197 秘技聞き返し!

 そこそこ大きいアセーボの街で、中堅ぐらいの宿を取ることが出来た。嬉しいことに大浴場の温泉付きだ。この辺りでは温泉が出るらしい。


 夕食前に、早速みんなで入りに行くと、思ったよりも広かった。

 湯船はガタイのいい人でも十人ぐらいが余裕で入れるだろうか。

 洗い場も広く、最新シャワーも完備。

 温泉は少しぬめりがある透明な温泉だった。

 暗くなる前に、と思ったらしい三人の先客もいる。


「こんにちは。今、到着したばかりか?」


 愛想よく声をかけて来るのは、岩を削ったような筋肉のガタイのいい男だ。年の頃は三十前後。

 腹の出た四十過ぎの男と一緒に湯船に入っていたが、その前に出る。


「そうだ。こんにちは。あんたは商人の護衛か?」


 分かり易い行動からしても。

 アルは近くの洗い場で身体を洗い出した。


「ああ。君も同業者のようだな」


「え、じゃ、君、冒険者なのか。商人の息子で修行中か、入ったばかりとかじゃなくて?」


 後ろの商人が驚いたように言う。


「大将、失礼ですよ。彼、かなり強いです。鳥肌立つ程」


「買いかぶりだな」


「八人を一人で護衛しているようなのに?」


「ダンジョンに潜るワケでもあるまいし、早々危険はねぇだろ」


「ダンジョンでも平気そうだけどな。面倒がってランクを上げてないとしても、Bランクか?」


「ええっ?成人し立てぐらいだろ?そんなに高ランクには見えない」


「いや、Cランクだって。あんたはAランクのようだな」


「ああ。ハマーだ」


「アルだ。こっちは王都フォボスからアレーナの街に行く途中だけど、そちらは?」


 情報交換が目的だったワケだ。

 馬車で二週間かかっても大きい街同士、行き来は頻繁だった。


「アレーナの街からだ。こちらの目的地も王都。道中どうだった?」


「普通のルートを通ってねぇけど、魔物はそこそこ。人里に出て来るとマズイ魔物は討伐した。迂回している森の道は乗用魔道具で空を飛んでショートカットしているから、街道情報は分からねぇ」


「…は?空飛んで?」


「そういった魔道具持ちなんだよ。魔力消費が多過ぎておれしか乗れねぇから、貸すのも売るのも無理」


 アルはそう言って、頭を洗い出した。備え付けのシャンプーではなく、持参した物だ。

 声が聞こえないと思ったのか、ハマーは話しかけては来ず、雇い主とコソコソ話す。


「空飛ぶ魔道具持ちってダンジョンからか?ごくごく稀に乗り物の魔道具が出るとは聞いたことがあるが…ハマーは?」


「一人だけ空飛ぶ魔道具持ちを知っています。一ヶ月ぐらい前にSランク冒険者になった人です。あちらは人工の竜の騎獣ですし、聞いてる容姿とはまったく違うので別人なのは間違いないですが…」


「何だ?珍しくはっきりしないな」


「彼の強さですよ。Sランクになってもおかしくない実力者ですから」


「ああもガリガリで本当にそんなに強いのか?」


「はい。成長期の年頃ですから筋肉が中々付かないだけでしょうね。それに、おれのようにゴツゴツな筋肉は重いですから、まったく敵いません。何とか減らそうとはしていても、不規則な生活だと中々」


 さすが、Aランク。分かってらっしゃる。


「お前が言うことが事実のようだな。利に聡い商人たちが何も言わず、頼りにしている雰囲気まである、となれば。でも、なら、何故、高価な魔道具を使ってまで護衛依頼を受けているんだ?金に困ってないだろうに」


「アレーナの街方面に行く途中ってだけじゃないですか?飛んでる所を見た商人なら飛び付くでしょうし、一つの依頼を受けてる最中なら他は断っても角が立たない」


 …いや、アルはそこまで考えてない。

 角が立った所でどうでもいいからだ。

 アルが湯船に入ると、湯だった商人は湯船から出て行った。話したそうな顔をしていたが、別に風呂の中でなければならないワケでもない。


「ハマーさんは長風呂だな」


 高ステータスの証拠だ。火耐性を持っていればいつまででも入っていられる。


「さん付けいらないって。…アル殿、化ける魔道具を持ってるだろ?」


 ハマーは風魔法で自分とアルの周囲だけ音の伝わりを遮断し、周囲の人たちに聞こえないよう防音にした。

 ほら、目立つマネをしてないだけで、無詠唱の使い手は結構いるのだ。


「こっちも呼び捨てでいいって。何でそう思う?」


 答えず、「秘技聞き返し」だ。嘘か本当か分かる魔法もあるので。


「Sランク相当、いや、それ以上の人が二人もいたら堪らないから」


「だから、買いかぶりだって。そこまで強くねぇよ」


 自分ではそう思っているので嘘じゃない。


「…という設定なんだな。おれは【直感】のスキル持ちだ」


「またか。【直感】スキル持ちには特に買いかぶられる傾向があってさ。詳しく分かるワケじゃねぇんだろ?」


「そうだけど、今までハズレた試しがないし、だからこそ、Aランクにまでなってる」


「自慢かよ」


「ランクアップしたくない人には自慢にならんだろ。結構なレベルのハズのおれの鑑定でも、アルのステータスは見えない辺りも理由だな」


「こらこら、マナー違反だろ」


 断らずに人に鑑定を使うのは、一応、マナー違反になっている。

 隠蔽じゃなく、一般的なCランク冒険者のステータス表示も出来るのだが、それはそれで怪しまれるのだ。本能的に違和感を感じるらしく。


 そういえば、アルに対してはテンプレ絡みはされたことない。

 パラゴの冒険者ギルドのメンバー募集掲示板の前で、ポーターと間違えられた時も、体格だけで判断したお節介な男というだけだったし。



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新作☆「番外編12 世界の命運はこの毛皮にかかっている」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660125528513


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