飛行魔道具

170 ウチのにゃーこは売れません!

 さて、多少の鍛錬もしたし、オークションが終わって支払われるまで王都から離れられないので、アルは久々に冒険者ギルドへ。

 前に依頼を受けた…納品依頼を事後依頼達成したのは、素材やアイテムを売りに来た時、もう三週間以上前のことだ。普通の手続きで依頼を受けたのはトモスの街の『人魚の羽衣』で、更に前。


 そろそろ依頼を受けよう、と掲示板を覗く。

 人が集まって来る王都だけに、簡単だったりお得だったりする依頼は朝ラッシュで他の冒険者たちが受注しており既にない。

 残っている割の良くない依頼は、自分のランクより二つ以上低いランクでも奪うことにならないし、片付いて欲しいギルトとしては受注を推奨している。


 『迷子の猫探し・三週間前に一目惚れした人サイズの猫人形の捜索。飼い主と交渉したい』


 にゃーこのことだろう。Fランク依頼だ。パス。

 …というか、『こおりやさん』関係なのに、気付かず受け付けてしまったのか。

 アルは依頼票を剥がすと受付に持って行った。


「これ、多分、勅命が出てる『こおりやさん』関係だからキャンセルした方がいいぞ」


「…え、そうなんですか?魔導人形を欲しがる依頼はたまにあるので、てっきり同じかと。でも、何故、分かったんですか?」


「三週間ぐらい前に店舗で営業した時のことで、おれがその『こおりやさん』の店長だから」


「……はい?」


「ほら」


 アルは【チェンジ】で自動販売魔道具を出して見せた。

 これ程、証明になるものはない。


「…確かに。確認した上で依頼を取り下げておきます。交渉の余地はないということですよね?」


 受付が確認した所で、アルはすぐ自販を収納する。補充はしてあるものだが、営業許可をもらってない時に販売はしない。

 周囲は驚きつつ、ポケットを探っていたが。


「交渉も何も、このにゃーこ、魔導人形じゃなくゴーレムだ。譲れるワケがねぇだろ。そうじゃなくてもうちの子は譲らねぇけど」


 境目が曖昧だが、魔道具なら魔導人形、でいいのだろう。

 ゴーレムは素材は様々だが、術者が使役するもので一般的には複雑なことは出来ないし、自立意識もないし、術者がいない所では動かせない。

 にゃーこはダンジョンコア製なので、術者がいなくても動ける特別個体だ。学習機能が付いてるので、少なくともオーブを使っているのは間違いない。

 自動販売魔道具での販売の時は使わなかったが、量産したにゃーこたちは現在、キエンダンジョン温泉宿で働いていて、宿従業員と癒やし担当でもある。マスターはアルで術者はキーコだ。


「…それなら譲れませんね」


「それより、お薦め依頼ない?」


「……あ、はい。ギルドカードを見せて下さい」


 アルが首にかけたギルドカードを見せると、気を取り直した受付嬢はいくつかの依頼を紹介してくれた。

 ダンジョンのドロップ品の納品以外だと、商人の護衛、森での薬草やきのこの採取、飲食店の手伝い…。


「飲食店の手伝い?何で冒険者ギルドに。商業ギルドじゃねぇの?」


「商業ギルドではもう断られてるんですよ。店主が荒っぽく、お客も荒っぽいそうで。…え、アル様、受けるんですか?」


「いや、異色だったんで訊いてみただけ。この商人の護衛も隣の街なら近いのに、商人に何か問題でもあるのか?依頼料は高めなのに」


 護衛専門の冒険者もいるのに、何で残ってるんだ?という依頼だった。


「依頼主が選り好みしてるんですよ。今回は娘さんも一緒に行くので、荒っぽい人はダメ、男前もダメ、軽いのもダメ、と。娘さん、十歳なんですけどね」


「商人に問題ありだな。女の冒険者に頼めば?」


「女性がいるパーティは需要が高いので空いてません。ソロの女性冒険者は少なく、戦闘面で不安なことも多いので薦められません。アル様、お受けになりませんか?子供受けしそうですし」


「片道だけで一泊二日か。この商人一行だけで何人?」

「五人です。商人親子と従業員が三人。アル様、受けて下さいますか?後は護衛を決めるだけだってせっつかれて困ってるんですよ~」


 泣き付く相手は人を見てるらしい。さすが、王都の受付嬢だ。


「泊まりなしで移動の護衛だけなら。ただし、乗用魔道具使うから休憩入れても一時間もかからねぇ。荷物も大容量のマジックバッグに入れればいいし」


 速い速度に慣れてないだろうから、割とゆっくり目で。


「それなら返って喜ぶと思います!でも、依頼料は変わらずでいいんですか?魔道具なら魔石もたくさん使っているんじゃないです?」


「実験も兼ねるからこのままの依頼料でいい。今後もこの依頼料で受けるとは限らねぇから、間違わないように」


「分かりました。今回だけってことですね」


「基本は。条件次第で受けてもいいけど、乗合馬車みたいな商売をするつもりはねぇから。で、いつから?」


「一時間半後、門前でどうでしょう?」


「こっちはいつでも」


「では、手続きしますので、書類を持って今から『トルタハーダ商会』に行って下さい。依頼主は会頭のカルマン様。オレンジがかった赤色の髪の方なので、すぐ分かると思います。娘さんはフェイさん」


 本当にかなりせっつかれていたらしく、受付嬢は大急ぎで書類を作ってアルに渡した。

 いつでも、とは言ったが、今すぐか。

 他の人が乗る荷台部分はまだ作ってないのだ。

 急な依頼だし、かなりガタイのいい人、年齢より小さい子供なら作り直しが必要なので、合わせて作るのもいいか。ベルトを取り付ければ簡易型でいいのだが、バナナボート型はやめよう。


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新作☆「番外編08 異世界に歯科医師はいらない」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659271662150

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