208 超乗り気じゃねぇか

「売るにしても銀貨1枚以上は取らないと割に合わなさ過ぎ。鰹節が地味に高い。いや、それ言ったら鶏ガラスープもだけど。自販の仕組み自体は魔道具にしなくてもからくりで作れる。まぁ、偽金対策は出来ねぇけど」


『誰も使わなかったので偽金対策はなくてもいいのでは』


「期間限定だとそこまでいらなかったよな。スゲェシンプル機能でいっか。銀貨を入れるとボタンが光って押せるようになり、ボタンを押すと内部の蓋が開いてカップラーメンが落ちる。転送魔法陣でお金や補充を楽に出来ねぇかな?」


『その場合、高ランクの魔石が二個以上は必要になりますのでマジックバッグを置いた方がコスト的には安いです』


「…だよな。じゃ、マジックバッグは金回収に一つだけ。混雑緩和に五台ぐらいは置くか。…あ、容器はコアたちでコンペにしよう。いいものを採用。キーコバタ、ラーメン、カップラーメンの情報と見本込みで各コアに転送しといて」


『分かりました!』


 そんな手配をしている間に三分経過。

 アルは普通に蓋を開け、箸でかき混ぜて、頂きます、だ。自信があったのでちゃんと具も麺も戻っていることに感慨はない。


「うん、カップラーメン。しかも、元世界のものより美味い!」


 素材が違うし、錬成したのも違うからだろう。平打細麺はスープによく絡む。クド過ぎず、あっさりし過ぎず、の絶妙具合。

 これは売り出したら爆売れだろう。今のマズイ保存食も加工に時間がかかるため、これぐらいの値段なのだ。


『フリーズドライ製法というのは本当にすごいですね…』


 話には聞いてはいても、あれ程乾燥した物がこうも短時間で戻るのを見ると、キーコバタも驚くらしい。


「だろ。作れそう?」


『はい。水分を除去するため、麺と具はなるべく別で加工した方がいいのですね?』


「ああ。それと、他の味や具を入れる時も工程が簡単になるだろ。組み合わせりゃいいんだから」


『なるほど。さすがマスターですね!』


「経験則だって。まぁ、まずは醤油味のみ、具もこれだけで。…うーん、最初は実演、試食販売した方がいいかもな。一口サイズずつで。…あ、それこそ結界の容器でいっか」


『え、マスターご自身が販売されるんですか?にゃーこでもいいのでは?』


「そうは思ったんだけど、臨機応変の対応は出来ねぇし、説明する奴は必要だろ。パラゴの商業ギルドにはトリノさんがいるし、ダンたちもいるから、パラゴで販売するか。にゃーこたちにはお手伝いをお願い」


『マスター。パラゴでもかき氷、冷水の自動販売魔道具を設置してはいかがでしょう?まだ暑いですし、自動販売魔道具に慣れてもらえますし』


「なら、パーコにメインで動いてもらうことになるけど。…パーコ、パラゴの街でかき氷販売、やりたい?」


【是非やりたいです!フォボスの街と同じように、かき氷と冷水の自動販売魔道具を設置ということですよね?街の人たちも喜ぶと思います。設置場所の候補は紙に書いて転送します】


 候補の選定は終わってるらしい…。

 すぐに設置場所候補が書かれた紙が転送されて来た。地図とリストが一枚に。


「…超乗り気じゃねぇか。やりたいのなら言えばいいのに」


『やっぱり、マスターに遠慮はありますよ。ダンジョン業務には関係ありませんし』


 遠慮がなくなって来ているキーコバタがそう教えてくれる。


「いや、広い意味では関係あるって。暑さにやられて体調崩すことも脱水症状で死ぬことだってあるんだから、ダンジョンに潜る人数を確保している、とも言えるワケで」


『屁理屈ですね』


【お優しいマスターには、早速、遠慮なく言おうと思います。商業ギルドへはマスターに許可を取って頂きますが、後はわたしたちパラゴダンジョンの者にお任せ下さい。設置の許可から回収に至るまで、前回の件でのノウハウがございますから、上手くやってみせます】


『ちょっと待って下さい、パーコ。あなたの所のダンジョンだけでやるのはズルイです。他のコアたちだって同じことを…』


「はいはい、待て待て。パーコ、お前の所だけでやるのは却下。アルとして動く関係上、おれ所有ダンジョンすべての街ではやれねぇし、ノウハウがない状態で一番にやったフォーコにとっては不公平になるから。みんなでやるのも楽しくねぇ?」


【楽しいですが、どうしても兼ね合いがあり、活躍出来る機会も少なくなりますから】


「いや、別に活躍しなくていいだろ」


【マスターにとってパラゴダンジョンは、スライム皮と上位種のスパイダーシルクの糸、程度の価値しかなくないです?ただでさえ、マスターがお持ちのダンジョンの中で一番規模の小さいダンジョンですし、引け目もあります】


 パーコとしてはそんな引け目があったらしい。パラゴダンジョンは20階。階数だけならフォボスダンジョンが10階で一番浅いが、一フロア自体がかなーり広いので、規模で比べれば確かにパラゴダンジョンが一番小さい。

 そして、確かにアルは、スライム皮とスパイダーシルクの上位種を狩りまくっているが。


「そんなの引け目なんて持たなくてもいいのに。そうじゃなけりゃ、人が集まって来ねぇだろ。ダンジョンはそれぞれ違ってるからいいんだし、規模は大き過ぎても難易度が高過ぎても人が入らなくなるんだしさ。それに、今回はパーコメインで動いてもらうし、期待もしてるぞ」


【頑張ります!】


「じゃ、終わりかけだろうけど、朝よりはマシだろうから今から商業ギルドに行って来よう。カップラーメンの容器については色々開発しといてな」


 ペロリとカップラーメンを食べたアルは、空容器を【チェンジ】でしまうと、パラゴに転移した。



――――――――――――――――――――――――――――――

祝!10万PV記念SS「番外編13 世界を壊すその前に」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659887298641



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る