カップラーメン

207 食の革命では?

 アルは【変幻自在の指輪】と鏡をしまい、さて、とエプロンをし、ラーメン作りを始めた。


 まず海水を煮詰めて、雑味を錬金術で除去してかん水作り。

 鑑定でちゃんと確認してから、強力粉と薄力粉半々にしたものにかん水と水、という一番シンプルな麺にして、一人分を打つ。

 自動製麺機の出番だ。地味に活躍していたりする。出来上がった中華麺はしっかり打ち粉を振って軽く握って縮れさせ、熟成マジックバッグへ入れて三日時間を進める。

 

 ラーメンスープは一番麺の味が分かり易い醤油スープに。

 ラーメンスープのベースは動物系スープと和風海鮮スープを合わせて作ることが多く、醤油スープも色んなレシピがあるが、鶏ガラスープに少し鰹節出汁と醤油と焼豚のタレを合わせるシンプルレシピにしてみた。

 鶏ガラスープは錬成して粉末にしたものがあるので、そちらをお湯に溶かし、鰹節出汁は本枯節ほんかれぶしを削って沸騰したお湯に入れて取った一番出汁で。


 そして、いい塩梅あんばいに配合したスープに、茹でた中華麺を入れて、トッピングは焼豚とネギだけで一応完成。

 もやしは見たことがないので、どこかにあるのかもしれない。竹はあってもシナチクに出来そうな竹は見付けていない。焼豚も実は魔物のボア肉だったりする。

 さて、いざ、実食!


「うん!ラーメン!あっさり醤油味のスープがまたいい!干し貝柱の戻し汁も入れたらいいかも」


 貝柱はたっぷりあるので干そう…というか、乾燥させよう。

 久々だし、美味しく出来たラーメンはアルがうっかり全部食べそうだったが、その前にキーコバタに解析させた。

 アルの中華麺の好みとしてはもう少し固めがいいので、配合を変え、強力粉六割薄力粉四割で再び中華麺を作るが、今度は錬成した。

 作ったことがなかった料理も一度作ると錬成に失敗しないのだ。


 今度は十食分を一気に作り、ちゃんと縮れ麺になっている中華麺を熟成マジックバッグで三日熟成させてから一人前ずつに分け、茹でて空間収納へストック。

 スープを作ればすぐ食べられる仕様ということだ。

 焼きそばにしてもいいので、焼きそば分も追加で作って、一食分は普通に料理して作り、残りは錬成でソース焼きそばに。味もバッチリ。


『これは画期的な食べ物ですね!うどんやパスタとは別とされるのがよく分かりました!』


「だろ?でもって、これ、揚げて味付けするとスナック菓子になるんだぜ。…あ、インスタント麺も作れるか」


『いんすたんと?どういった意味ですか?』


「即席。麺を揚げる方法でも長期保存が出来るけど、出来るだけ元の料理と同じようにしたいのなら、フリーズドライ…急速に凍らせて減圧して真空にし乾かす製法がオススメ。麺と具を乾燥させ、スープも乾燥させて振りかけ、熱湯を注いで三分待てば出来上がり。最大の利点は常温での長期保存が可能で軽いことだな」


『それはもう食の革命では?』


「その通り。『戦後の三大発明』とまで言われていた一つが『インスタントラーメン』。麺類の大半は応用が利く。後二つは『レトルトカレー』と『カニカマ』。レトルトも保存食なんだけど、密閉袋のまま湯煎で温める物で出来立ての物に近い。『カニカマ』はカニのかまぼこ。かまぼこは知ってる?」


『いいえ、知りません。カニ、と付く所から海産物の加工品ですか?』


「そう。かまぼこは魚のすり身を調味料で味付けしてつなぎに卵白や片栗粉を少し入れて蒸したもの。カニカマはカニのエキスを入れて着色したカニ風味のかまぼこ。繊維状に束ねて作る、とこだわってる」


