199 やっぱり関係者かよ!

「こんにちは」


 そこに、肩ぐらいの長さでふんわりとウェーブの入ったピンクがかった茶髪の女が近付いて来て挨拶をした。年はアルと同じぐらいか。


「こんにちは」


「君も冒険者よね?」


「そう。Cランク」


「…Cランク?見かけ通りの年じゃないの?」


「見かけ通りの十六歳」


「見かけが若いからってサバ読んでない?中々Cランクになんてなれないわよ。駆け出しだと思ったのに」


「見る目のないことで」


 アルは首にかけてるギルドカードを見せてやった。

 3×2cmの小ささだが、銅の合金で赤銅色だ。

『C Rank AL』と刻印した後、白い樹脂のような物が流してある仕様である。


「…本当にCランクだ。…あ、パーティメンバーが強いのね?だから…」


「ソロ。パーティメンバーが強いからって、他のメンバーのランクも引き上げることなんかねぇって」


「でも、全然強そうに見えないし」


「駆け出し冒険者。先輩への口の聞き方がなってねぇぞ」


 アルは女の顔に魔法で冷水をかけてやる。床に垂れない程度の絶妙加減で。


「……ご、ごめんなさい…」


「おれが温厚でよかったな?見かけがどうあれ、初対面の相手に甘え過ぎだ。痛い目見るぞ」


「はい、すみませんでした!ご指導ありがとうございます!」


 言い慣れてる……。とうに色々やらかした後らしい。


「何でおれが指導しねぇとならねぇんだよ。指導者を呼んで来い」


「はい!」


 駆け出し女は小走りに客室の方へと走って行った。


「…アルさん、ご飯を食べに行きましょうか」


 すると、呆れて見ていたランドが建設的な提案をしてくれる。


「賛成」


 アルたち一行は、揃って食堂の方へと移動した。


 当たりの食堂でアルたちが料理に舌鼓を打っていると、そこに先程の駆け出し女冒険者と、すらりと背の高い青い長髪、顔立ちは整ってるが、瞳孔は縦長の男が歩いて来た。


「…やっぱテレストかよ…」


 ハズレてくれるといいな~とアルは思っていたが、やはり、指導者はテレストか。宿に来た時からテレストの気配には気付いていたものの、別に用事はないのでスルーするつもりだったのだが。


「あら、アタシをご存知?弟子が失礼したわね」


「あんた、指導者に向いてねぇよ。女弓師といいダメ女を量産してんのか、Sランク冒険者なら何とかしてくれるって、元々問題児を押し付けられてんのか」


「…ちょっと待って。あなた…あのダンジョンの…」


「飯食ってるから話は後で」


 アルが手を軽く振ると、神妙に頷いたテレストと駆け出し女はさほど遠くない空いてる席に座った。


「…Sランクとか言いました?」


「ああ。Sランク冒険者のテレスト。前にダンジョンで会ったことあるんだよ。聞いての通り、女弓師がもっと酷くてさ。自分がドラゴニュートで三百年以上生きてるからって甘やかし過ぎなんだよ」


「そうなんですか。何故、オネエなんです?」


「知らねぇ。それはあいつに訊いてくれ」


「おれもSランクの一人はドラゴニュートの魔法使い、という噂は聞いたことがありますが、オネエだという情報は初耳ですね…」


「…って、アルさん、タメ口叩いてていいんですか?先輩がどうのと言ってませんでした?」


「問題なし。たっぷりと恩を売ってある上、貸しまであるからな」


「アルさんって…」


「ん?」


「いえ、何でもないです。本当に美味しいですね。ここの料理」


 触れないほうがいい、と判断したらしく、ランドはあからさまに話題を変えた。

 食事の後は朝まで自由時間。それは護衛のアルも同じだった。


 アレーナの街までハメを外すことはなく夜遊びもなし。せいぜい、宿の部屋でカードゲームぐらいだ。護衛の必要はない。

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