188 格闘ゲーム技をやってみた

 クラヴィスダンジョン122階、海中フロア。

 速度を落としたくないのなら、騎竜を使わず、泳げばいいのでは?


 そんな単純なことに思い当たったシヴァは、ウエットスーツ、マリンゴーグル・グローブ、足ヒレ、そして【人魚の加護ペンダント】の水泳装備で鞘なしのミスリル刀を持ち、結界を張らずに海中にダイブ。


 ステータスが高いおかげで、ぐいぐい泳げる。

 更に水魔法で加速も出来る。

 …あ、もう一つあった。【人魚の羽衣】を使った水装備を作ったおかげもあるのか。速く泳げる効果があった。


 襲って来る魔物たちは浮力が働いて斬り難いが、足場結界を併用すれば、難なく。

 このぐらいの速度なら空間収納でドロップ回収が十分間に合う。騎竜に乗ると水中でも速過ぎた、というのもあった。

 水流操作をして来る魔物もいたが、シヴァも水流操作が出来るため、流されることなく、逆に引き寄せて斬った。

 地上では風魔法の方が便利なため、水魔法は飲水や料理で使う水や洗面程度でしか使ってなかったが、徐々に使い易くなって行く。

 水魔法レベルが上がったらしい。


 結界を張らなくてもかすらせることがなかったので、ウエットスーツの防御力の検証が出来なかったが、まぁ、いつものことか。

 今回の武器は大剣にせず、ミスリル刀なのは水抵抗を考えてのことだったが、途中で大剣に変えても大して変わらなかった。

 この高ステータスだと水抵抗は考えなくてもいいらしい。

 水圧についてはやっぱりなかった。なので、耳抜きする必要もなかった。


 【人魚の加護ペンダント】のような水中で呼吸が出来るマジックアイテムがなければ、空気タンク…はないので空気袋をたくさん作ってマジックバッグに入れて…となるのだろうか。

 パーティ人数分?…何かかなり大変そうだ。


 前のフロアで、そういった水中用アイテムがドロップするといいかもしれない。が、まず砂漠の方が問題なのか。暑さ対策と移動手段が。


 自走式サンドスキーみたいなのを開発…そんな小ささじゃ無理か。

 スノーモービルならぬ、サンドモービルを作ればいいのでは。路面より砂漠の砂はサラサラなので摩擦が少ない。


 …待てよ?下層まで来るような冒険者は高ステータスなので、単なるスキーで何とかなるのでは。普通の靴よりは絶対マシ。

 122階の海中フロアを踏破…踏んでないので制覇か?してから、シヴァは115階の砂漠フロアへ。

 万が一、他の冒険者が来ないようにと113階ではないのである。


 階段で砂漠仕様に着替え、ブーツに後付けサンドスキーをすぐに作成。

 よく滑るよう裏面にはワックスも塗る。

 シヴァはサンドスキーを履いて歩いてみる。

 …うん、やはり、雪のスキーとほぼ変わらない。

 アイスバーンがないだけ快適とも言える。

 逆ハの字で小山を登り、滑り降りる。その勢いのまま、次の小山に。勢いを付けて跳んでもいい。

 ああ、そうか。スキーのクロスカントリーみたいな感じだ。やったことはないが、楽しい。


 暑さ日差し対策が万全で探知魔法で魔物の位置が分かるシヴァなので、呑気に遊んでいられるが、他の冒険者はその辺をどうにかしないと、だ。


【マスター、クーコです。何をやっていらっしゃるのか訊いてもよろしいですか?】


 しばらくすると、通信バングルにクーコから連絡が入った。


『見ての通り、遊んでる』


【スキーは雪の上で滑るものじゃないんですか?】


『色々あるぞ。今はサンドスキー、草原で滑るのはグラススキー。さすがに滑りが悪いから、キャタピラ…もうちょっとゴツイデザインになるけどな。他は水上スキー。これは単体では滑れない。船に引っ張ってもらって水の上を滑る。…ああ、騎竜使えばやれるな』


