210 ものすごくどうでもよかった
「で、トリノさん。問い合わせがたくさんあるだろうけど、どうしてもおれと話したい奴らが来たらどこかの小部屋に詰めといてくれ。こういった…ことが、って前にも見せたか」
アルは足元の影から近くの影まで影転移して見せてから、そういえば、覚え立ての頃に見せたことを思い出した。
キラキラ宝箱とアイテムとを交換の時、ラーサクが手合わせしろ、とかゴネてた時にトリノもいたのだ。
トリノはあまり驚かなかったが、他の人たちは驚愕していた。
「レベルが上がって移動出来る距離も伸びたし、おれ以外の人を違う場所に送ることも出来るようになったから、適当な所へ放り出しとくし。まぁ、あまりに聞き分けがなかったら、うっかりダンジョンに送っちまうかもしれねぇけど」
「…はぁ。よろしくお願いします。しかし、押しかけて来る方々がどんどん増えてしまうのではないでしょうか」
「部屋に入り切らなくなる前におれの仲間が対処するから大丈夫。強盗は基本的に手足折って警備兵に送っとく。その辺は明日の朝にあらかじめ話しとこう」
「基本的に手足を折る…」
「他人様の財産を狙うからには、その程度は覚悟はしてもらわねぇとな。下手すりゃ戦争だぜ?『こおりやさん』はラーヤナ国の保護対象なのに、手出しされるってことは、軽んじられてるってことだし?」
国内でも勅命なのに軽んじられていたワケだが。
「周知を徹底した方がいいでしょうか?デメリットも多いですが」
「わざわざ周知しなくても、勝手にしゃべるだろ。隣の国の王都であったことすら知ってたんだし」
周知してもしなくても状況は変わらない。
適当な所で切り上げ、「また明日」と自販をしまい、影転移から転移でキエンダンジョン温泉宿に戻った。
******
さて、自動販売魔道具のバージョンアップを作らないと。
結界魔法を発動するのではなく、自動販売魔道具全体の結界はアルが張り、ボタンやコイン投入口、取出口の所は外す。アルの結界は一部だけ外すというそんな器用な張り方も対応していた。すべてはイメージ力のおかげである。
何かあった場合だけあらかじめ作った結界と取り替えるタイプにするのだ。そう、【チェンジ】の魔法の応用で可能だった。すると、魔石が減らせる。
そして、ついでにポータブル結界を取り出す方法も、クルーザーが入っている珠を分析したキーコに教えてもらい、マジックバッグより遥かに簡単な作業とローコストで実現した。
何を入れるのか限定することで、時間停止のマジックバッグより遥かにリソースを使わない、ということである。
まぁ、あくまで『長期間保つアルの結界に限る』なので売り出すことは出来ないが、ドロップに混ぜるぐらいならいいだろう。説明書を付けて。
期間中なら何度も使えるポータブル結界だが、取り出すのもしまうのも多少魔力を使うし、大きさが決まっているため、魔物への防御として使う場合、かなり、注意が必要となる。下手すると魔物と一緒に結界の中、ということもあり得るからだ。咄嗟に結界をまたしまう作業が出来る冒険者がどれだけいるのやら。
あまり広くても狭くても使い勝手が悪いので2m四方の立方体にしてみた。キングサイズベッドぐらいである。五人パーティなら全員一緒に寝れるし、煮炊きするにも近過ぎない距離。
毒も煙も通さないが、新鮮な空気は循環するので問題ない。
ダンに渡してモニターをやってもらおう。
『そういえば、マスター。アレーナの街のアホ受付嬢、あのままでいいんですか?』
「…すっかり忘れてた」
明日使う自販を改良した後、夜食にお好み焼きを焼いていると、キーコバタがそんな質問をして来た。
ものすごくどうでもいいと思っている証拠である。
「じゃ、キーコバタ、警備隊の留置所か牢、調べて印付けといて」
全部、任せたい所だが、影魔法を解除する必要があるので無理だ。
『かしこまりました』
アルはしっかりと夜食を食べてから、隠蔽をかけ、渋々アレーナの街の冒険者ギルドに転移した。
アホ女は影の中に埋めてあるのに、カウンターを破壊しようとした奴がいたらしく、カウンターが割れていた。
どうにも出来ず、かといって誰も付き添わず、別に罠が仕掛けられてることも、待ち伏せしていることもなく、アホ受付嬢の人望のなさを証明していた。
やはり、元々やらかしていたらしい。
申し訳程度に水が入ったカップが置いてある程度で、灯りすらない。真っ暗闇の中、シクシクと泣く幽霊のような首だけの女。中々のホラーだが、映画の主人公になるには憔悴と迫力が足りない。
すとん、とアホ女の首も影の中に落とし、キーコバタが印を付けてくれた牢の中へ影転移させた。
後は知らない。
勅命違反なことは冒険者ギルドの事務長に言ってあるので、それなりに対応をするだろう。しなければ、後から問題になるだけだ。
国王には「舐められまくってるぞ」とフォーコが教えているので、ちゃんと処罰するよう指示するだろう。
いくら何でも小娘にまで舐められていては国王のなけなしのプライドも反応したらしく、顔を真っ赤にして怒っていたそうだ。
さて、露天風呂に入って寝よう。
何だか色々あった一日だった。
自分で忙しくしているような気がして来たが……気のせいだろう。
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祝!10万PV記念SS「番外編13 世界を壊すその前に」
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