167 スレイプニル頑張る!

【マスター、トーコバタです。防壁の門の側、五の通りにスレイプニル二匹が疾走。それぞれ乗ってる人がロープを振り回してますので、我らの自動販売魔道具が目的だと思われます。どうしますか?】


 スレイプニル、八本足の力の強い魔物だ。

 馬よりかなり大きいが、馬車を引いたり、騎獣として使われていることもある。

 普通の調教では従わないため、どちらかがテイマーだろう。


『杭が抜けるか興味あるな。そのままで。見物に行く』


 アルは念話でそう返してから、「ちょっと野暮用。またな」とセドロに断ってから、隠蔽をかけてからの転移で、トーコバタの言う五の通り上空へと出た。


 疾走と言うより爆走だった。スレイプニルを街中で駆けさせることは普通はないため、石畳も結構割れてる。

 並んでいた客たちはすごい音にとっくに避難している。


 男たちが持つロープも普通の物ではなく、丈夫な物っぽいが、普通に考えると自動販売魔道具でひっかかった時に手からロープが離れて、せっかくの馬力…パワーが台無しでおしまい、だろう。

 手から離れないマジックアイテムでも、人ごと落ちて終了、だ。

 ロープはフェイクで、中身さえ奪えればいい!とばかりに、自販にスレイプニルで突撃することも……本当に突撃した!


 しかし、作戦ではなく、止める乗り手の意図を無視して、スレイプニルたちが動いただけにしか見えなかった。結構、賢いと聞く魔物なので、「そんなやり方じゃロープを取り落とすだけだろうが、バカ!」なのかもしれない。


 自販の方は衝撃で杭がズレたようだが、それだけで無傷。

 ドラゴンブレスにも耐える結界が、この程度でどうにかなるワケがない。

 通り過ぎてそれに気付いたスレイプニルが、再び引き返し、今度は後ろ足で蹴り!


 ガンッ!ザシュッ…ガンッ!ガッ!…ザクッ!…ガンッ!ガンッ!…


 左右から二匹で交互に蹴って行くと、地盤が緩み、自販もさすがに斜めになる。


「よし、いいぞ!その調子だ!やれ!やれ!」


「…お、おいっ!よく見ろ!まったく凹みもしてねぇぞ…どれだけ硬いんだ…」


 自販の箱自体はそう硬くない。硬いのは結界だ。


『マスター、トーコバタです。近くで見ていらっしゃいますか?もう杭が抜けてしまいそうなんですが、まだこのままでしょうか?』


 隠蔽をかけているとトーコバタにもアルは見えないが、逆は探知魔法で察知している。


『ああ、このまま。どうやって自販を持って行くと思う?普通のマジックバッグには入らねぇのに』


 そういった仕様にしてあった。「自分ならどうするか?」と考えて。


『その検証も兼ねているワケですね!さすが、マスター。お考えが深いです』


『いやいや、普通に興味本位だけだから。それと、ここまで騒いでるのに警備兵はまったく来ねぇのかなぁ、という辺りも気になる所で。ひょっとするとグルかも』


『調べましょうか?』


『いや、すぐ分かるだろ。…しっかし、頑張ってるのスレイプニルだけじゃねぇか』


 囃し立てるだけの人間たちが鬱陶しくなったらしく、スレイプニルたちは自販を蹴るついでに身体を大きく揺すって人間を振り落とそうとしていた。

 よく見ると、スレイプニルたちの首に淡い鎖のような物がかかっている。隷属契約みたいなものの具現化か。それのせいで、逆らえず、動作のついでのような振り落とししか出来ないらしい。


『可哀想だ。後で開放してやろう』


 そこで、ようやく警備兵たちがだらだらと走って来た。形だけでも駆け付けました、な感じである。


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