198 見せるための武装

「この程度で怒らないだろ?スキルだけじゃなく、見る目もある方だ」


「はいはい。実は精霊魔法使いで精霊がおれに懐いてる辺りも、疑う理由だと言うワケだな」


 マナー違反者には気を遣う必要はないか、とアルはハマーを鑑定してやったのだ。

 防音にしているのは風魔法じゃなく、風の精霊魔法だったらしい。風魔法はステータスになかった。


「見えるのか」


「ハマーのステータスはな。他の精霊魔法使いに言われたことがあるんだよ。魔力が多いから精霊に懐かれてるって」


「それで精霊が見えてないのが不思議なぐらいだ。別にいらないと思ってる?」


「思ってる。便利かと考慮したことはあるんだけど、自分で魔法レベルを上げた方が早かった」


「契約も長くなると無詠唱でいいし、細かいことを頼めて便利なんだけど…え、いらないのか?」


 ハマーはアルの肩辺りに視線をやり、聞き返した。精霊がいるらしい。


「詠唱したことねぇっつーか、知らねぇ。最初から無詠唱」


 技名をノリで叫ぶことはあっても。


「そうなのか。なら、精霊魔法は面倒かも。契約した当初は意思疎通が甘いから、どうしたいかの指示が必要になるから」


「考えてることが契約精霊には筒抜けってワケでもねぇのか」


「戦闘中なら、ごちゃごちゃ考えるもんじゃないか?」


「そうでもねぇけど」


 考えるより先に身体が動くから、たまに失敗するワケで。


「種族何?」


「人間十六歳」


「…それ信じる人がいるとでも?」


「本当なのに~。ちょっとばかり規格外ってだけで」


「ちょっとじゃないだろ。空飛ぶ魔道具ってダンジョン産なのか?」


「素材の大半はな。おれが作った。錬金術師でもあって」


「……アル、『こおりやさん』か?」


「お、いいカンしてるな。そう、店長。依頼主たちも知ってるから、別に防音結界にしなくてもいいんだけど」


「え、気付いてたのか?」


「すぐ分かるだろ。最初は風魔法かと思ったけど。余計な詮索は勅命違反だぞ」


「分かってる。…そうか。もっと早く気付くべきだった。王都の方からで聞いたことのない空飛ぶ魔道具。でも、こんなに強いイメージはなかった」


「商売どころじゃなくなるのが嫌で、強盗たちの排除は速攻でやってたからな。『こおりやさん』の目的は単に娯楽と同情。最初は店舗で営業したら行列が出来過ぎで近隣店舗に迷惑かけて予定よりかなり早く切り上げたんで、仲間がやりたがったのもある」


「慈善事業ということか」


「一応はな。自動販売魔道具一台作る金をバラまいた方が余程慈善だけど、真夏にちょっとしたイベントはつきものだしな」


「その自動販売魔道具、売ることは考えてないのか?」


「まったくない。っつーか、あの魔道具に何が入ってるのかは誰だって分かるだろ。適正金額だったら国家予算の数年分になるっつーの。一台でな。でもって、ドラゴンブレスにも耐える強固な防犯対策。Aランクの溜め込んだアイテムと交換でも払い切れねぇよ」


「…そこまで頑丈なもんなのか…」


「強盗は想定していたからな。あれもおれしか作れない魔道具」


 コアたちは作れるが、人間じゃないし、他のダンジョンマスターでも自分のコアに作らせるのは無理だろう。異世界の自動販売機をモチーフにしていて、それに魔法陣と付与を組み合わせてあり、仕組みが特殊だからだ。

