165 バカだから盗賊になるにしても酷過ぎ

 大分、日が陰って来た六時半。

 アルたちは自動販売魔道具の回収作業を始めた。


『本日の営業はこれで終わりになります。ご利用有難うございました。明日の営業は九時からとなります』


 列に並んでいる人たちまで、とやったらキリがないので、強制的に打ち切りだ。設置場所の人たちには、最初に言ってあるので文句は受け付けない。


 ここまで内蔵されている、と思わせて、実は隠蔽したコアバタたちが分身体を増やして手分けしてやっている。

 アルはコアバタたちに魔力提供だ。

 転移して自販の所へ行き、自販の杭を引き抜きマジックバッグに回収する、まではまだしも、魔法で地面や石畳を元に戻して転移、そして、次の場所へ、となると魔力が足りなくなるので。

 すぐ側にあるフォボスダンジョンのフォーコバタたちだけは、問題ないので、アルが手の回らないコアバタたちのフォローも頼んでおいた。


 回収した自販の入ったマジックバッグは、アルが一旦全部預かり、キエンダンジョン自販製造作業部屋へと置いて来る。補充した後、明日の朝コアバタたちにまた配る、という流れだ。


 そして、アルはキエンダンジョン温泉宿にて、自分で作ったローストドラゴン丼と具だくさんオーク汁、漬物の夕食を食べた後、食休みをしていると、売上金の報告をキーコバタから受けた。

 予想以上の売上だった。

 【チェンジ】だと一々手を触れないとならないので、空間収納にさくっとしまう。


『場所別の売上金額も書類にしてありますので、ご確認下さい』


「おお、有能。って、そこまでマジで稼ごうと思ってねぇんだけど」


『商売をやるからには稼ぎましょう。まだ同業者もいないようですし』


「まだ、じゃなく、何十年単位で同業者なんか出て来ねぇって。普通のやり方じゃ利益出ねぇし。あまり稼ぎ過ぎちまうのも、他の商人たちの物が売れなくなって差し障りがあるから、そこそこでいいんだって。こういった商売のやり方もある、と他の商人たちのいい刺激になればいいけどな」


『自動化までは無理にしても、売り方を考える、ですか』


「そう。実演販売とかセットなら更に安くとかな」


『実演販売とは、使い方がよく分からない物を使ってみせて売る、ということですか?』


「ああ。一回限りの物以外だな。毛皮だと服を作ってどれだけ温かいか着てもらう、とか、あまり普及してねぇ新しい調味料だと料理を作って味見させるとか。もちろん、味見の分は無料でその分は損するワケだけど、より大きい利益になれば問題ねぇだろ。そういったことを『損して得とれ』。元の世界ではそう言ってた」


『色んな商売の仕方があるものですね』


「王都なのに、そういった商売をやってねぇ方が驚いたって。おれのいた世界は文明的に進んでいたにしても、商売人はどこでも逞しいもんだと思ってたし。いや、別の意味で逞しいけど。盗賊出ても行商に行くし」


『盗賊ですか。たまにダンジョンにも来るんですよ。根城にしようとして魔物たちにられたり、冒険者たちを襲って返り討ちにされてますが』


「…バカじゃね?…ああ、バカだから盗賊になるんだろうけど、それにしたって酷過ぎ。ほんっとどこにでもいるんだな、盗賊」


『マスター、空や海には盗賊はいませんよ』


「空飛べたり、空飛ぶ魔道具を持ってたりしたら、盗賊なんかやってねぇだろうしな。海も同じく。…さて、魔法陣の勉強しよっと」


 アルはリビングから作業部屋へと移動した。

 手に入れてから一ヶ月以上経つが、【魔法陣の書】の入門編もいまだに分からない所だらけだ。修めれば【伝説の魔導師】という称号が付くのだから、並大抵の難易度じゃないのだろう。

 騎竜で移動中の時は、さすがに実験は出来なかったので、そこからだ。


 アルは別に魔導師になりたいワケではないのだが、魔法陣は奥が深く、汎用性も高いので、出来れば習得したい。

 それに、応用編には【異世界召喚・送還の魔法陣】もあるので、徐々に習得して行けば、元の世界を特定してこちらに召喚・送還出来るかもしれない、ということもあった。


 先の道のりは長そうなものの、まずは一つ一つ。

 この世界も楽しみながら。

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