215 そうだ!法の番人だった!

「ちはーっす。イディオス、今、いい?」


『ああ、いいぞ。どうかしたか?』


「どうもしねぇけど、パラゴでダンたちと会ったら、また一緒に呑みたいって言ってたからさ。で、今日は朝からパラゴで自動販売魔道具でかき氷と冷水を売り出してて、今、キエンダンジョン温泉で休憩中。森から離れて大丈夫ならイディオスもパラゴに来る?宿取るぜ」


『ああ。じゃ、まず温泉の方へ行こう』


「分かった」


 転移魔法陣で繋いだおかげで、イディオスはすぐ転移して来た。

 本当の大きさは5m以上あるが、魔法陣に入り切らないため、いつものように大型犬サイズになっている。

 会うのは三日振りか。


『おお~!いい香りだな!』


 イディオスはうなぎの焼ける香ばしい香りに大喜びした。


「だろ。これ、ダンジョン産じゃなく、パラゴの近くの川で穫ったものだぜ。その辺の川にいるって話を聞いてさ。だから、肝も骨もある」


『んん?食えるのか?』


「食えるんだって、これが。肝はちょっと苦いから好みがあるけど、骨は骨せんべいにするとクセになるパリパリ具合。…あ、まぁ、元の世界の生き物だったら、だけど、大きいだけでそう変わらねぇと思う。鑑定でも美味しいって出てるし」


『アルの鑑定ってそんなことが出るのか?変わってるな』


「何かおれのためにカスタマイズされて行ってるみてぇだぞ。あーおれ仕様に変更して行ってる」


 何?と首を傾げられたので、アルは言い直してみた。日本語英語になっている言葉が案外多い。


『そんなこともあるんだな。鑑定のレベルが上がると詳しく分かるようになるのはよく聞くが』


「おれの知識に基づいてることもあるんだと思うけど、それにしたってまだ『料理』スキルが生えねぇのが解せない」


『『隠しスキル』というものかもしれんな。基本過ぎて表面上は分からんスキルがある、と聞く』


「え、そうなの?…キーコ、ちょっとおれのスキルを詳しく調べてくれ。料理スキルはない?」


 「ダンジョン探索履歴」が見れるキーコなら、もっと違うものが見えているかもしれなかったので訊いてみた。


【スキルにはありません。しかし、マスターの基本情報の技能に【料理】とあるので、スキルにはならないのでしょう。他にも色々とたくさんありますが、わたしには読めないものもありますので紙に複製します】


 キーコはイディオスにも聞こえるようスピーカーで言うと、ほとんどタイムラグなしにテーブルに紙が現れた。

 そこには【技能・料理、工作、手芸、音楽、楽器演奏、水泳、スキー、数学、物理、科学、化学、生物、法律…】と、学校で習う教科も並んでいた。

 こちらの世界に概念がないと念話でアルの心が読めるキーコでも、読めないらしい。


 変わったものでは【大型自動二輪】【普通自動二輪】。

 そういえば、401cc以上の大型バイクとそれ以下の中型バイクの免許は別で取ったからか。先に中型、後で大型。十六歳では中型の普通自動二輪しか取れないので。

 そして、【司法書士資格】【税理士資格】。


「…思い出した。おれ、司法書士、税理士だった…」


『何が?』


「元の世界での職業。法律関係の職業。だから、トラブル慣れしてるんだよ。って、逆か。トラブルばっかに巻き込まれてるから、このノウハウを活かしてやる、だったか。実際、儲けてたし…っていうか、やっと修行が終わって開業した所だったのに~」


