164 藁人形を常に身に着ける…!?
一番目立つからか、商業ギルドのロビーに置いた自販が一番売れていて、アルが補充に来るのはこれで二度目だった。
…とはいえ、自販自体を新しい物と取り替えている。衆目の前で魔力と消耗品の補充をする所を見せるワケには行かないので。
補充が必要な物は後でキエンダンジョンの自販製造作業部屋に置いて来れば、コアが補充してくれる。
…ああ、お金は出しておかないと。数え易いよう100枚単位で麻袋に入れてもらおう。
「アル様、好調ですね!今回は行列のトラブルはほとんどないようですし」
セドロがそう声をかけて来た。
「強盗は四件出てるけどな」
午前中にフォーコが王宮に連れて行った強盗たち以降も三件の強盗が出ているので、同じく王宮に任せていた。
「でもって、宮廷魔法師団団長が自ら迎えに来たんで、国王と話付けて来た。明日にでも勅命が出る予定」
「……はい?」
「『商売以外で『こおりやさん』に手を出すな』と。商業ギルドにバカな話でねじ込む輩もいなくなるぞ。そうじゃなければ、国家反逆罪だ。ちゃんと話が分かる国王及び側近でよかったぜ」
話を分からせたワケだが、無駄に足掻く連中もいるのだから。
「……あ、はい。それはよかったです」
アルの規格外な所ばかり見ているからか、セドロはもはや諦観の域に入ったらしい。
「ってことで、このまま後二日は続けようかな。補充があるから自販は夕方に一度回収するけど、場所は一緒で朝には再び設置で。大量にある銅貨は100枚ごとに袋に入れるけど、確認は必要だろ。明日には数える要員を確保しといて」
「分かりました。すべて口座に預けますか?」
「ああ」
あちこち寄付でバラまくつもりだが、教会や孤児院は後ろ暗い所の紐付きになってたりすることも多いらしいので、コアたちが調査中だ。
このラーヤナ国に限らず、貧しい所へは援助する予定である。
「それから話は変わりますが、四日後にオークションがありますので、そちらに槍の方は出す予定です。告知をした所、既に欲しいという方々が何人も見えますので、かなりのお値段が付きそうです」
「分かった。…ちなみに、他の物もついでにオークションに出してってのはいい?」
「もちろん、構いません。ここでは何ですから、奥の部屋へどうぞ」
セドロに商談部屋に案内されたアルは、部屋に入るなり、ついでに売れないか、というアイテムを出した。
【ウイングマント】と【三日月の短弓】、そして、ステータスアップのマジックアイテムだ。+15も稀に出る程度で売るに売れなかったので八つ丸々ある。+20はちょうど五つあるのでダンたちにあげよう、と取っておく。
【ミスリルの丸盾】は分解して利用したのでもうない。
「…アル様、フォボスダンジョンを攻略なさってませんか。こうも効果の高いマジックアイテムをゴロゴロお持ちということは」
セドロは鑑定スキルは持ってないので、アルが説明したが、疑う余地はまったくなかったらしい。
「ははははは。で、この【ウイングマント】もかなり微妙な効果でさ。一般的な魔力量だと数分が限度だし、おれは普通に飛行魔法使えるし。【三日月の短弓】も普通の矢も使えるけど、魔力でも矢を作ることも出来て、それも魔力量によるからさ」
「…それでもかなり高額な値が付くアイテムばかりですよ。実用じゃなく、集めるのが趣味という好事家もいらっしゃいますし」
「あ、そういった人がいるなら、直で紹介して欲しい。効果が高過ぎて使うと死ぬかも、なアイテムもまだたくさんあるんだって」
「いや、それはちょっと責任持ちかねますので」
「ルートが分かるとやっぱマズイかなぁ。使えねぇようガッチガチに封印かけてもいいけど、定期的にかけ直す必要も出て来るし」
「アル様が持っていらっしゃるのが一番安全かと」
「結局、そうなっちまうんだよな。Aランクの人たちも、出すに出せねぇアイテムを溜め込んでるそうだしさ。…あ、まだもう一つあった。【身代わり人形】はどう?これは変な呪いとかもなく、致命傷を一度だけ身代わりする本当にスゲェアイテムなんだけど、常に身に着けている必要があって」
20cmぐらいの藁人形にしか見えない【身代わり人形】を出した。すっかり忘れていた。
「…これを常に身に着ける、ですか…」
「背に腹は変えられねぇから、常に身の危険がある王族や冒険者には売れると思うんだけど。あ、おれはいらない。もっと効果の高いマジックアイテムを持ってるから」
「では、一応、オークションに出してみましょう。書類を作りますから少しお待ち下さい」
そして、セドロはまた査定担当の女性と一緒に戻って来て、その女性が大興奮でウザかったのは言うまでもない。
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