168 ちゃんと働かないと人形にされる!
そこで、ようやく警備兵たちがだらだらと走って来た。形だけでも駆け付けました、な感じである。
「おーい、お前ら何やってる?」
「あーちょっと馬が暴れちゃいまして」
「ちょっと?ガンガンうるさいことになってるが?」
「すっげーな。あの魔道具。スレイプニルがあれだけ蹴ってるのに全然凹んでないぞ…」
「あんなに長い杭が刺してあったのか。凹んでもいない所といい防犯対策はされているってことで…」
「それより、隊長、捕まえないとマズイんじゃないです?どう見ても強盗でしょ、これ」
「勅命出てるのに強盗するとか」
「おいおい、兵士さんたちよ。見逃してくれたら山分けしてもいいんだぜ?お前さんたちだって面倒な仕事したくないし、安い給料に不満があるんだろ?」
「これがどれだけ値打ちモンか、分かってなさそうだけどな?一生遊んで暮らせるどころか、人生何十回とやり直せるぐらいだ。スレイプニルがこれだけ蹴っても傷一つないっていう材質一つとっても、鎧や盾にしたらって考えてみなよ?とんでもないお宝だぜ。それが何十個もあるんだ。あんたらも協力してくれたら、他のも持って行ける」
「はいはい、口が達者だな~。勅命が何なのかちゃんと理解しようよ。勅命を無視したら死刑だぞ」
「捕まったら、だろ。捕まらないし!ウチの馬たちは超速いからな!」
「お前の馬じゃねーだろ。おれの従魔だ。…ってことで、踏み潰されたくなければ、道開けな」
「そう簡単に通すか!…目標スレイプニルの上の人間二人。どうせ死刑だ。生死は問わん。撃て!」
やる気がなさそうだった警備隊隊長だが、舐められたのには腹が立ったらしく、ちゃんと指揮した。
後方にいた魔法部隊からファイヤーボールが飛んで来る。
が、残念。
スレイプニルが優秀過ぎて大半よけ、よけられなかったものは魔法で相殺してのける。
邪魔されて腹が立ったらしく、スレイプニルたちは警備兵の方を蹴散らして行く。警備兵の剣では届かず、槍も矢も刺さらない。スレイプニルは身体強化もしているらしい。
「一時退却!門を守れ!」
ちゃんと戦いました、という程度の戦闘でさっさと退こうとするが、スレイプニルたちが回り込んで退却させない。
魔法部隊も連発は出来ないようで、パラパラと申し訳程度に撃つ程度。そもそも威力が相当弱い。グルじゃなくても酷過ぎた。
潮時か。
アルは隠蔽を解き、空からスレイプニルの前に降り立った。
「『こおりやさん』店長だ。お前らのような頭の悪い奴らにも分かり易く見せてやるよ。勅命が出た理由を」
『頭の悪い奴ら』には強盗二人だけじゃなく、警備兵たちも含まれている。
アルはスレイプニルの前足を掴んで、防壁に叩きつけてやった!
身体強化なしで相手の力を利用する柔道技で。
もう一匹も乗ってる人間ごと一緒に投げる。
ここから防壁まで600mは離れていて間に建物もあるので山なりに投げたが、3mはあるスレイプニルでも余裕も余裕だった。
高ステータスは伊達じゃない。
「こんなんでも王都を守る警備兵か。弱過ぎ。ロクに仕事もせず、訓練もせず、プライドもねぇ。正に給料泥棒だな。人形でもいいんじゃね?」
驚愕で口を開けっ放しの連中に言い捨てると、アルは影転移で一瞬でスレイプニルの所へ。
身体強化もしていたのでこの程度じゃ死なないが、失神はしていた。
今のうちに隷属契約を破棄してやる。従魔契約より意志を縛られる隷属契約だった。隷属契約を見ること自体が初めてだが、魔力の鎖を読み魔力で解きほぐすだけだったので、意外に簡単に破棄出来た。
それから、手綱と鞍を外してからキュアとヒールをかけて起こす。
『手荒なことして悪かったな。隷属契約は破棄してやったから、好きな所で暮らすといい。防壁の外まで送ってやる』
スレイプニルはそう乱暴な性格ではないので、たびたび従魔にされているワケで。強いので野生に帰してもやって行けるし、草食なので討伐依頼も出ない。
念話がどこまで通じたか分からないが、暴れはしなかったので、さくっと影転移で防壁の外1kmぐらいの所に送ってやった。
後は強盗二人か。
防壁にたどり着く前に途中で落ちてるのでそれなりの怪我はしているが、死んでない。
アルは隠蔽をかけてまた影転移で王宮の中庭に転送して埋めてやり、その後は引き抜かれそうになっていた自販を回収し、地面は土魔法で
現場検証なんてしそうもないので構うまい。
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この後は強盗は出なかったが、商業ギルドに自販の仕組みを知りたがる研究者や魔道具師や錬金術師が押しかけたり、「これは商談だ!」と言い張り、『こおりやさん』店長に面会を求める商人が出たので、警備兵に連行されることとなった。
一体、どれだけ勅命が軽視されているのだろうか。
ちなみに、珍しく働いた警備兵はアルが言った言葉を「ちゃんと働かないと人形にされる!」と誤解したため、マジメに働くことにしたらしい。
『今の警備兵は首にして人形を置いておけばいいだろ』という意味だったのだが、マジメに働くのならそれはそれでいい。
明日はもう自販設置はやめようかと思ったのだが、普通の民たちは喜んでるし、コアたちの方が乗り気だったので、もう一日だけ何とか営業したのだった。
翌日もまた強盗が出た。
なんと欲深い人間が多いのか。
いい加減にして欲しいものがあった。
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新作☆「番外編08 異世界に歯科医師はいらない」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659271662150
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