166 勅命の効果ってどこ?

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『こおりやさん』に一切手出しすることを禁ずる。

 ただし、商売上は除く。

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 昨日の夕方には国王からちゃんと勅命が出たものの、翌日の今日も自動販売魔道具の強盗は出た。

 しかも、強盗団と言ってもいい五十人以上もの大人数での強盗だ。

 一ヶ所を狙うから阻止される、とでも思ったらしく、十ヶ所、五、六人ずつに分かれて。


 買っている客並んでいる客が巻き添えで怪我しそうになった所で、見回っていたコアバタたちがパラライズを撃ち込んで強盗たちを麻痺させた。

 そして、連絡を受けたアルが隠蔽して現場に行き、次々と転移させる。王宮の中庭の上空15mの地点へと。


 余程運が悪くなければ、死ぬことはないが、大怪我する高さだ。

 …いや、いくら何でも荒事を請負う連中なら一般人よりは鍛えていたらしく、麻痺して動けなくても怪我程度だった。身体強化もしたのかもしれない。

 血だらけにすると庭師が激怒しそうなので庭木や岩を避けるために、アルも一緒に転移して見届けていた。


 次から20mに変更したが、誰も死んでない。土と芝生の上だからか。頭以外は埋めておこう。

 五十人もの人間が頭だけ出して、後は埋められているのは、中々シュールな光景だった。

 いい年して泣いてる奴らも多い。ガッチガチに固めてやったので、当分、このままだろう。

 国家反逆罪なのでどっちみち極刑である。


【たった今、『こおりやさん』の自動販売魔道具を強盗しようとした連中を中庭に落として埋めた。至急、雇い主を探し出して対処するように】


 そして、風魔法で王宮内にそう声を届けた。

 これで仕事をしないのなら、こちらにも考えがあるが、王宮内の人間たちが慌てて動き出した。

 あらかじめ治安維持も兼ねて見回りぐらい出しておけ、という話だ。

 警備兵が長いことロクに働いていないので、そういった発想もないのかもしれないが、騎士たちも暇そうなのだから働かせろ。


 それにしても、前から不思議に思っていたが、魔法防御はまったくされていないのだろうか、この王宮。

 暗殺し放題、傀儡くぐつにし放題の上、出入り自由か。

 開かれた王宮は斬新かもしれないが、隠す程、政治なんかしていない気もする。

 …いや、待てよ?


『フォーコ、この王宮って魔法防御あった?』


 フォーコが壊したのかとちょっと考えてみた。


【いえ、まったくありませんでした。不用心ですね】


 やはりなかったのか。魔法防御があったら、壊していいかどうか、アルに一応確認が入るか。


『同感だ。平和が続いてるのか、王都だから安全だと思ってるのか、物理的な警備も杜撰ずさんだけどな』


【マスターなら、魔法防御があったとしても、どこでも入り込めそうですが】


『破ったことねぇから、分からねぇぞ。勢い余って建物ごと吹き飛ばすかもしれねぇし、それなら自信あったりするし』


【吹き飛ばしてしまっては目的が果たせないのでは。マスター用に魔法防御無効のマジックアイテムを開発しましょう】


『おお、そりゃいいな。よろしく』


 いつか使う機会があるんだ?と思うが、まぁ、備えあれば憂いなし、だ。

 アルは隠蔽をかけたまま、強盗に遭遇してしまった場所を巡って、客たちの反応を見て回ったが、もう元通り。

 対処が早過ぎて「不審な奴らがいたような?でも、今はいないし。そんなことより氷」で何が起こったのか分からなかったのだろう。

 思惑通りだ。


【マスター、ミーコバタです。商業ギルドに昨日の宮廷魔法師団団長が来ていて、マスターを探しています】


『謝罪がどうのって?』


【そう言ってます。セドロ様が勅命をタテに断っていますが、警備についての打ち合わせをしたい、と。こちらはそんなこと頼んでませんし、セドロ様が正しいですよね?】


『そうだ。そっちに行く』


 アルは隠蔽をかけたまま商業ギルドに転移し、宮廷魔法師団団長シグマの胃に直接睡眠薬をぶち込み、眠らせてやった。

 アルにはパラライズは使えない。

 そして、シグマを国王の執務室に転移させてから、紙を取り出し、


『商業ギルドに迷惑をかけるな。こいつも勅命を破って接触しようとしたぞ。しっかり管理しとけ。かろうじて未遂だ。今度は連帯責任を取らせる』


と書いて同じポイントに送った。手抜きである。

 アルは隠蔽を解いてセドロの前に姿を見せる。


「セドロさん、面倒かけて悪かったな。セドロさんの解釈で合ってるのに、頭の悪い連中ばっかでさ」


「…ああ、アル様。…どこから?」


「全部、聞いてる。仲間から連絡があったんだよ」


「いえ、どこからいらっしゃいました?」


「うるさそうだから隠蔽かけてただけ。団長は然るべき場所に送っといたんで問題なし」


「そうですか。有難うございました」


「いや、こっちの面倒に巻き込んだんで、礼はいらねぇって。…で、また強盗が出て今度は52人もいた。十ヶ所同時の強盗で何とかなると思ってる辺り、頭が悪いにも程がある。どうせ、どっかの貴族に雇われたんだろうから、王宮に押し付けといた。客たちは一瞬のことだったんで状況を把握してねぇよ」


「そう…ですか。って、また強盗が出たんですか。しかも、もう強盗団規模で…勅命が軽視され過ぎですね…」


「勅命なのにあまりに効果がなくて驚いてる所。国家反逆罪なんで実行犯並びに雇い主を公開処刑にしたら、国王の権威が少しは取り戻せるかも?…まぁ、そんな度胸なさそうだけど」


「そうでしょうね。今の国王が即位されてからは、王都の周辺ではスタンピードも起こってませんから。冒険者たちがせっせと間引きしているおかげで」


 いてもいなくても同じなら、王政は廃止して会議制にしたら、と思うアルだが、準備期間もなく移行するのは、それはそれで更に問題が出るので、余計なことはしない国王の方が民にとっても都合がいいかもしれない。


「それにしても、誰が見てもスゲェ魔道具を何十台も作れるおれたちなのに、何で防犯対策をしてないと思うんだろ?しかも、どいつもこいつも力尽くで、ロクに作戦なんか考えてねぇし」


「わたしも不思議で仕方ありません。何やら簡単な獣の罠を思い出しましたよ。檻に餌を入れて置いて餌を引っ張ると檻の出入口が閉まるという罠を」


「あー確かに似てる。罠のつもりはねぇけどな。警戒はする獣の方が賢いかも」


 あんなバカ連中と比べること自体、獣に失礼だが。


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