221 美味い食べ方に国境なし
「あ、ダンたちに相談しよ」
冒険者の意見を聞くのも大事だろう。
アルがパーコに聞くと、おやつ時間を過ぎた程度の時間でもダンたちはもうダンジョンにいなかったので街中だろう。
アルはパラゴの街に再び転移して、ダンたちの気配を探ると冒険者ギルドにいた。依頼達成報告とドロップ品を売りに来たらしい。
「よっ!ちょっと意見聞きたいんだけど、今いい?」
リーダーのグロリアは受付に並んでいたが、他の四人は冒険者ギルドの食堂にて軽食を食べていた。
買取カウンターは並んでる人がいないので、すぐ終わったのだろう。
「ああ。どうした?『こおりやさん』で忙しいんじゃないのか?」
「もうそうでもねぇよ。別件。あちらの世界でも画期的な保存食を作ることが出来たんで、ここで売ろうと思うんだけど、影響が大き過ぎるかな~と思って」
「保存食?どんなのだ?」
「っていうか、アルが影響大き過ぎるって言うぐらいだから、とんでもなさ過ぎな気がするんだけど~」
「はい、これ」
でんっ、とカップラーメン自動販売魔道具を出した。
大きさは従来の物と同じだが、デザインと中身がかなり違っている。実際、カップラーメンが詰め込まれている辺りが特に。
「らーめん?」
「実際、買う所からな」
アルがコイン投入口に銀貨を1枚入れ、ボタンを押すと、カップラーメンがころりと転がって落ちて来た。勢い良くなく、遅くもなく。
「…え?このままで食べられないんだ?」
「保存食だって言っただろ。持ってみ?かなり軽い」
「ホントだ。え?これで食べ物?」
「中はこうなってる」
ラベルを八割まで剥がして見せてやった。
「…乾燥してる?」
「そう。フリーズドライ製法で、その名の通り、凍らせて乾燥させるとここまで軽くなるワケ。…で、熱湯を用意する」
アルならダイレクトに熱湯を注げるが、今はわざわざティーポットを出してその中に熱湯を入れてから、カップラーメンに注ぐ。線まで。
で、蓋の上に砂時計を置いて三分待つ。
「そんなに短時間で出来るのか?」
「おうよ。お湯を用意するだけで、温かくかつ美味しいもんが食える。しかも、封を開けないままなら三年は保つ。だから、画期的」
「そんなに保つ保存食って…今あるの、売れなくなっちまうんじゃね?」
「だから、期間限定でしか出さねぇよ。ラーメン自体は商業ギルドに登録するつもりだから、いずれ、どこでも食えるようになるだろうしな。うどんともパスタとも違う第三の麺、中華麺」
「どう違うようになるのか、想像も出来ないなぁ」
「材料がかなり変わってたりするとか?」
「いや、ほぼ一緒。違うのはかん水っていう弾力が出るものが入っている点」
「弾力?麺なのに?」
「食えば分かる。お椀かカップと箸用意。…スープすくうのに小さいお玉があった方がいっか」
アルは適当な金属と木を出して、小さいお玉を錬成した。
『試食容器はセルフでいいいのでは?』とクーコが言い出したので、それを採用してみた。
確かに、冒険者ならカップ食器類は持ち歩いている。
「はやっ!そんなに速く錬成出来るもん?」
ちゃんとお椀を出してから、ボルグがツッコミを入れた。
「何かと規格外だから今更も今更だろ」
ダンは今更驚かない。
「錬金術のレベルが上ってもそこまで速くは出来ない、と思うんだけど。だったら、街は錬成した物で溢れてるし」
マーフィの言葉に、
「いやいや、魔力量にも材料にもよるだろ」
とヒューズがツッコミを入れた。
「そ。細かい物、慣れてねぇ物は魔力が多くいるし、魔力は足りても連発は出来ねぇ人だって多いらしいし。…さて、そろそろ時間だ」
砂時計の砂が下に落ちたのを見届けた後、アルは砂時計をテーブルに置き、蓋を全部開けて、菜箸で中の麺と具材をかき混ぜた。
「うおっ!うまそうっ!」
「マジで?マジでこうも短時間で戻ったんだ?」
「おお~いい匂い~」
「腹減る匂いだよなぁ」
匂いで周囲にいた冒険者たちも更に寄って来た。
そんな中、アルは麺を五等分にして配り、続いてスープと具材もそこそこ同じになるよう注いだ。
カップラーメン容器に残した一人分の試食は、ちょうど来たグロリアの分なので、はい、と渡した。
