219 大魔導師らしいよ

 側の空き地に簡易タープを張って日除けを作り、その下にベンチを出して、イディオスはそのベンチの上で深皿に移して、アルはいつものテーブルセットを出して座って食べる。地面の上だと土埃が気になるのだ、アルが。イディオスはいつものことなので、まったく気にしない。


 焼きうどんもどきは、中々深い味わいだった。

 ミートソースのトマトじゃない甘辛醤油バージョンというか。

 肉も野菜も細かく切られているだけに、少ない量でも味を主張していた。行列が出来るだけある。

 先に買った串焼き類も出し、イディオスには串から外して皿に入れた。


「…兄ちゃん、やることが大胆だね」


 その空き地には他にも屋台や市場で買った物を食べてる人たちがいたが、少々呆れられてしまった。

 他の人たちは地面にそのまま座るか、石に座るか、程度だ。


「快適な方がいいだろ」


 大した量じゃないので、すぐ食べ終わったアルは、ハーブティを淹れ、氷魔法で冷たくし、氷も入れて自分はガラスのマグカップ、イディオスにはお椀で出す。結構、何でも飲むのだ。


「え、氷魔法使い?」


「氷だけじゃねぇけどな」


「へぇ、氷魔法使いって少ないと思ってたけど、結構、いるのかな。すぐそこに自動で氷作るスゲー魔道具設置したのも、氷の大魔導師様らしいし」


「え、そうなの?大魔導師っているんだ?」


「伝説って言われてるけど、こんなスゲーことするんだから大魔導師だって、みんな、言ってるぞ。知らなかったのか?」


「あいにくと。緩いな、大魔導師認定って」


「いやいや、兄ちゃん、実際、買いに行ってみなって。スゲーから。自動で氷削る所まで見えるし」


「この暑さで氷が溶けないってことは、時間停止の仕組みを使ってるってことだぞ。しかも、こんなに気軽に何台もってすごいことだろう」


「時間停止の仕組みだとは限らねぇだろ。氷の精霊をとっ捕まえて、延々と氷を作らせてるかもしれねぇし」


「…え、そうなのか?」


「いや、精霊はそこまで奴隷のように働かせられないって」


「契約解除してさっさと逃げるだろうな」


「やっぱ、精霊はそこまでは使役出来ねぇのか」


「…おいおい、兄ちゃんが言い出したことだろ」


「あくまで可能性の話だし。…といえば、何かの薬品で凍らせてるっていう可能性もあるんじゃね?」


「いやいや、薬品だとそんなにガッツリ凍らないし、そんな薬品があったとしても変な味がするだろ」


「そう言われると、無味無臭の冷凍薬を開発したくなるな。どうやっても人体に害あり、だろうけど」


「んん?兄ちゃん、錬金術師だったりするのか?その若さで」


「大魔導師らしいよ」


「あははははっ!」


「それはあの氷作る魔道具を作った人の話だろ」


「そのスゲー人に張る錬金術師だってか?」


「いや、本人」


 アルは邪魔にならなさそうな所に、かき氷の自販を出してやった。

 笑って見ていた周囲の人たちはそのまま固まった。


『どんな顔したらいいのか、分からんようだな』


 イディオスの念話も笑っていた。


「ってことで、氷魔法使いはやっぱりそんなにいません、が正解だな」


『大魔導師か。アル、自ら名乗るのか?』


『名乗るワケがねぇだろ。【魔法陣の書】の入門編を修めても『伝説の魔導師』って称号が付くだけだぜ?』


『そうなのか。どのぐらい修めてるんだ?』


『全然まだまだ。半分もねぇっつーの。『転移魔法陣』やマジックバッグの魔法陣が入門編だしさ~』


『…それはかなり先が長そうだな…』


『だろ?『かつて栄えたレムリア文明の叡智』なんだってさ。イディオスは知ってる?レムリア文明』


『まったく知らん。…ということは、かなり古代の知識になるな。一万年以上になると思う。その【魔法陣の書】はどこから手に入れたんだ?』


『アリョーシャダンジョン、20階。誰かがアーコに知識を授けたんだろうな。そういった形跡がどのダンジョンにもそこかしこにある』


『ダンジョンの成り立ちも不思議なことばかりだしな』


 その辺りでやっと周囲の人たちは我に返った。


「…失礼しました。こうも若い人だとは思いませんでした。すみません」


「別に気にしてねぇよ。買ったら?氷の精霊を働かせてねぇし、薬品で凍らせてもねぇし、氷魔法を使う小さい魔物をテイムして酷使してもいねぇから」


 色々と考えたことを教えてみた。

 魔物には食べられる氷は作れないが、冷やすだけでも役に立つので利用出来ないかと。しかし、何十匹とテイムする方が手間だった。


「わざわざ言う所が怪しいんですけど…」


「魔道具だって、普通に」


 時間停止の仕組みを使ってる、とは言わない。


『魔道具自体が普通じゃないのに、普通とは?』


『ツッコミ入れるし~』


「買わないのならしまうぞ」


 アルは一応そう言ってから、さっさと自販をしまった。

 土地所有者の許可なく、不用意に設置は出来ないので、元々短時間だけのつもりだった。


 アルはコアバタたちが上手くやってるかどうか気になったので、今回の責任者…ならぬ、責任コアのパーコに念話で訊いてみた。


『パーコ、何か問題が起こったか?』


【行列の横入りで少し揉めた所がある程度で、午前中の貴族のようなトラブルは起こってません。商業ギルドへの問い合わせは多いですが、殺到という程でもありません。マスターが脅したことが利いてるようですね】


『魔力量が多いからこの街ぐらい、一瞬で消滅させられるって話?国王のツテの方?』


【前者です。影魔法の使い手でもあるから、不興を買ったらどこに飛ばされるか分からない、ということも】


『ああ、見せたっけ。面倒が減ってるんならよかった』


 『ゴミ拾い隊』の方もよく働いているようなので、休憩だけはこまめにしっかり取らせるよう注意して置いた。炎天下だと予想外に体力を使うものだ。


『アル、この後、どうするんだ?』


『おれはゴミ回収ついでに見回りするけど、イディオスは森に帰る?こっちより全然涼しいだろうし。夕方にまた迎えに行くよ』


『では、そうするか』


 …ということで、お茶やテーブルセットを片付けると、適当な物陰まで行ってからイディオスを転移で再び森に送った。

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