220 豚骨味と味噌味!
アルはゴミ回収ついでに見回りをしたが、別に問題なさそうだったので、キエンダンジョン温泉に行き、自動販売魔道具をバージョンアップさせることにした。とりあえずの物しか、バージョンアップさせてなかった。
結界だけはアルが作らなければならないので、後はキーコに任せることも出来なかったワケで。ボタンやコイン投入口、取出口は結界を外す、という形の結界なのでそれなりに繊細な作業が必要になる。
【マスター。カップラーメンの豚骨味、味噌味をご試食頂いてもよろしいでしょうか?】
アルの作業が一段落したのを見計らって、キーコが通信バングル経由でそう訊いて来た。
容器は完成したが、カップラーメンはまだ醤油味しか作ってなかった。今、キーコバタでないのは、キーコバタはパラゴにいるからである。
「スープの味や具が決まったってこと?」
『最初に作る違う味なのだからこだわらないと!』と各コアが張り切り出して、結果、中々決まらなかったワケだ。
『はい。各コアが満足するものが出来ました。まずはマスターにご試食頂いて了解を頂いてから、量産に移ります』
こちらです、とカップラーメンが二つ、机の上に置かれた。
三毛猫にゃーこがラーメンを食べているイラストを中心にして、円状に『らーめんやさん』のロゴが入っているマークだ。豚骨味がベージュに黒、味噌味が茶で一目で違いが分かるようになっている。醤油は赤だ。
では、とアルはどちらにも熱湯を入れ、重し兼砂時計を置いた。
砂漠の砂に色を付けてあり、赤、黄、白、水色、ピンクの五色。
もちろん、三分の砂時計だ。これも別売りしよう、というのは先に決まっていた。重しを兼ねるため6×4cmの少しどっしり型。
素材はソルジャーアントの目。溶かして接着剤としても使えるカエルの粘液と合わせたら、アクリルみたいな軽くて透明な物になったのだ。ガラスではマジックバッグを持ってない冒険者が携帯するのに不安があるため、ちょうどよかった。
このアクリルもどきは、【硬化】の付与をして雪仕様のシヴァの軽量ヘルメット、そのバイザーや水中用ゴーグルにも使われている。
この砂時計には支えのフレームはなく、透明な本体のみなので、見た目もきれいだ。まったく切れ目がなく、そこそこの強度があるので、壊れない限り、砂が出ることはない。
では、どうやって砂を?と疑問だろうが、錬成するとそんなことも出来るワケだ。この程度なら他の錬金術師でも作れるだろう。
素材の入手は冒険者に頼めばいいし、難易度も高くない。作り方を登録しようと思っているので、仕様書を書いてあった。別にガラスで作ってもいいワケだ。砂時計自体は普通にあるので。
三分経過した。
豚骨の方はスープに合わせてボアの角煮スライス、スクランブルエッグ、ニンジン、きのこ、ネギといった具で、奇をてらわない所がいい。冒険者向け保存食だからか、味は少し濃いが、好みで薄められる範囲だ。
味噌の方は、鳥のサイコロナゲット、揚げ、ミニかまぼこ、わかめ、ネギといった具であっさりながらも、食べごたえもある。
味噌の風味がよく出ていたが、和風出汁は味調整程度でメインは鶏ガラスープ。
二つとも味はかなり美味い。普通の一人前の七割程度の量なこともあって、二つともぺろりだった。
もし、食べきれなくても時間停止の空間収納があるので、まったく問題なかったのだが。
「美味かったけど、味噌の方、ネギ以外の野菜は?」
『揚げは大豆です』
「それ言うと、何でも野菜になっちまうんで、緑黄色野菜は?」
『中々合うものがなかったのです』
「キャベツでよくね?」
『新しい味を期待している方々には残念ポイントになるかと』
「それも一理あるか。ま、ないよりマシなこの程度の野菜で栄養バランスは別にいいか。いいぞ、量産して。…あ、試食用のミニサイズが作れねぇ?カップラーメンの五分の一で具も少し載せたもの」
『出来ますが、短時間で戻ることになります。普及のためにも三分という時間は変えないほうがいいかと思います。また新しい砂時計が必要になりますし』
「ごもっとも。じゃ、試食用はなしで」
カップラーメンの自動販売魔道具が具体的になった所で、アルはふと思い出した。そういえば、パラゴの冒険者ギルドの職員に酷い対応をされたことがあるのだが、改善されているのだろうか。
『パーコ、冒険者ギルドの自販設置交渉、誰とした?』
【ギルドマスターです。何か問題がありましたか?】
『今じゃなく、かつてに問題があったのを思い出してさ』
アルが事情を話すと、
【そんな酷い対応する職員がいたんですか。その後、どうなったのか、念のために調べます】
と自ら請け負ってくれた。
『よろしく』
貴重なシャドーマントヒヒを逃し、商業ギルドに売られてしまったことで、冒険者ギルドの利益も減り、有望な冒険者も取り逃がした。
酷い対応した職員に罰がなかった、とは思えない。
パラゴダンジョンを攻略しても元々教えるつもりはなかったアルだが、ドロップ品ぐらいは流そうと思っていたので、損失はかなり大きい。
結局、キエンダンジョンのドロップ品の大半は、ラーヤナ国王都フォボスで売った。
つまり、国外流出までしているワケで。行動力も機動力もある相手を逃したのは、本当に心底痛い。
さて、とアルは自動販売魔道具のバージョンアップに戻り、それが終わるとPバリアを量産した。本当にドロップ品にするので。
結界として一番安定するのは球状なのだが、使い難いにも程があるので立方体にした。
高さも2mだと手を伸ばせばひっかかるが、それ以上高くしても設置出来る場所が限られてしまうワケで。
狭い岩場で結界を出すとえぐられるのは岩の方で、そうなると岩場が不安定になって崩れる危険性が高くなる。
キーコと分業してまとまった数を作った後、アルがまったりお茶していると、そこにパーコから連絡が入った。
アルに酷い対応した職員は減給になっただけだったが、周囲の冷たい目に耐えられずに辞め、他の街に行ったらしい。どこの街か、までは分からない。まぁ、後々の問題にはならなさそうだ。
カップラーメンの自動販売魔道具は作ったし、後は冒険者ギルドとの交渉だが、今はかき氷と冷水の自販を設置している最中だ。
終わってからの方がいいだろうか。
試験販売で商業ギルドにまず置くべきか。
アルはコアたちに意見を訊いてみたが、別に一緒でも構わないのではないか、という意見が多かった。
しかし、この世界では初売出しの画期的なカップラーメンだ。影響範囲が読めないため、アルとしては慎重に運びたいワケで。
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