190 おれ程、欲深い人間は中々いない

「では、エンシェントドラゴンの魔石を見せてくれ」


「これだ」


 シヴァは魔石をテーブルの上に出す。

 SSランク(測定不能)のエンシェントドラゴンの魔石は、魔石としてはかなり大きくバレーボールぐらいある。黄金色で透明度も高い。

 魔物によっても大きさも色も透明度もバラ付きがあるが、Sランク魔物でみかんぐらい、Aランク魔物でピンポン玉ぐらい、と考えると、一気に大きくなった感じだ。

 大きい魔物だと魔石も大きくなる傾向があるが、必ずではないし、ダンジョンによっても変わって来る。


「これが…た、確かにエンシェントドラゴン」


 ここのギルドマスターは鑑定持ちらしい。


「冒険者ギルド本部に報告した所、二週間ちょっと前にヒマリア国ミマスダンジョンをソロ攻略し、ここクラヴィスの街の大型ダンジョンをたった三日でソロ攻略してしまうあまりに規格外過ぎな貴殿はSSランクに、という話が出た。ランクが上がっても今までとほぼ変わらないが、冒険者ギルドがある街ならどの街でもどのダンジョンでも行列待ちせず、優先して中へ入れるようになるし、ギルド持ちで最優先で宿の手配をさせてもらう。拠点を構える際にも便宜を図ろう」


「全然メリットがないんだが?元々行列は優遇されていた。宿は自分で好きな所を選びたい。拠点は考えてない」


「…そうなのか。…あ、でも、王侯貴族からの呼び出しがあった際にはその街のギルマスが代行するし、何らかトラブルがあった際にもギルドが片付けるぞ」


「それはメリットだな。それだけか?」


「武器や防具を作る時に便宜を…って、最上の物を既に持ってるし、作ることも出来る貴殿には無用か…魔石はしまってくれ」


 あまり出したままだと怖いらしく、そう言うので、シヴァはエンシェントドラゴンの魔石を収納した。


「貴殿が希望するものはないのか?」


「情報が欲しい。戦争が起きたり内乱が起きたりする国には行きたくないからな。スタンピードは元より、日照りや干ばつや不作、雨や雪が多過ぎて災害が起こったり、疫病が蔓延した際も早く知りたい。何なら地形を変えることも出来るからな」


「…えーと、救助出来るから早く知りたい、ということでいいんだよな?」


 ギルドマスターに気象知識がないことに気が付いた。

 この世界の人間の大半はそうか。

 経験で農家は知っていると思うが。


「ああ、何で地形が関係あるのか分からないのか。地形によって雨の多い少ないが決まるからだ。水はけの悪い土地も、他から水が入って来るのに中々水が流れて行かない地形が原因だろう?そんなものだと思っておけばいい。干ばつなら地下水を汲み上げることも、川から水を引くことも出来るしな。疫病も環境によっても広まり易くなるから早めの対処が肝心だ。早い騎竜と大容量のマジックバッグを持っているおかげで、食料運搬も問題ない」


「それはかなり有り難いが…貴殿のメリットにはならないだろう?」


「メリットだ。長期的視野を持て。何十年何百年か後に子孫が役に立つかもしれんだろ。そうじゃなくても、復興して美味しい名産品でも出来れば、それだけでメリットだ」


「貴殿には欲がないのか?」


「まさか。おれ程、欲深い人間は中々いないぞ。衣食住十分以上に足りているのに、ダンジョンに潜ることだってそうだろ。あっさりSランク認定されたし、今回はSSランクの話も出てるが、おれの自己評価は『強い方』というだけだ」


「…エンシェントドラゴンを倒せるのに、その程度?」


「討伐までだいたい十分だぞ。思った程強くなかった」


 結局、全力を出す程でもなかったワケで。


「…いやいやいやいや、逆だ。貴殿が強いだけで過小評価し過ぎだぞ」


「ブレスに頼り過ぎなんだよ、ドラゴンは。図体が大き過ぎて敏捷さにも欠けるし、魔法も撃って来なかった。タフさと再生能力が売りなのかもしれんが、再生能力ならジャイアントワームが一番手こずったし」


「……えーと、何匹かドラゴンを討伐している口ぶりだが、一体どこで?」


「色々と。ダンジョンボスの前の四天王に青竜もいるだろ。後は別に倒さずとも進めるが、ドラゴンをイレギュラーボスとしているダンジョンもあるしな。下位の風竜とかドラゴンゾンビとか。…あれ?アイスドラゴンは見てないな」


 雪山フロアにいるハズだったのだが、探さないとダメだったのだろうか。

 倒さずとも進めるが、イレギュラーボスとしているタイプだったのに。

 シヴァが早く滑り過ぎたのかもしれない。後で探しに行こう。



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新作*「番外編11 Sランクオネエの弟子の末路」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659538923368


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