 税理士として登録するには、税理士試験に合格するだけじゃなく、半年もかかる研修と二年の実務経験が必要になるのだ。

 アルの本名や妻の名前や転移する直前の状況までは思い出せていないが、開業して半年も経っていなかった、と思う。

 兄嫁の兄が買った土地に、アルとその仲間の好きに建ててもらった洋館事務所。格安賃料で借りていた。


『修行なんてあるんだな。法律関係と言っても事務職だろう?』


「そうなんだけど、横の繋がりも大事な商売だから、繋がりを作る意味合いもあってさ。それに、難しい試験なこともあって高齢化していて、後継者を探してる先生も多かったんだよ。

 …ああ、先生って呼ばれる職業だったんだけどさ。修行中はおれも客からは『若先生』って呼ばれてた。で、大金を扱う職業だったから時々老先生のボディガード…護衛もやってたり」


『今も護衛をやることもあるのだろう?あまり変わらんな』


「いやいや、今の方が魔法があるだけにもっと自由だし、楽しいって。まぁ、自由だからこそ、自堕落な生活も可能だし、おれの場合、物作りで籠もってることもあったりするし、かといって戦闘力を落とすワケにも行かねぇし、でどっちも良し悪しなんだけどさ」


『そんなもんかもな。どの世界でも。…お、そろそろいいんじゃないか、こっちのうなぎは』


 イディオスはすっかりうなぎにハマっていた。


「いやいや、蒲焼はまだまだタレ付けて焼かねぇと。白焼きはもういいぞ。何で食う?塩?ハーブ塩?レモン塩?岩塩もおすすめ」


 塩のバリエーションが増えた。


『では、岩塩だ!薬味と一緒にご飯に乗せてくれ』


「はいはい」


 アルは炊き立てご飯をイディオス専用の大きい丼に盛ると、白ごまをかけてから白焼きを載せて岩塩を振り、青しそ、ではなく似たようなハーブを刻み、岩塩白焼きの上に乗せ、山椒もパラリと。

 香ばしい暴力的な香りにピリッとした刺激的な香りが少し混ざる。

 イディオスは出来立てのうなぎの白焼き丼をぱくりと食べ、満足そうに目を細めた。

 アルも腹減って来たので、早目のお昼にしよう。

 蒲焼と白焼きのハーフ丼だ。…ああ、肝吸いを作り忘れた。

 骨は焼いておこう。


「んんっ!やっぱ美味いな!」


 ダンジョン産のうなぎの方がかなり大きいだけで、天然物との味の遜色はまったくない。泥抜きはしてないが、魔物だからかまったく問題がなかった。

 脂っぽくもなくあっさりし過ぎてもなく、絶妙だ。パリッと焼けた皮の香ばしさも堪らない。白焼きの方はハーブ塩。これもまたいい。


『我が思うに、スキルのような伸びしろが既になく、ほぼ完成されているものが『技能』というものなのでは?この素晴らしい料理の腕前からすると』


「美味いは美味いけど、完成されてはいねぇって。技能はスキルと違ってプラス補正は別になく、単なる習得してますよってだけじゃねぇかな。他の技能を見ても、元世界の資格とか免許とかも入ってるし」


『そうなのか。でも、そんなにずらずら並んでるということは、色々出来ることも多いということだろ?』


「まぁ、一応な。しかし、料理スキルが生えるかとちょっと期待してただけに、少し残念、かな?あれだ。コレクション的な意味で。…あー収集家。出来るだけ揃えてみたい」


『アル、今でもかなりスキルが多くないか?』


「まぁ、多い方かな?それでも、持ってねぇスキルも多いし。どうも長いらしい人生なんで、焦らず集めるさ」


『それもいいかもな』


「元の世界の食材で、まだまだ見付けてねぇのも多いしな」


『それは、是非、探してくれ!』


「言われるまでもなく」


 元の世界に帰るのは諦めた、或いはかなり延期する発言でシリアスな場面なのだろうが、バクバクうなぎを食べながらなので、イマイチほんわかとした雰囲気になっている。

 まぁ、シリアスは似合わないということだろう。



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関連話☆「番外編15 初めての夜遊び!」注*全年齢、周囲注意!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330661234354686


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