195 おい、ちょっと、最後!

 アルはすぐパラソル付きの四人掛けテーブルセットを二組ともう一つ自分用の椅子を出した。

 誕生日席である。『こおりやさん』店舗の時にテラス席で使っていたものだ。かき氷の自動販売魔道具も出してやる。

 アルは自分用にはアイスティーにする。


「こちらは快適ですが、アルさんはお疲れにならないです?」


 真っ先にかき氷を買って席に座ったランドがそう訊いて来た。


「全然平気。もっとスピードを出してもよさそうだから、二日で到着出来ると思うぞ」


「しかし、それだと魔力の方はもっとかかるのでは?」


「おれにとっては大差ねぇって。魔物の群れにぶち当たっても結界があるから安全だけど、逃げ切れる速度の方がより安全だし、ランドさんたちもグロイのは見たくねぇだろ。殲滅するのも簡単だけど、ダンジョンと違って後始末いるし」


「あー…まぁ、そうですね…」


「あの、曇って来ましたが、雨になったらどうなるんですか?幌はないようですし」


 そこで、店員の一人が心配げにそう訊いた。


「このままで濡れねぇよ。結界が張ってあるって言っただろ?雨も雷も魔物も弾く」


「そうなんですか。それは便利ですね」


「そういえば、アルさん、武器は短剣ぐらいしか持ってませんが、魔法をメインで戦うスタイルですか?」


「魔法も剣も使う戦士。格闘が得意」


 そう名乗ることにした。

 アルの時はあまりにも帯剣しなさ過ぎだし、前に長剣使ったのいつだっけ?と思ってるようでは剣士は名乗れない。

 ミスリル刀がメインだが、刀は目立つし、重さで体幹がズレるので帯刀はしたくない。


「格闘?アルさん、ソロですよね?」


「そうだけど、伊達にCランクじゃねぇんで。剣が必要ならこんな感じで」


 アルは鞘なしの長剣を右手に装備して見せた。

 しばらく、使ってなかったのでマジックバッグじゃなく、空間収納に入れっ放しだった。


「……え、どこから出しました?」


「マジックバッグから。【チェンジ】っていう魔法があるんだよ。着替えの魔法だけど、自分の持っている荷物から服や装備を指定して変更出来るのを利用してアイテムも出すことが出来るし、一瞬でしまうことも出来る」


 アルが使っている紺色のマジックバッグも時間停止だが、あまり使わない長剣は空間収納へ戻す。


「それってものすごく便利じゃないですか。弓矢の在庫を持っていれば、あるだけ途切れなく供給出来るということですよね?」


「いや、魔力が続く限り、だ。スキルじゃなく魔法だから魔力が必要。スキルも魔力を使うものも多いけどな」


「…あ、そっか。そうですよね」


「やっぱり、デメリットもありますよね。アルさんは弓の方は使わないんですか?」


「ああ。投擲スキルがあるからそれで何とかなるし」


「でも、弓より威力が落ちません?」


「そうでもねぇぞ。石で木の幹ぐらいはぶち抜けるし」


「……そ、そうなんですか」


 控えめに言ったのに、引かれてしまった。


「すると、アルさんはオールラウンダーって感じですかね」


「前衛後衛どちらもこなせるという意味ならな。槍と斧は使えなくもない、程度。蹴った方が早い」


「え、斧が使えるのは珍しくないですか?」


「薪を作る時には斧で割るだろ?刃筋を立てられるから、攻撃でも使えるだろうと試してみたら、割と使えたという話。斧がドロップすることがたまにあるしな」


 斧は地味に需要があるのでもう売ったが。


「あードロップ品ですか。武器や防具はレアドロップなので中々出ないそうですが、ダンジョンにもよるんでしょうか?」


「それもあるけど、称号のあるなし、ステータスの幸運も関係あり。レアドロップ率が高くなる称号もあるから」


「では、称号ありの人はかなりレアアイテムを持ってるということなんですね。羨ましい話です」


「売るに売れないアイテムばっかり溜め込んでたぞ。Aランクの知り合いたちは」


「呪われたアイテムなんですか?」


「威力が高過ぎたり、普通の人だと一瞬で魔力が枯渇するような厄介なものばっかりなんだってさ」


「…それは出せませんね…」


「そういえば、ランドさん。ダンジョン産のキラキラした宝箱って扱ってない?」


「ああ、綺麗なだけのただの箱ですか。いくつかありますが、アルさん、欲しいんですか?」


「欲しい。出来れば全部。素材は合金だろ?錬金術師にとってはかなり勉強になる組み合わせで、それぞれ違ってるんだよ」


 それも嘘じゃない。


「え、合金の勉強になるんですか?鑑定だけじゃなく、錬金術師にも見てもらったことがありますが、分解も錬成も出来なかったんですが」


「錬金術と鑑定のどちらも持っていて、レベルが高くないと分解出来ねぇんだよ。おれも最初は出来なかったし」


「そうなんですか。鑑定出来ないだけで、何か特殊なアイテムかもしれない、ということで売れ残ってるんですが、おいくらぐらいなら買って頂けますか?」


 ランドでは値が付けられないらしい。


「ラーヤナ国キエンの街の冒険者ギルドでは、ディスプレイケースとして使われてて、譲って欲しいと交渉したら一個銀貨1枚だった。両手のひらに載るサイズで。手のひらサイズの物もある?」


「いいえ。そちらは宝飾品を入れるのにちょうどいいサイズなので、買って行かれる方もいまして。やはり、銀貨1枚ぐらいが妥当ですか。…これなんですが、本当にこれでいいんです?」


 ランドはマジックバッグからキラキラ宝箱を三個出した。宝石は付いてない。


【雷鼠のヒゲ…他の素材と合わせると雷属性の武器を作ることが出来る】


古代蜘蛛エンシェントスパイダーの外殻…他の素材と合わせると、軽くて防御力が高い装備を作ることが出来る。また既存の装備を強化することも出来る】


道標の珠みちしるべのたま…他の素材と合わせてマジックアイテムを作ると、物、人、獣、場所、精霊、妖精その他を探すことが出来る。賢者の石と合わせると、探せないものはなくなる】


 ……おい、ちょっと、最後!



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新作☆「番外編12 世界の命運はこの毛皮にかかっている」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330660125528513


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