『聞けば聞く程、マスターの元の世界は高度な文明だったんですね』


「こちらには魔法があるから、短縮出来ることも多いって。インスタント製法を商業ギルドに売ろうかな、と思わなくもないけど、リスクもかなり高いんで却下」


『凍らすのならコストが下げられませんしね』


「そうなんだって。でも、さっきも言ったし、コストはかかるけど、麺だけは油で揚げても乾かしてもいいんだよ。具は干しきのこや干し野菜のように、そこまで早くは戻らねぇから、手持ちの肉や野菜を炒めて入れる、という感じでもいいし。もう一つ重大なリスクは、長期保存出来るものは衛生観念がしっかりしてねぇと怖いことになるって所。隙間が空いてる天井の高い家で、上の方は全然掃除したことねぇのに衛生観念って何だよ?だしさ。大半が」


『確かに意図せず変な生き物が生まれてしまいそうですね。マスター、インスタントラーメンは試作しないんですか?』


「容器の素材から考えねぇと、なんだよ。軽くて保温性が高い容器の素材はこっちにはねぇし、コーティング紙を使うにしても熱湯に耐えられねぇとで…まぁ、コーティング液に耐熱付与したら行けるかも、だけど」


『売り出す予定がないのなら、木のスープカップでよくないですか?軽いですし』


「そうなんだけど、どうせなら、と。…はいはい、試作するって。キーコバタも他のコアたちも新しい技術には貪欲だよな」


『マスターとお揃いですね!』


 だからこそ、意気投合して色々作ってるワケだ。

 粉類と木の在庫が乏しくなったので、キーコにもらい、まずは容器を作る。カップ○ードル型でいいか。

 円柱だが、底は少し絞れているデザインだ。これは麺を宙に浮かせておく工夫で、運搬時に麺が割れないようにするためだ。木なので足は付けなくていい。

 蓋はノンラップのようなスライム皮製で樹脂っぽく。密着フィット。それでいて開け易く使い回しもし易く。一個作ってみて、中に水を入れて蓋をし、漏れないことを確認した後、とりあえず、十個作る。


 中華麺をビシバシ錬成し、カップ麺用は平打細麺で七割ぐらいの量で蒸し、カップ麺容器の内径と同じ型に入れてから凍らせ、乾燥させる。具はキャベツ、スクランブルエッグ、小さく切ったエビ、薄くスライスした焼豚、ネギ。


 具は別にフリーズドライにしてから、容器にセット。別にしたのは水分が結構あるからだ。

 さて、後は容器の内側に印を付け容量を測り、スープを煮詰めて粉末にし、最初のスープの濃さになるよう調整した。

 そして、粉末スープを上にまぶし、樹脂っぽく作ったテープを貼って、ペンで製造日を書いて自作カップラーメン完成!


『マスター。このマークでどうですか。三毛猫にゃーこで『らーめんやさん』』


 キーコバタがマークを描いた紙を出して来た。

 『こおりやさん』と同じくイラストで三毛猫にゃーこがラーメン食べているマークだ。周囲には文字で『らーめんやさん』というロゴが円状に入っている。同じ販売元だとすぐ分かるマークだ。アイテムが違うだけなので。


「…うん、まぁ、分かり易いのはいいことだよな。売らねぇんだけど、そもそも。手間がかかり過ぎだって」


『冒険者ギルド内に自動販売魔道具を置いてみたらどうでしょう?期間限定で。強面の冒険者たちを押しのけて強盗する人もいないと思いますし、冒険者はギルド内で強盗なんてしたら除名だけでは済みませんし』


「それはいい案だな。お湯は各自で用意、となるとお金を入れたら販売するだけ。マジックバッグは使わず、普通に詰め込むのなら高価なモンは特にない。って、容器がさぁ。…それはまずは置いといて。時間内に出来るかどうか試さねぇと」


 さすがに二杯食べて試食もしていれば、夕食はいらなくなるが。

 アルは自作カップラーメンの封を取って蓋を開け、魔法で熱湯を作り、線まで注ぎ、再び蓋をした。



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