189 肉弾戦は殴る蹴る

 翌日の朝。

 ラッシュが終わった頃にシヴァが冒険者ギルドに行くと、待ちかねていたギルドマスターに奥の応接室に連れて行かれた。


「あ、ちょっと待て。また転移石とエスケープボールが出たから、先に買取カウンターに」


 115階と122階なので需要は高いだろう。

 行った順番が逆なので、一つの階ではなく、こういったことに。

 買取カウンターに渡してから、応接間に行った。


「またダンジョンに潜ったのは、いいドロップが出るからか?」


「いや、海中フロアで初回はほとんどのドロップを取りこぼしたから、再チャレンジしただけだ。115階は砂漠フロアの新しい移動方法の検証、とか言いつつ遊んでただけだな」


「…遊んでた…。遊べるものなのか、砂漠フロアって…」


「おれならな。雪深い地域で使われている『スキー』って知ってるか?」


 転生者が広めなくても『スキーもどき』は最初からあったらしい。

 名前を付けたのが転生者で、元よりは改良していたが、シヴァのように物作りも詳しくなかったようで稚拙なものだった。

 スリッパを履くような形で履き、ベルトで縛るだけで靴とのフィット感があまりない。

 シヴァが作ったのは、現代日本で使われているスキーのアレンジ版で、スライム皮ゴムでフィットさせ、ブーツなら使える仕様にしていた。自動サイズ調整である。


「いや、知らない。どういったものだ?」


「これだ。こっちが雪用、こっちが砂用。防水に気を遣ってあるか、そうじゃないかだけの差だな。靴に装着して滑る」


「滑る?じゃあ、真っ直ぐしか進めないんじゃないのか」


「いや、自在に動ける。練習すればほぼ誰でもな。運動神経がいい冒険者なら滑れるようになるのも早いとは思うが、魔物を倒しながらとなると難しい。このスキーは武器としても使えるんだが」


「…それ、貴殿にしか使えないような気がするぞ…。新しい移動方法って言ってたが、最初はどうやって踏破したんだ?」


「騎竜で。これだ」


 …ということに。バイクはアルが目立ってしまっているので。

 シヴァはスキーをしまい、騎竜をバイクサイズで出した。


「人工騎獣風竜だ。空を飛ぶのが一番速いが、水中でも使えるんで、海中フロアで使った所、ドロップを取りこぼしたワケだな。ああ、戦闘能力はない。移動だけだ」


「これが噂の…小さいが、本物そっくりだな…」


「でかくも出来る。サイズより飛んでるだけで目立つから、普段は隠蔽をかけている。魔力を割と使うからおれにしか乗れんだろうな」


 実際は、常に魔力チャージしてあり誰にでも乗れるので、所有者限定にしてあった。

 チャージ機能がなければ、一般的な魔力量の人だと数分も保たないだろう。

 話が進まないので、シヴァはさっさと騎竜をしまう。


「で、報告書に書いたこと以外で質問は?」


「ああ、そうだった。今までは砂漠の踏破で躓いていたワケだが、貴殿の暑さ対策はどういったものでしている?支障ない程度でいいから教えてくれ」


「全装備マジックアイテムか魔道具だ。フロアの環境によって合わせた物を用意している。おれは錬金術師でもあるので自分で作れるのは大きいだろうな。不具合があったらその場で修正も改良も出来る」


「……ええっと…うん、まぁ、そうなんだが…今後の参考にならなさ過ぎる…」


「腕のいい錬金術師に頼めばいいだけだろ。さっき見せたスキーなら作れるハズだ。素材違いにはなると思うが」


「使えるかどうか分からないものを頼む奴はいないだろ。暑い所でも問題なく行動出来るマジックアイテムは、やはり、ダンジョン産なのか?」


「いや、おれが作った。素材はダンジョン産。【火炎豹のヒゲ】を使ったマジックアイテム。寒い所は【氷猫のヒゲ】を使って。素材だけでもレア中のレアだな」


 火炎豹も氷猫もシヴァでもいまだに遭遇したことがない。


「……幻とか言われている素材だな…。宝箱からか?」


「そうだ」


 宝箱そのものの合金からだが、間違ってはいない。


「運もいい方か?」


「運はそこそこだが、レアアイテムに遭遇し易くなる称号持ちだ。だから、売るに売れんものばかりに」


「……あのリストか…何度見返したのやら。そんな称号、どうやったら付くんだ?何か心当たりは?」


「肉弾戦でダンジョンボスを倒したからだろうな。他の冒険者から聞いてるだろうが、おれはダンジョンエラーを何度も経験している」


「……肉弾戦って殴る蹴るでいいのか?おれの知らない言葉じゃなくて?」


「それで合ってる。ソロで同じ事がやれれば、称号も付くと思うぞ。…ああ、100階のジャイアントマディゴリラは切り刻んだだけだ」


「だけ、とか言わんでくれるか…それが難しいのに。海中も問題なく動けるマジックアイテムを持ってるのか?」


「ああ。【人魚の鱗】という素材から水中で問題なく過ごせるマジックアイテムを作った。これもダンジョンエラーで出た宝箱から」


 宝箱本体の合金から、だ。

 隠し部屋については記してない。【真珠製造マジックアイテム】を公表すると、無謀にもチャレンジする冒険者が出そうなので。


「ここのダンジョンでか?」


「いや、別の所。まったく海は関係ないフロアボスの討伐で。ここのフロアボスは100階と120階以外は行列してたんで、討伐してない」


 そういえば、120階のメガロドンはダンジョンエラーにならなかった。


『伝説の深海魚なのに、魔物になると肺呼吸するのか?』


『ヒレだけ切り取って収納すれば、フカヒレが作れるかも』


 そんな観察・検証していたので討伐まで十分ぐらいかかったからかもしれない。

 収納すると同時にヒレも消えたのでフカヒレは無理だった。

 低確率でドロップになるかも、と何度か試してみてもダメだった。

 ダンジョン産の魔物は、やはり、正確には生きていないのだろう。


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新作*「番外編11 Sランクオネエの弟子の末路」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659538923368


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