196 もっともらしい情報は胡散臭い

道標の珠みちしるべのたま…他の素材と合わせてマジックアイテムを作ると、物、人、獣、場所、精霊、妖精その他を探すことが出来る。賢者の石と合わせると、探せないものはなくなる】


 ……おい、ちょっと、最後!


 目を疑ったアルは何度も鑑定をかけたが、間違いない。

 これで神獣探しもはかどるし、元の世界に行く方法も探せるかもしれない!

 【知的探究者・レアアイテムに遭遇し易くなる】スキルよ!かなりかなりいい働きをしてくれた!


 アルは顔に出さないよう、慎重に慎重に表情を取り繕う。


「これがいい。今までの保管料も込みで三個金貨1枚でどう?キリよく」


 高過ぎても不審を招くので、この辺りが落とし所だろう。


「願ってもないです!」


 交渉成立!

 アルは金貨1枚と引換えに、元の世界への手がかりを手に入れた。キラキラ宝箱はさっさと空間収納にしまう。


『キーコ、『道標の珠みちしるべのたま』の情報をよこせ!』


 そして、アルは念話通話でキーコに訊いた。


【存じません。わたしが他のコアたちにも確認します。マスターはイディオス様に訊いてみてはいかがでしょう?わたしたちより長命の神獣ですので何らかご存知かもしれません】


『分かった。頼む。…イディオス、『道標の珠みちしるべのたま』って知ってるか?』


【いつもいきなりだな。『道標の珠みちしるべのたま』?…どこかで聞いたような…かなり前のことだと思う。ちょっと待て。アル、手に入れたのか?】


『ああ。イディオスも聞き覚えがあるのなら間違いなくキーアイテムだ。どこで聞いた?』


【思い出すから待てって。…えーと、あれはいつだったか…】


【マスター。クーコが『道標の珠みちしるべのたま』を探したことがあるそうです】


【クーコです。『道標の珠みちしるべのたま』は200年ぐらい前に探したことがありました。『道標の珠みちしるべのたま』の存在は前マスターがエルフの間に伝わるおとぎ話として聞いて来たからです。情報元はマスターの友人の知人の姉の友人のエルフで、そのエルフの名前も分かりませんし、そのおとぎ話も見つかっていませんので、信憑性は低いと判断していました。

 その時の話は『道標の珠みちしるべのたまというレア中のレアアイテムがあり、その珠は何かの素材と合わせてマジックアイテムにすると、あらゆる物、人、場所、伝説の武器やアイテムまで探すことが出来る』といったものでした】


『おれが鑑定した内容とだいたい同じだな。コアたちは『賢者の石』を用意することは出来るのか?』


 知らない『道標の珠みちしるべのたま』は用意出来ないだろうが、賢者の石は。


【クーコは出来ません】


【キーコも出来ません】


【アーコも出来ません】


【パーコも出来ません】


【トーコも出来ません】


【フォーコも出来ません】


【ミーコも出来ません】


『こら、待て、パーコ。肉弾戦でバジリスク二回目討伐で【変わり者のバングル】が出て、使いみちがないから素材にしようと鑑定して初めてその付いてた石が【賢者の石】だと分かったんだけど、【変わり者のバングル】は用意出来るのか?』


 素材で分けたので【変わり者のバングル】はもうない。


【出来ません。ダンジョンの設定の根幹に元々組み込まれているようです】


『…となると、『道標の珠みちしるべのたま』もそんな感じで仕込まれてたのか。キラキラ宝箱の鑑定で出たんだけど』


【マスター。キーコです。キラキラ宝箱の入手先とそこから出た素材のリストを下さいませんか】


 キーコがそう申し出て来た。


『元々組み込まれてるかどうかの判断をするワケか。じゃ、後で書いて送る』


【お願いします】


【アル、思い出したぞ。五百年ぐらい前に母に聞いたのだ。『道標の珠みちしるべのたま』を転生者が探している、と。その時は天啓があったそうだ】


 そこで、イディオスがそう教えてくれた。

 それでアルはもやもやしていたのが形になった。


胡散うさんくさっ!…これだけもっともらしい情報が簡単に手に入る、となるとひっかけかもな。…コアたち、今聞いた話の裏付けや関連情報を集めてくれ。それと、自分のダンジョンで『変わり者のバングル』のような特殊アイテムがないかどうか、あったらその入手方法も』


【分かりました】


【アル、疑い過ぎじゃないのか?】


『疑って何もなければ、それでいいだろ。『賢者の石』が出た時からお膳立てされてるようで気に入らなかったんだ。おれが意識だけ転移したのも、おれの元の身体を探すことで元の世界を探す、という流れにしたかったようにも思える。おれの身体なんかより、愛しの奥様及び、愛しの奥様がいる世界を探すけどな!』


【……どれだけ好きなのだ】


『そうじゃなきゃ結婚してねぇ』


 身体が違うからか、欲求不満ではないが、時々無性に会いたくて声を聞きたくて笑った顔が見たくて堪らなくなる。

 やるせなさは魔物に八つ当たりしたり、酒を飲んで気を紛らわしたりしてるワケだが、ダンジョン攻略も少しでも元の世界の情報が欲しいからだ。

 つい先程も先日攻略したばかりのクラヴィスダンジョンのクーコも大した情報は持ってなかった。

 しかし、このタイミングの良さも疑いを持つ理由でもあり。


『神様でーす。急に意識だけ転移させちゃってごめんね。お詫びに元の世界に戻る手段を分かり易く用意したよ!』


 そんな風に軽くじゃなくても、おごそかに接触して来たとしても、アルは尚更信じないだろう。

 何らか手出し出来るのなら、直接、元の世界に帰してくれればいいだけなのだ。

 一発殴ることが出来るように、日々鍛錬も欠かさない。


「アルさん?どうかしましたか」


 考え込んでいるように見えたのだろう。ランドが声をかけて来た。


「合金の組み合わせと用途について考えてた。これが正解というのがないから、それもまた興味深いんだよ」


 これも嘘じゃない。

 ある一定の所まで行くと、期待する強度や切れ味はクリアしてるので、後は色や輝きや艶やコストで自分の好みの話か、という結論になるが。


「そうなんですか」


 大して興味がなかったらしく、ランドはその程度の相槌だけだった。

 物によっては商売になるのだが、まぁ、手広くやり過ぎても商売としてはやり難くなるか。


 適度に休憩した後、再び荷台付きバイクに乗り込んで空を飛び、休憩もこまめに入れ、人里に出て来るとマズイ魔物は倒したものの、空を飛ぶ時間を増やしてショートカット出来たおかげで、暗くなる前には全行程の七割の所まで来ていた。


 アルは寝ていてもまったく構わないし、その方がコアたちと念話通話で色々話せるし、変わり映えのしない景色ばかり続くと眠くなるのも分かるので促した所、商人たちはのんびり眠って過したため、かなり楽な旅だったことだろう。



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新作☆「番外編12 世界の命運はこの毛皮にかかっている」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660125528513


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