169 掃除は最後まできっちり

【マスター、フォーコです。マスターが中庭に埋めた強盗たち、165名、いまだにあのままですが、よろしいのでしょうか。刑罰ではなく、王宮の人間では掘り出せませんでした】


 自動販売魔道具でのかき氷、冷水販売を終了した三日後。

 【飛竜の槍】その他のオークション当日に、フォーコがそんなことを報告して来た。


『ああ、ガッチガチに固めてやったしな。今更、報告して来るのはそろそろスッキリしたから?』


 別にアルは忘れていなかった。放って置いただけで。


【いえ、庭師が可哀想だったのです。中庭は封鎖されてますので庭師も入れませんから。それに、死刑ではなく犯罪奴隷に落とされるだけのようですので、それなら動けるよう怪我の治療はした方がいいのではないかと】


『いや、治療は必要ねぇ。甘い処罰だな。国家反逆罪なのに。じゃ、表向きは犯罪奴隷で実際はフォーコのダンジョンで引き取ろうか。3階の砂漠に』


【はい!お任せ下さい!マスターが強盗たちを掘り出して下されば、後はフォーコバタたちがやりますので。国王たちへの通達も】


『分かった。任せ…あ、ちょっと待った。国王とその側近、宰相にも3階の見学をさせてやれ。…って、すぐ死ぬか』


【死にますね。何も対策をしなければ】


『じゃ、おれの鍛錬ついでに面倒見てやるか。国王たちには危機感もプライドも足りねぇしな』


 …ということで、アルは強盗たちを掘り出すと、汚物垂れ流しの穴を下層と混ぜて整地し、その間にフォーコバタたちが強盗たちをダンジョン3階の砂漠フロアへと転移させた。

 アルが国王及び側近、宰相ご一行を影転移経由の空間転移で、同じく砂漠フロアへと連れて行く。


 途端に吹き出す汗に、アルは【チェンジ】で色の入ったゴーグルありの砂漠仕様に変更した。

 国王一行は単なる結界で、アルはアクティブの断熱結界に。強盗たちはそのままだ。


「フォボスダンジョン3階砂漠フロアへようこそ」


 いきなりの転移に驚愕している国王一行に、アルは親切にも六人掛けテーブルセットを出してやる。アルを除いても護衛二人が座れないが、まぁ、いいだろう。


「勅命違反は国家反逆罪、国王の権威を蹴飛ばすのと等しいのに、強盗たちは犯罪奴隷に落とす程度だという判決を聞いた。強盗たちは今まで散々やらかしてるのに、金を積めば解放される犯罪奴隷って危機感が足りなさ過ぎだろ。プライドも足りねぇから招待した。…まぁ、突っ立ってないで座れ。あんたたちに危険はねぇよ」


 一気に距離を詰めて来た巨大マンティスの大鎌をアルはカーキ色の指抜きグローブをした手の甲で流し、ジャンプして巨大マンティスの三角頭に拳を打ち込む。

 虫系の外殻は硬いのが定番らしいが、マンティスは例外だ。その代わり素早さに特化している。

 グシャっと潰れたのはマンティスの頭だけではなく、身体もだった。


 もう三匹続けて出て来たマンティスを同じように、アルは体術だけで倒す。砂漠という足場の悪い所での鍛錬なワケだ。

 体幹は元々鍛えてるので動き難いことはないが、何となく鍛えられているような気がする。


 空からはミラージュイーグル。

 幻影を見せる大きい鷹だが、状態異常耐性があるアルには意味なし。

 足場結界を使って高くジャンプした勢いのまま跳び蹴り。空飛ぶ魔物はバランスを崩したら、墜落するだけなので弱い。


「甘い処罰なのは、どうせ、こいつらと繋がってる貴族にねじ込まれたんだろうけど、そんな弱腰じゃ、近々暗殺されておしまいだぞ。この強盗たちの中には、暗殺や王族殺しといった称号持ちがゴロゴロいるしな」


 称号が付く程、殺しまくってる、ということだ。

 殺人の他にも、強姦、強盗、ゆすり、タカリ、詐欺、と犯罪のオンパレード。被虐趣味、幼女幼児愛好者までいる。

 だからこそ、アルも強盗たちに同情なんかまったくしない。

 それどころか、今現在、魔物に襲われて死にそうになっていると、血止めだけしてやる。簡単に死ぬのも腹立つので。

 ローリングサンドワームを瀕死にして、強盗たちにけしかけてみたり。


「だいたい、そんなギャンギャンうるさい貴族たちと、さくっとここに連れて来れるおれと、どっちが怖いのかも分からねぇ?いくら王宮の警備がザル過ぎで、近衛騎士もお飾りだとしてもさ」


「…き、貴殿はわたしたちに罰を与えるために連れて来たのではないのか?」


 三十代半ばの割には老けてる国王がおずおずと訊いて来た。


「いや、違う。言っただろ。危機感が足りねぇから招待した、と。魔法師団団長の件はかろうじて未遂だからセーフ。元、か。何であの程度で団長になれるのか不思議。名誉職ばっか過ぎだろ。Cランク冒険者の方が余程使えるぞ。死にたくねぇのなら警備体勢から見直せ」


「…あの、何故、そんな有り難い忠告をして下さるのですか?貴殿にメリットはないように思えるのですが…」


「単なるお節介だな。子供が転びそうになったら手を出して助けるだろ?そんな感覚。それに悪党を減らせば治安維持にもなる。…ああ、大丈夫。結界を張ってあるから」


 サンドリザードの群れがこちらに向かって来たのに気付いた国王一行は、慌てて椅子から立ち上がる。


「…結界?魔道具ですか?」


「いや、魔法。ドラゴンブレスも平気だから、サンドリザードごときにはどうにもならねぇよ。ローリングワームもな」


 紙コップに氷を入れた冷水を人数分出してやった。この短時間でも乾いて来ている。何の対策もしてない国王一行は。

 魔物の大群にも結界はビクともせず、強盗たちもそろそろ壊滅だ。

 さて、そろそろ刀の鍛錬をしよう。

 アルは国王たちに張っている結界の外に出ると、【チェンジ】でミスリル刀を出し、魔物の大群を片っ端から切り捨てて行った。

 百匹前後はいる。このぐらいの数がいないと鍛錬にならないので、フォーコが気を利かせたのだろう。


 その間に見苦しいからか、強盗たちの肉片や汚れまくった衣類は砂の下に消えていた。

 ドロップ品はいつものようにダイレクトに空間収納にしまう。

 アルが国王たちの結界内に戻ると、国王一行は立ち上がったまま、口をぽかんと開けたままだった。


「何?今更じゃね?おれが規格外なのは、とうに分かってるだろ」


「…で、ですが、あんな大群、ほとんど一瞬で…」


 今更でもまだ驚くらしい。

 アルはテーブルセットを片付けた。


「じゃ、暑いし、片付いたんで戻してやるかな。強盗の処分、表向きは犯罪奴隷に落としたことにしとけ。中庭から不自然に消えたのを探る奴がいても放っといていい」


「分かりました」


 返事を聞いてからアルは影転移経由の空間転移で、国王一行を執務室へ戻してやった。

 いい加減、空間転移でもいいんじゃないかと思うが、影に潜ってからの影転移の方が分かり易いし、空間魔法よりはまだ使い手もいるので。


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新作☆「番外編08 異世界に歯科医師はいらない」

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