 解析すれば作れるだろうが、渡すワケがない。


「錬金術師であり魔道具師でもあるってことか?」


「そうなるけど、単に物作りが好きなだけ。語ると長くなるけど、聞く?」


「いや、遠慮しておく…」


「じゃ、護衛依頼を受けた理由を教えてあげよう。ハマーの推測通りだ」


 アルはそう言って湯船から上がり、風呂からも上がった。

 一応、護衛なので護衛対象たちが上がって行くのに、アルだけ話し込んでいるワケにも行かない。

 脱衣所に出てから身体と髪を魔法で乾かし、タオルの水気を取り【チェンジ】で瞬時にタオルをしまって服を着る。

 Tシャツコットンパンツ、ボディバッグをウエストバッグ仕様にして、少しラフに。

 胸当ては装備しないが、腿の足ベルトに投げナイフ装備。いつもの短剣はどうせ飾りなのでアル用に作ったのだ。室内なら投げナイフの方が威嚇にもなる。


 他の商人たちもついでに乾かしてやった。

 魔道具が置いてあるが、順番待ちなので。


「え、こんなに一瞬で同時にってどうやったんですか?」


「水魔法で適度に水分を取った後、温風で乾かした。あまり乾燥させ過ぎるのも髪に悪いんで」


「…一瞬でそんな複雑な行程が。教えてもらわないと分かりませんね…おや?少しのぼせましたか」


 ランドの視線を追うと、従業員の一人の顔がかなり赤かったので、アルはキュアをかけてやった。


「…あ、有難うございます」


「って、アルさん、回復魔法も使えるんですか」


「一応な」


 一番使っていないのが回復魔法だ。

 練度は低いのだが、上級ポーション並みに手足を繋ぐことが出来るのは、人体の構造を知っているのと魔力のゴリ押しだろう。


 湯上がりラウンジが用意してあり、そこには飲み物も販売していたので、ランドは皆に果実水を買って配った。アルにも、である。

 本来、護衛なら立ったままで、飲食は別で摂らないと、だろうが、交替のいない一人だけの護衛なので、護衛対象の商人たちと一緒に行動する。席も空いているので一緒に座った。


「アルさん、宿の中の方が武装してません?」


「人がいる所は威嚇のためにもな。商人はただでさえ、金持ってると思われるだろうし」


 一番金持ちなのはアルなのだが、一般的には。だからこそ、商人は盗賊に襲われるワケで。


「ランドさん、氷入れる?」


 例によって生ぬるい果実水に、アルは自分の分に入れるついでに訊いてみた。


「じゃ、すみませんが、お願いします」


 アルは自分も含めて九人全員のカップに氷を入れたが、別に回収せず、それぞれのカップの上に氷を作って落とした。

 カップの中にダイレクトに氷を入れることも出来るが、木のカップでも割れてしまうかもしれないので。


「…カップを集めてから氷を作るのかと思いました。バラバラによく作れますね」


「それこそ攻撃魔法の応用だぞ。いくつか作って放つだろ。アイスアローやアイスバレッドは。で、アースランスのように離れた所に魔法で土の槍を生やすことだって出来るんだから、他の魔法だって出来るワケ。出来ないと思ってたら魔法は発動しねぇしな」


「そう説明されると納得しますが、かなり恐ろしい技術では?避けようがない目の前からファイヤーボールが作れるワケでしょう?」


「そうだけど、魔力は必要なんだから避けられるって。魔力の流れが見える奴にはな。分かっていても避けようがないのは、相手の体内で魔法を発動させること。でかい魔物相手にやったことあるけど、結構えげつない」


「…そんなことが可能なんですか…」


「あれ?でも、魔物だって魔力を使って身体の強化してたり、魔法を撃って来たりもしますよね?体内ならその魔物の魔力が邪魔なのでは?」


「そう。だから、ねじ伏せることが出来るだけの魔力量が必要。もしくは、相手の魔力を利用するか、だな。そっちはやったことねぇけど。時間がかかりそうだし」


「そうですよねぇ」


 湯上がりラウンジには男客だけじゃなく、女湯の方から流れて来る女客もいた。

 ほんの四人程でそれぞれが単独行動なのは、女は旅行自体滅多にしないからだ。魔物も盗賊も出る世界なのである。まったり旅行を楽しむ所じゃない。


 商人の身内や従業員、護衛対象なら誰かがこのラウンジで待ってるだろうが、それもないので護衛の冒険者だろう。

 護衛?と首を傾げてしまう程、弱いが。年の頃は十代半ばから二十代前半ぐらい。駆け出しの冒険者を連れての護衛なのかもしれない。

 安全な地域から慣らすものだろう。

 …ああ、そういえば、アルトもそうだったか。



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