【水の上は沈みませんか?】


『大丈夫。慣性の法則っていうのがあって、下に引っ張られる重力より横に引っ張られる力の方が強いから。バランス崩すと沈むけど』


【そうなんですか。マスターが遊んでいらっしゃるのなら、その周辺へは魔物が出ないようにします】


『…え?別に問題ねぇからそのままでいいぞ。何かスキルが生えるかもしれねぇし。前のマスターは魔物が出ないようにして遊んでたのか?』


【はい。マスター程お強い方ではなかったので】


『それでよく20階しかなかった時とはいえ、攻略出来たな。…ああ、パーティでか』


【そうです。ソロで七つもダンジョンを攻略…いえ、ダンジョンマスターになっていない所も合わせると八つですか。そんなにソロで攻略しているマスターがかなりの規格外なんです】


『でも、転生者なら最初から特別なスキルや魔法があったんじゃねぇの?』


【アイテムボックスと上級魔法が使えましたが、魔力が少なかったので『時々強い程度』だとよくおっしゃってました】


『魔力って増えるんだけど、増やさなかったんだ?』


【あまり増えなかったようです。パーティで行動していたからでしょうね】


『経験値頭割りか』


 いくら、転生者称号で経験値倍加があっても、それでは効率が悪過ぎだ。


『ところで、クーコ、ラーメンレシピって持ってる?』


【ラーメンとは何ですか?】


『…えー知らねぇのか。そろそろ食べたかったのに。小麦粉で作る細麺なんだけど、アルカリ性…っても分からねぇか。灰の上澄み部分を濾して麺を作る時に混ぜると、他の麺類と違った感じにもちもちになる。その麺が入った食べ物がラーメン。醤油、塩、味噌、豚骨、鶏ガラ、海鮮ダシと色々あるけどな』


 他のコアたちもラーメンレシピを持ってなかった。

 先日、ドロップした【料理の書】にも載ってなかった。

 …いや、考えてみたらクーコがレシピを持っていなくて当然だった。このダンジョンで出たのが【料理の書】なのだから。

 その時、シヴァはここにもいるデザートマンティスの大群に囲まれてしまった。


旋風脚せんぷうきゃく!」


 滑る勢いを殺さず、足を旋回する。格闘ゲーム技だ。

 これがやりたくて、ワザと囲まれたワケである。こんなこともあろうかと、スキーのエッジは研ぎ澄ませてあった。

 スキー分、間合いが広がっていることもあり、一匹も逃すことなく殲滅。

 ダンジョン以外でやると血みどろになりそうなので、自重しよう。

 マンティスは半透明の黄色い体液ですぐ消えるのは知っていても不快なので、クリーンをかける。


【…マスター、本当にとことんお強いですね…】


『このぐらいは元の世界でも出来たぞ。殺してはいねぇけど、一対多数の喧嘩が多かったんで』


 殺すワケにも行かなかった辺り、元の世界は厄介だった。殺さず、戦闘不能にしないとならなかったので。

 いくら、多数相手で正当防衛が成立していても、殺せば非難は集まってしまう、という社会だった。


【元の世界は平和だと前のマスターから聞いていましたが、本当は違ったのですか?】


『いや、大半は平和。この容姿で頭も良くて運動も出来て喧嘩も強いから、妬まれまくってたんだよ。『おれのせいで女に逃げられた』とか『お前のせいで女が回って来ない』とか『兄に敵わないから弟に』で兄貴のとばっちりも多々あり。幼い頃はしょっちゅうさらわれかけたから、身を守る術を教えられていて、散々色々危ない目にも遭ったから自主的にも鍛えてたワケだな』


【……マスターが転移させられた理由が少し分かった気がします】


『全部ぶっ壊せ、って?』


【いえ、停滞しているこの世界に新しい風を、といった所だと思います。他のコアたちからも聞きましたが、ダンジョンを攻略しようという気概を持つ冒険者は、この国以外も少なくなっているようですしね】


『異世界人がどう過ごそうと、この世界への影響は小さくないだろうしな。主に食べ物面で』


 シヴァはサンドスキーを楽しみながら、適当に魔物も倒し、さほど時間をかけずに115階を滑り切った。

 スキーに慣れているシヴァだからこそ、スキーを利用して余裕で戦えるが、他の冒険者だとかなり無理があるかもしれない。


 その点、妻は雪国生まれだっただけに、息を吸うかのごとく、かなりのスキー上級者だったので、シヴァよりもっとサンドスキーも楽しむことだろう。


 ……ちょっとせつなくなってしまった。


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関連話*「番外編04 「雪山なら勝てる」と妻は言った」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330657264699299

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