218 一般的な刀、求む

 アルとイディオスは影転移で武器屋近くの路地に出た。

 周囲を見回して物陰で隠蔽を解除する。


『ここの武器屋なら刀を扱ってるのか?』


『さぁ?なけりゃ、訊けばいいかな、と思って。でも、アリョーシャの街と近いんだし、そこそこ大きい店なら少しは置いてあるんじゃねぇかと。この街では武器屋に来たことねぇけど』


 希望的観測かもしれないが、ともかく、武器屋に入った。

 割と大きい武器屋なので、お昼時の時間でも結構客がいた。メンテナンスもやってる、ということもあるのかもしれない。

 剣が並べてある棚の方かと、そちらから見て行くと、刀はガラスが入っている棚、ショーケースにあった。デザインからして高そうだが、鑑定で見る所、大した品じゃない。

 アルは店員を捕まえて訊いてみた。


「この刀って全部観賞用?」


「いえ、違います。もちろん、実用です。あまり飾りが付いてない方がお好みということでしょうか?」


 二十代半ばぐらいの店員は、アルが武器不携帯でも見る目はあるらしく、丁寧な対応だった。


「邪魔にならなければ飾りがあってもいいけど、質がそんなによくねぇからさ。もうちょっといいのない?」


「…少しお待ち下さい」


 鑑定持ちだったか、しまった、とばかりに一瞬眉をしかめた店員は、すぐ取り繕い、早歩きで店の奥へと行く。


『他の武器と比べたらいい方じゃないのか?』


 イディオスも鑑定は持っているが、人間が持つ武器に対しての知識はあまりない。


『刀自体が斬撃特化の武器なのに、これ全部、中途半端なんだよ。長剣寄りな感じ。重さと刃の厚さでもダメージを与えるっていうかさ』


『それの何がダメなのか分からん』


『需要はあるんだろうけど、おれはこれだったら刀を使う意味がねぇって話。作り直すにしても最初から作った方が早いし』


『ああ、それは確かに意味がないな』


『だろ?鍛冶屋に打ってもらった方がいいかも、だけど、余計な効果がすぐ付きそうなんだよな…』


 それが鍛冶屋じゃなく、武器屋に来た理由だった。

 逸品でも一流でもない一般的な刀を求む、だ。

 さほど待つ程なく、店員とそれよりもっと年上で上の立場の…店長と二人で戻って来た。手ぶらだ。


「お客様、質のいい刀をお求めなら鍛冶屋に直接行く方が多いのですが、こちらに来られた理由を窺ってもよろしいですか?」


 やはり、ツッコミを入れられたか。


「一般的な『刀』がいいから。ここにある長剣寄りの物じゃなく、斬撃特化武器を、さ」


「…見ただけでそこまでお分かりになるんですか。お客様は冒険者でしょうか?」


「そう、Cランク。斬れなさ過ぎても斬れ過ぎても使い難いって話なんだよ」


 アルは首にかけているギルドカードを見せる。


「では、こちらへどうぞ」


 アルとイディオスは店長に奥の部屋へ連れて行かれた。店員とここでバトンタッチらしい。

 そうして、試し切りもさせてもらい、そこそこの刀を手に入れることが出来た。価格も一般的でそこそこ。見栄えがよくて長剣寄りの方が人気があり、日本刀は需要があまりないので在庫になっていただけらしい。


 ちゃんと硬さの違う合金を使ってつくり込みしてあり、外側は硬く内側は柔らかい。こういった構造にすることで「よく斬れるが、折れ難い」のだ。焼入れもしてあって刃紋も反りもある。

 重心が少しズレていたのは、アルが錬金術で修正してバッチリ。


 では、待たせたな、とアルはイディオスを連れて、宿を取った後、市場へ行った。食べ歩きのためである。昼食は食べたが別腹だ。

 それに、ゴミ回収と自動販売魔道具の行列具合も見ておきたかった。

 コアバタたちから問題ない旨は報告を受けているが、市場の自販設置場所は周囲の店が多いので、行列が迷惑かけているかもしれず。


 しかし、そんなことはなかった。

 行列の待ち時間で串焼きやパンや他の物を買ったり、逞しい商人が「氷に載せると更に美味いよ!」とカットフルーツを販売していたり、と上手いことやっていたからだ。この辺りは報告だけでは分からない。


 果実水を売る店には、最初から氷だけの自販にしてあるので、氷代を上乗せした価格にしても妥当な価格なため、こちらも好調だった。

 「一々お金を入れるのが面倒だから、まとめて払いたい」とは言われたが、そうなると新しい仕組みが必要になるため、早々対応出来ない。販売している限り、銅貨が足りなくなることはないのだから、一々金を入れるぐらいは許容して欲しい。


「あ、店長、お疲れ様っす!」


 行列が出来ている屋台に並んでいた時、カゴを背負った男に挨拶された。『ゴミ拾い隊』の一人だ。


「おう、ご苦労さん。…って、昼休憩は?」


 アルはコアバタたちにちゃんと指示しておいたのだが。


「もらいました。お昼まで奢ってもらって有難うございます!」


 別に奢っておらず、報酬の一部でありパーコ製サンドイッチだ。「自分が用意したい!」と言って来たので任せた。


「まぁ、ちゃんと働いてくれてるからな」


 もうそれ程、人数はいらないのだが、報酬が出るならやりたいそうだし、『ゴミ拾い隊』の活動により、街の人たちにもゴミに対する認識が少しでも変わればいいと思ったワケで。コアバタたちも人を使う経験が出来るのもいい。


「これからも頑張ります」


「いや、今日だけだからな?」


「え~?明日以降もやりましょうよ」


「自販の設置はするけど、常任の『ゴミ拾い隊』はいらない。どれだけリスクが高いか分かってねぇだろ。レア素材、たとえば、ドラゴンの鱗を山のように積んである状態と自動販売魔道具は一緒、と言えば、少しはリスクが分かるか?実際はもっとレア素材を使ってあるし、技術面も含めたら値段なんか付けられねぇけどな」


「…関係ある仕事してると、おれが危険になるってことですか」


「危険はねぇよ。隠蔽かけて見張らせてあるからな。それが手間って話」


 雇っているからには安全は保証しているワケだ。


「…分かりました。諦めます」


 いかにもガッカリ、と男は肩を落としながらも、ゴミ拾いに戻って行った。


『臨時でリスクもあるから、と最初に説明はしなかったのか?』


『ああ。ポイ捨てした連中に対するほぼ強制労働だったんで。そうも働きたがるとは思わねぇだろ?』


『…そうだな。まぁ、注目はされるか。ああいった格好は割と珍しいようだし』


『格好じゃなく、ゴミ拾いしてるのが不思議なんだと思うぞ。本来なら行政がそういった手配をするもんだけど、ゴミ回収のみで拾って歩く人はいないし』


 そんな念話を交わしていると、順番が来たのでアルは焼きうどんのような炒めた麺類を二人分購入した。

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