「じゃ、試食どうぞ」
「おう、いただきます」
ずるるる…とダンたち五人は自然とすすった。
うどんが根付いているため、こちらの世界の人たちは普通にすすれる。
ごくりっ、と周囲の人間の方が生唾を飲んだ。
「なぁ、買っていい?」
「美味そうなんだけどっ!」
「いや、ちょっと待て。商業ギルドに販売許可もらってねぇし、ここのギルマスの許可もまだだから」
グロリアも見たので、アルはカップラーメンの自販をさっさとしまっておく。
「じゃ、ダンたちは何でっ?」
「お友達特典」
「じゃあ、友達に…」
「そんな打算的な友達はいらねぇよ」
アルがバッサリ切ってやると、さすがに言い返せないようだった。
自販を見たので『こおりやさん』との関係は明白だし、カップラーメン容器にはマークも入っている。
「美味い~。もっと欲しい~」
「まとめ買いさせてくれ。常備しとく」
「第三のとか言ってたの、大げさじゃなくてマジだな。他の麺にはない食感とスープの絡み具合」
「スープにご飯入れたいな。鍋のシメみたいに」
「それな!」
「やっぱ、その結論に辿り着いたか。場所は変われど、美味い食べ方に国境なし。他に残ったスープは玉子焼きの味付けに入れたり、野菜炒めの味付けに使ったり、スープだけじゃなく、カップラーメンを砕いて入れて炊き込みご飯にしてもいい、とバリエーションも豊富」
「それ、美味そうっ!」
「ただし、栄養バランスに気を付けろよ。どれも塩分高めだから。野菜も少ししか入ってねぇし。…で、かき氷も販売してるのに、こっちのカップラーメンも販売してもいいと思う?ズラした方がいい?」
「ここ冒険者ギルド内で販売ってことか?保存食だし」
「え、保存食だったのかっ?新しい料理の試食かと思った…」
説明を聞いてなかったグロリアがそう言った。
「画期的だろ。計算上、封が開いてない状態なら三年は保つ。でも、フリーズドライ製法で、凍らせてから乾燥させてあるんで、他で作るのは無理だろうな。…ということで、冒険者ギルド内で売るのは、さすがに強盗は出ねぇ、強盗にもならねぇだろうってのと、一番保存食が欲しいのが冒険者だから。ダンジョン内で食うならセーフティエリアか階段か、防臭結界を使った中じゃねぇと、だけどな」
「…あっ!今朝の話と繋がってたんだ?」
「一応。お前らはまだマシだけど、他の冒険者たちは何かもう見れば見る程、悲惨な食生活してるしさ。セーフティエリアがあっても煮炊きしねぇし」
「冒険者は料理出来ねぇ奴も多いんだよな~女は特に」
「料理出来たら違う仕事してるだろうしな」
「ってか、とうに結婚してるんじゃねぇかと」
「やっぱ料理出来る女はモテるんだ?」
「もちろんだ!」
「食材ドロップを料理してくれるんだから、そりゃもう人気だって」
「アルの料理の腕前がバレたら、料理出来ない女どもが争奪戦するだろうなぁ」
「そうじゃなくても、大金持ちでモテモテ」
「金目当てじゃねぇか!」
「何目当てでも超ウンザリ」
「そういった打算的な所も可愛いじゃないか。いい顔して裏で何か画策してる方が怖いし」
「そう言いつつ、グロリア、超逃げるクセに」
グロリアは三十二歳だが、もっと若く見えるし、冒険者らしい冒険者で金髪碧眼のイケメン、パーティリーダーなので顔も広くかなりモテる。
「嫁さん命なんで!」
なのに、気ままにあちこち行ってるのは、グロリアの嫁はもう亡くなっているからだ。流行り病で呆気なく。その時に子供も一緒に。
定住していた家も手放しているのは、そこにいるのが辛かったからだ、とダンたちから聞いた。
もう数年前のことだが、今でも現在形での発言は、グロリアにとっては単身赴任している気分なのだろう。
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新作☆「番外編14 名もなき転生者は誤解する」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660585084262
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