217 魔刀になってた!

『自分が好む武器を使えばいいだけだろ。わざわざ、限定せんでも』


「刀だと目立つからさ」


『アルの存在自体が既にかなり派手に目立ってるぞ。気付かん振りをしているようだから、わざわざ教えてやるが』


「外見しか馴染んでねぇんだよなぁ」


『いやいや、装備と服装の質が高過ぎるだろ。一般人を装いたいのなら、その辺で買った物で揃えるんだな』


「分かってはいるんだけど、生活レベルを落とすことって中々出来ねぇんだよな…」


 【変幻自在の指輪】で着心地はそのまま、一般的な物に見せかけることも出来るのだが、そこまでやる必要があるか?とも思うワケで。


『そういえば、アルは称号持ちだったか。快適生活の』


「そ。『快適生活の追求者』。称号になる程、こだわりがあるワケ。イディオスだってあのベッドや布団はもう手放せねぇだろ?」


『もちろんだ。体感してしまうとこだわるのも分かるんだがな。アルは目立ちたくないと言いつつ、大々的に自販を設置しているのはどういった思考の果てなのやら』


「仲間たちが楽しい、やりたいって言うのなら、まぁ、一時期目立つぐらいはいっか、と。それで助かる人たちも多いんだしさ。それに、使ってこそ、魔道具の改良点、やり方の改善点も見付かる。つまり、『目立ちたくない』というのは優先順位が割と低いワケだ」


『その気持ちも分かるが、目立つのはシヴァに任せておいたらどうだ』


 イディオスがアル限定念話に切り替えて、そう伝えて来たので、アルも念話に切り替える。


『そう考えなかったワケじゃねぇんだけど、シヴァのキャラじゃねぇんだって。いきなり現れた黒髪黒目黒ずくめのSランク、あ、いや、上がったな、SSランク冒険者って、こういった商売するか?』


『…確かにしそうもないな。活動範囲も遠いか。じゃ、もう一人作ったらどうだ?好きに化けられるんだろ?』


『そうだけど、安定しねぇって。シヴァは元の姿だから長期間でも別に問題ねぇワケでさ。あっちの身内に化けても細かい所まで記憶してねぇから、違和感は絶対に出るし。爪の形だって人それぞれだろ』


『そう考えると、案外、万能じゃないんだな』


『何でもそうだろ。後、身分証明を偽造しねぇんなら、魔力登録で別人っぽい魔力を発生させる魔道具を作る必要があるし』


『…え?そこまで手が込んだことはしなくても…あーいや、だが、個別の魔力が分かる人はいるか。だからこそ、そういった魔道具も作れて登録するワケだし』


『そうそう。おれも分かる人の一人だしさ。なんで、アルを知ってる人にシヴァはなるべく近寄らねぇことに。テレストとかヴィクトルとか』


『Sランク冒険者とその孫のAランクか』


 その辺はイディオスにも話してあった。

 長命種族なのでいつかどこかで会う確率も高いこともあって。


「で、何の話だっけ?…ああ、今更、武器程度では目立たないって?…トリノさんもそう思う?」


 食べるのも一段落して味わって食べないともったいない、とばかりにペースを普通に戻したトリノに、アルはそう訊いてみた。


「はい。余程、目を瞠るような特殊な武器でなければ」


「これなんだけど」


 アルは【チェンジ】でミスリル刀を出した。

 見た目は武器屋で見た刀と大差ない。


「刀、ですね」


「そ。片刃の方が扱い易くてさ。あまり目立たない?」


「いいえ。デザインは他の刀よりシンプルですが、武器としての迫力が段違いですね…」


『アル、気付いとらんのか?その刀、『魔刀』になってるぞ』


「…マジで?…ホントだ。普通の合金のミスリル刀だったのに、いつの間に」


 自分の武器の鑑定なんて、出来上がった時にしただけだったので、全然気付かなかった。


「っていうか、『魔刀』って何?『魔剣』の亜種なのは分かるけど、つまりは?」


『色々あるが、端的に言ってしまえば、普通の刀の域を越えた刀。メインで使ってたんじゃないのか?』


「そうだけど、魔力を通すとオーバーキルなんで、ほとんど通さねぇで使ってたのに」


『それが原因だろうな。その刀で斬り捨てた魔物は何千で済まないだろう?武器も稀にレベルアップをするのだ。もう少し詳しく鑑定してみろ。【所有者限定】【硬化】スキルが付いてる』


「あーだからか。【斬撃強化】の付与してねぇのに斬れるな、とは思ってたんだって」


『その時に気付け』


「あーあ、また作り直しか」


 今度は魔力を通し難く、時々は刃こぼれする程度の硬さの合金にしよう。その方が剣術修行にもなる。

 …そこそこの刀を買えばいいのか!


「え、どうしてです?」


「普通に作ると何らか付与されちまうから、意図的に付与されねぇように気を付けて作ったんだよ。オーバーキルになるから。気を付けてねぇと斬撃が飛ぶんだぜ?魔力込めてなくてもさ…」


 どうなってるんだ、とアル自身が一番言いたい。


『…いっそ能力制限のマジックアイテムか魔道具でも作ったらどうだ?』


「それはそれで、解放された時が怖いことに。っつーか、それ以前にまったくそんなもんが作れる気がしねぇんだけど」


 元領主の騎士にハメられた『魔法封じの枷』を研究して、魔力量の多いアルでも封じられるようにしたら、大半の人には最強の攻撃になるのでは?と研究したのだが、コアたちの力を借りてもダメだった。

 ほんの数十秒は抑えられても、その後は力に耐え切れず、粉々に。

 魔力だけでこの体たらくなのだから、膂力りょりょくも封じられる自信なんてまったくない。


『規格外過ぎだとどうにもならんか』


「神獣様はどうよ?何らか神獣パワーで抑えられる、とかねぇの?」


『ない。悪しき者ならやりようがあるんだが、アルはこっち側だしな。うっかり森とか山とかなくなりそうな不安はあっても』


「ちゃんと気を付けてるって~」


「…神獣様まで言われるということは、別に大げさな話じゃなかったんですね…。アル様が一瞬で街を消滅させられるって話は」


『まだ控えめな表現だな。アルなら気象自体を操れるだろうから、その気になればこの大陸全土が滅ぶ。その気にはならんだろうが、もし、アルに匹敵する程の強敵が現れたらその戦闘で結果的に滅ぶ』


 確かにあり得るが……。


「………」


 トリノを怖がらせなくてもいいだろう。


「その時は戦闘なんかせず、迷惑にならねぇ所に放り出すって。神獣様が暗い仮定の話なんかすんなよ」


『悪い。軽口が過ぎたようだ。逆にアルがいれば、大半は大丈夫とも言えるぞ。戦闘力だけじゃなく、深い知識と技術力がある。そのうなぎにしたって注目したのはアルぐらいだ』


「優秀な鑑定様のおかげだけどな。…さて、じゃ、刀を買いに行こう。別におれが作らなくてもいいんだよな」


『すぐ折れるだけじゃないか?』


「折れねぇよう何とかするのが腕の見せ所だろ。まぁ、折れても欠けても直せるし、売ってる物でも使い続けると魔刀になるのかも検証したいしな」


『あまりに武器を使わんから『戦士』を名乗る、とか言ってなかったか?』


「そこは改めて『剣士』を名乗れるように…トリノさんは、ゆっくり食べてな。おれたちは影転移で出るから、まだいると思われるだろうし」


「お気遣い有難うございます」


 じゃ、また、とアルは片手を上げて隠蔽をかけてから、イディオスと共に影転移で移動した。

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