇか。アリョーシャダンジョンに。成分的には変わらねぇぞ」


「…アルにかかるとダンジョン探索は畑に収穫に行く感覚だよな…」


 確かにそれに近い。


「かん水の作り方は他に草木灰の上澄みをろ過する方法もあるけどな」


「スープは何スープ?」


「鶏ガラスープに魚の旨味を引き出した出汁。海の魚を茹でて燻製にしてカビを付けて熟成した鰹節…ダンたちは食ってるか。たこ焼きの上のひらひらだ」


「つまり、簡単に作れるもんじゃないワケだな」


「そうだけど、きのこ類の出汁でも野菜出汁でもいいんで、そこは工夫次第。ラーメンは鍋のシメにも使われるぐらいだしな。味調整は必要だけど」


「…ああ、うん、美味いな、それは」


「で、アル。珍しい物を見せて散々美味いもんの話をした後、周囲の連中は放置なワケか?」


「おう。ここは食堂だろうが。食欲を満たせるだけの食べ物はたっぷりある」


 アルはカップラーメンを持ち込んだワケだが、街中の食堂と違って併設されている食堂はパーティ内や依頼主と打ち合わせにも使うこともあり、持ち込みオッケイなのである。

 まぁ、街中の店でも日本程、持ち込みにうるさくないので、店の人に許可をもらえばだいたいはいいが。


「宣伝で試食を配るとかは?食べ方の説明もあるんだし」


「数人ならともかく、大勢になればそれもギルマスの許可がいるだろ」


「確かにな。…ということで、諦めろ。アルは『こおりやさん』の店長ってだけじゃなく、Cランク冒険者だぞ。全然武装してないけど」


 リーダーだけあってグロリアがそうまとめたが、アルは言われてやっと気付いた。

 商売人として動いているため、冒険者ギルドに来たのにまったく武装しておらず、普段着だと。素材がいいのでその辺の冒険者たちより防御力は高いが、そもそもレベルが高いワケで。


「まぁ、おれを舐めるのは頭の悪い受付嬢ぐらいだから、いっか」


 【チェンジ】で一瞬で武装出来るし、どうせ、飾りだ。

 現に周囲の冒険者たちの誰もがアルを舐めていない。

 Cランクの中でもそこそこ知られているダンたちがいるから、というだけではなく。


「舐められたんだ?」


「おうよ。勝手に仕事斡旋しやがった。商人から買収されてて」


「…おいおい、随分とたちが悪いな」


「この国で?」


「ラーヤナ国アレーナの街で。マジで勅命を何だと思ってるんだかな。国王に教えといたんで結構な罰を食らうだろうよ。勅命違反は国家反逆罪だし」


「…何でそうも増長してるんだ、受付嬢が」


 強者を見慣れてるハズなのに。


「なぁ?おれの方が言いたい」


 別に興味ないので調べてないが。


「国王と直でツテがあるのはもう今更驚かないけど、そっちは驚くよな」


「いや、どっちも驚くぞっ?」


 周囲の一人がそんなツッコミを入れる。


「だって、アルだし」


「アルだしな」


「あんなスゲー魔道具作っちまうぐらいだしなぁ」


「他にも色々と規格外だし」


「あ、そういや、このギルドの職員にも舐められたことがある。シャドーマントヒヒの討伐依頼を受けて討伐して来たら、買取担当が査定した書類もあるのに中々信じなくてさ。依頼達成手続きもしてくれねぇんで、隣の人に頼んでシャドーマントヒヒは引き上げて、商業ギルドに売った。なんで、ツテがあったワケだけど」


「おいおい、そんな職員がいたんなら教えろよ」


「忘れてたんだよ。ついさっき調べてもらったら、もう辞めてた。やっぱ、問題になって減給されただけでも、居辛くなったらしい」


「そりゃそうだろうな。受付もしないって何で?」


「職務放棄だよなぁ」


「あ、それ、事情知ってる!教える替わりに…」


「別に興味ねぇんでいいよ」


「…そう言わずにさぁ」


「先に快く教えたらお礼に何か貰えるパターンだったのに」


「駆け引きヘタクソ」


「さて、商業ギルドに行こっと」


 冒険者ギルドを出るまでに、散々呼び止められそうなので、アルはあっさりと影転移で商業ギルド前まで移動した。



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新作☆「番外編14 名もなき転生者は誤解する」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660585084262


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